初級翻訳・サーカスの怪人 第25話

サーカスの怪人

その縄を前の骸骨男の首にひっかけて、馬から引きずり下ろそうとしているのです。
小林少年は、後ろの自動車からそれを見ていました。
「おい、あれをごらん! 明智先生はカウボーイみたいに、投げ縄ができるんだよ!」
となりの井上君をひじでつついて、誇らしげに言うのでした。
「うん、さすがに明智君だな。こんな隠し芸があるとは知らなかった」
中村警部も感心したように、つぶやきました。
前の二頭の馬は、もう目の先にいます。
強いサーチライトの光がそれを照らしているのですから、どんな細かいこともありありと見えるのです。
二頭の馬は、矢のように飛んでいます。
骸骨男がひょいと後ろを振り返りました。
明智の馬のひづめの音が聞こえたからでしょう。
彼は明智の頭の上で、ぐるぐると回っている細引きに気がついたようです。
そのときです。
明智の右手がパッと伸びました。
そして、回っていた細引きが、輪を作ったままサーッと宙を飛んだのです。
後ろの自動車では、小林君たちが思わず、アッと声を立てました。
サーチライトの光の中に、骸骨男がまっさかさまに馬から落ちるのが見えます。
投げ縄は、見事に命中したのです。
骸骨男の馬は、そのまま走り去ってしまいました。
明智の馬が、地面に転がった骸骨男よりも前へ進みました。
骸骨男は、首にかかった細引きで、ずるずると地面を引きずられています。
骸骨男の左手が、首の細引きにかかっていました。
そうしなければ、首が締まって死んでしまうからです。
そして、右手でなにかしています。
黒いシャツのポケットから、なにか取り出しました。
よく見えませんが、ピカッと光ったようです。
あっ、ナイフです。
ナイフを細引きに当てました。
サッと右手が動きました。
すると、プッツリと細引きが切れてしまったのです。
骸骨男は、むくむくと起き上がりました。
そして、やにわに駆け出したではありませんか。
自動車の中の小林少年たちは、またしてもアッと声を立てて、手に汗を握りました。
そこは、ちょうど十字路でした。
骸骨男は、それを右に曲がって駆け出したのです。
明智はまだ気づかないで、まっすぐに走っていきます。
「車を止めろ! そして、あいつを追っかけるんだッ!」
中村警部が怒鳴りました。
キーッとブレーキの音を立てて車が止まりました。
パッとドアを開いて、警官たちが駆け出しました。
小林君たちも、そのあとにつづきます。
自動車には運転係の警官が残って、みんなの後を追いながら、サーチライトを照らしてくれました。
骸骨男は黒い風のように走っていきます。
その速いこと。
警官たちは、とてもかないません。
そのとき、町の向こうの方から、パッとギラギラ光った二つの目玉が現れました。
自動車のヘッドライトです。それは、先回りをして待ち伏せをしていた警察の自動車でした。
ヘッドライトの光の中に骸骨男の姿が浮かび上がると、車はすぐに止まり、中からどやどやと警官たちが飛び出してきました。
骸骨男は、これで前後を挟み撃ちにされてしまったのです。
もう、逃げ場はどこにもありません。
ついに骸骨男は覚悟を決めて、その場に立ち止まりました。
そこへ前後から警官たちが飛びかかっていき、折り重なるようにして怪物を押さえつけ、手錠をかけたうえに、ロープでぐるぐる巻きに縛り上げてしまいました。
手錠だけでは隙をつかれるかもしれないと、用心したのです。
明智探偵も現場に戻って馬から降り、中村警部と顔を見合わせて、この大捕り物の成功を喜び合っていました。

「明智君!」
縛り上げられた二十面相の骸骨男が、苦しそうな声で呼びかけました。
「僕の負けだよ。
もうこれ以上、隠し持っている奥の手はないから、安心したまえ。
おとなしく裁きを受けることにするよ。
しかし、君が投げ縄の名人だったとは知らなかったね。
見たまえ、首にこんな傷ができてしまったよ。」
確かに、二十面相の首には、細引きで擦れたまっ赤な跡が残っていました。
こうして、さすがの怪人二十面相も、ついにとらわれの身となったのでした。

小林君、井上君、野呂君の三人の少年たちは、この光景を見て、嬉しくてたまりません。
お調子者のノロちゃんは、もう黙っていられなくなりました。
「明智先生、万歳! 明智大探偵、万歳!」
踊り上がるようにして叫びました。
それを聞くと、いかめしい顔をしていた警官たちも思わず顔をほころばせ、その笑い声が、静かな町に大きく響き渡るのでした。

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