そこに計略があるのです。
安心して、ぼくにおまかせください。
こんどこそ、巨人をあっといわせてお目にかけます。
十一日といえば、まだ三日ありますね。
それまでにあなたも、びっくりなさるようなことがおこりますよ。
まあ、見ていてください」
名探偵がそれほどにいうものですから、園井さんも信用して、
「では、ばんじおまかせします。
どうかよろしくねがいます」
といって、電話を切りました。
その翌日の朝、さっそく園井さんをびっくりさせるようなことがおこりました。
きたないふうをしたひとりのくずやが、大きなくずかごをかついで、園井さんのやしきのうら門から勝手口へ、ノコノコとはいってきたのです。
あつかましいくずやです。
そこにいた女中さんは、あきれてくずやの顔をにらみつけました。
「くずはありませんよ。
だまって門の中へはいってきてはこまります。
さあ、早く出ていってください」
と、しかりつけるようにいいました。
すると、くずやはぶしょうヒゲのはえたきたない顔をきみわるくゆがめて、にやにやと笑いました。
そしていきなり女中さんのそばによって、その耳に口をあてて、なにかボソボソとささやいたのです。
女中さんはこわくなって逃げだしそうにしましたが、逃げだすまえにそのささやき声が聞こえてしまいました。
「えっ、じゃあ、あなたは……」
女中さんがとんきょうな声でそういいますと、くずやはまたうすきみわるくによにやと笑って、うなずいてみせるのです。
女中さんはおくの方へかけこんでいきました。
そして、またもとの勝手口へもどってきたときには、女中さんのほうもにこにこ笑っていました。
そしてていねいにくずやにおじぎをして、
「どうか、おあがりくださいませ」
といって、おくの方へあんないしました。
くずやはきたないどたぐつを勝手口にぬいで、女中さんのうしろからついていきます。
通されたのは立派な応接間でした。
くずやはくずかごをそばにおいて、大きな安楽いすにいばりかえってどっかとこしかけました。
そこへ主人の園井さんがはいってきて、
「あなたが、明智さんですか。
ほんとうに明智さんですか」
と、うたがわしそうにくずやの顔をじろじろながめました。
「そうですよ。
ぼくの変装はなかなか見やぶれませんからね。
じゃ、これをとりましょう。
さあ、どうです。
これなら、わかるでしょう」くずやはそう言うと、顔の無精ヒゲに指をかけ、それをめりめりと引きはがしました。
なんと、顔の皮膚そのものをめくってしまったのです。
その下からあらわれたのは、まぎれもない明智探偵の顔でした。
園井さんは「あっ」と言ったきり、次の言葉も出ません。
明智はほんのひとしきり素顔を見せたあと、またつけヒゲを顔にペタッと貼りつけました。
すると、あっという間にもとのきたないくずやに戻ってしまいます。
くずやはそばに置いていたくずかごの紙くずをかきわけ、二つの黒い漆塗りの箱を取り出してテーブルの上に並べました。
そして両方のフタを開けると、一方には金色の王冠が入っていて、もう一方はからっぽの箱でした。
「この王冠は、例のサーカスの少女たちがかぶっていたメッキの王冠のひとーつを借りてきたものです。
これが手品のタネになるんですよ。
しかし、このままではいけません。
お宅の『にじの宝冠』とそっくりの形に直さなければならないのです。
十一日まではまだ二日あります。
そのあいだに、宝石店に頼んで秘密裏にこれを直させるのです。
それには『にじの宝冠』を見せなければなりませんが、あんなたいせつな品を外へ持ち出すのは危険ですから、ぼくがここで写生して、その絵を宝石店に見せて直させることにします」
くずやに変装した明智の説明を聞いて、園井さんは何とも言えない不思議そうな顔をしました。
「にじの宝冠のかわりに、そのニセモノを巨人に渡してごまかすのですか?
しかし、あの抜け目のない奴が、そんなニセモノごときにだまされるでしょうか……」
「いや、ニセモノを渡すわけではありません。
あなたが持っていくのは、やっぱり本物のほうです。
そして、それを相手に渡すのです。
このニセモノを使うのは、そのあとですよ。
正一君を取り返してしまったあとで、ちょっとした手品をやるのです。
そのためには箱も同じでないと具合が悪いので、銀色の箱のかわりにこの黒い漆塗りの箱に本物の『にじの宝冠』を入れて持っていってください。
この箱も手品のタネのひとつなんです。
万が一、この手品が失敗したとしても、ぼくにはもっと確実な別の作戦も考えてあります。
その二つの計略で、必ず『にじの宝冠』を取り返してお目にかけますよ」
明智は自信たっぷりにそう言いました。
「そのもうひとつの計略というのは、一体どういうものなのですか?」
園井さんが心配そうにたずねます。
「それはしばらく秘密にしておきます。
まあ、やっぱりひとつの手品ですよ。
魔法と言ったほうがいいかもしれませんね。
賊の自動車に、細い糸がつくのです。
その糸がどこまでもうーんと伸びていくんです。
賊の自動車は、いくら走ってもその糸を断ち切ることができないのですよ」
明智はまるでなぞなぞのようなことを言いました。
まさか自動車に本当に糸を結びつけるわけではないでしょう。
そんなことをしたってすぐに切れてしまいますし、それに何キロもあるような長い糸玉なんて、とても大きくて隠しておけるはずもありません。
園井さんには、このなぞを解くことができませんでした。
しかし、明智が秘密にしておきたいと言うのなら無理にたずねることもせず、名探偵の知恵をすっかり信用することにしました。
そこで園井さんは「にじの宝冠」を金庫から取り出してきて、テーブルの上におきました。
明智はまたしてもくずかごの中から丸めた画用紙を取り出し、それを広げて鉛筆で写生を始めました。
二十分ほどで描き終えると、テーブルの上のからっぽの箱だけを残し、ニセモノの王冠はもうひとつの箱に入れて、写生した画用紙といっしょにくずかごの紙くずの中に隠しました。
「それでは、十一日には賊の手紙に書いてあったとおりにしてください。
あとはきっとぼくがすべて引き受けますから、ご心配なく!」
と念を押すと、くずやはかごをかついでそのまま帰っていったのです。
さて、名探偵の二つの手品は、いったいどのように実行されるのでしょうか?
そして、それは灰色の巨人の怪物団をうまくあっと言わせることができるのでしょうか?
(名犬シャーロック)
いよいよ十一日の夜になりました。
約束の八時すこし前、園井さんのやしきの百メートルほど東にある曲がりかどに、一台の自動車がヘッドライトを消したまま止まっていました。
運転手のほかに、後部座席にもひとりの男が乗っています。
自動車から三十メートルほどはなれた電柱のかげに、ひとりの男が隠れるようにしてキョロキョロとあたりを見まわしていました。
明智探偵や警察官などがあとをつけてくるといけないので、灰色の巨人の部下の男がしっかり見はりを務めているのです。
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