初級翻訳・ツェねずみ 第2話

ツェねずみ

それに、さわるのさえ汚いもののように、みんなから思われています。
ですから実は、ねずみ捕りのほうは人間よりも、むしろねずみたちの方に同情を感じていたのです。

けれども、たいていのねずみは怖がって、ちっともそばへ寄ってきません。
ねずみ捕りは、毎日やさしい声で呼びかけました。
「ねずちゃん、おいでよ。今夜のごちそうはアジの頭だよ。お前さんが食べている間、わたしはしっかり押さえていてあげるから。ね、安心しておいで。入り口をパタンと閉めるような、そんなひどいことはしないよ。わたしだって、もう人間にはこりごりなんだからさ。おいでよ。さあ。」
なんて声をかけるのですが、どのねずみも、
「へん、うまいこと言っちゃってさ。」
とか、
「へいへい、よくわかりました。そのうちおやじや息子と相談してからにしますよ。」
などと言って、そろそろと逃げていってしまうのです。
そして朝になると、顔を真っ赤にした下男がやって来て中を見て、
「また入っていないな。ねずみも賢くなったもんだ。ねずみの学校で教わっているのかもな。しかしまあ、もう一日だけ仕掛けてみよう。」
と言いながら、新しいエサと取り替えるのでした。

今夜も、ねずみ捕りは叫びました。
「おいで、おいで。今夜はやわらかな半ぺんだよ。エサだけあげるから。大丈夫だよ。早くおいで。」
すると、ちょうど通りかかったツェねずみが、
「おや、ねずみ捕りさん。本当にエサだけくれるんですか?」
と言いました。
「おや、お前は珍しいねずみだね。そうだよ、エサだけあげるんだよ。さあ、早くお食べ。」
ツェねずみはプイッと中に入って、むちゃむちゃむちゃっと半ぺんを食べると、またプイッと外へ出てきて言いました。
「おいしかったよ。ありがとう。」
「そうかい。よかったね。また明日の晩もおいで。」

次の朝、下男が来て中を見て怒って言いました。
「ええい。エサだけ持って行きやがった。ずるいねずみだな。しかし、とにかく中に入ったというのは感心だ。よし、今日はイワシだぞ。」
そしてイワシを半分つけて行きました。
ねずみ捕りはイワシをひっかけて、せっせとツェねずみが来るのを待っていました。
夜になると、ツェねずみはすぐに出てきました。そして、まるで恩を売るような口ぶりで、
「今晩は、約束通りに来てあげましたよ」
と言いました。
ねずみ捕りは少しムッとしましたが、無理にこらえて、
「さあ、食べなさい」
とだけ言いました。
ツェねずみはプイッと入って、ピチャピチャピチャッと食べると、またプイッと外へ出てきて、それから大げさに言いました。
「じゃ、明日もまた、来て食べてあげるからね」
「ブウ」とねずみ捕りは答えました。
次の朝、下男が来て様子を見ると、ますます怒って言いました。
「ええい。ずるいねずみだ。しかし、毎晩そんなにうまくエサだけ盗られるはずがない。どうも、このねずみ捕りめ、ねずみから賄賂(わいろ)をもらったらしいぞ」
「もらわん。もらわん。あまり人を見くびるな!」とねずみ捕りは怒鳴りましたが、もちろん、下男の耳には聞こえません。
今日も下男は、腐った半ぺんをくっつけていきました。
ねずみ捕りは、とんだ疑いをかけられたので、一日中プンプン怒っていました。
夜になりました。
ツェねずみが出てきて、いかにも面倒くさそうに言いました。
「ああ、毎日ここまでやって来るのも、並大抵の苦労じゃない。それに御馳走といったら、せいぜい魚の頭だ。いやになっちまう。しかしまあ、せっかく来たんだから仕方ない。食ってやるとするか。ねずみ捕りさん、今晩は」
ねずみ捕りは、針金をプリプリさせて怒っていたので、ただ一言、
「お食べ」
と言いました。
ツェねずみはすぐにプイッと飛び込みましたが、半ぺんが腐っているのを見て、怒って叫びました。
「ねずみ捕りさん、あんまりだよ! この半ぺんは腐ってる。僕のような弱い者を騙すなんて、ひどすぎる。償ってください! 償ってください!」
ねずみ捕りは、思わず針金をリュウリュウと鳴らすほど、激しく怒ってしまいました。
そのリュウリュウがいけなかったのです。
「ピシャッ。シーン」
エサについていた留め金が外れて、ねずみ捕りの入り口が閉じてしまいました。
さあ、もう大変です。ツェねずみは気が狂ったようになって、
「ねずみ捕りさん、ひどいや! ひどいや! うう、悔しい。ねずみ捕りさん、あんまりだ!」
と言いながら、針金をかじるやら、くるくる回るやら、地団駄を踏むやら、わめくやら、泣くやら、それはもう大騒ぎです。
それでも、「償ってください、償ってください」と言う力は、もう残っていませんでした。
ねずみ捕りの方も、痛いやら癪(しゃく)に障るやらで、ガタガタ、ブルブル、リュウリュウと震えました。
一晩中そうやって、とうとう朝になりました。
顔を真っ赤にした下男がやって来て中を見て、小躍りして言いました。
「しめた! しめた! とうとうかかったぞ。意地の悪そうなねずみだな。さあ、出てこい、小僧!」

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