あんなに赤く光る火は、何を燃やしたらできるんだろう」とジョバンニが言いました。
「サソリの火だよ」とカムパネルラが、地図と見比べながら答えました。
「あら、サソリの火のことなら、あたし知ってるわ」
「サソリの火って何だい?」とジョバンニが尋ねました。
「サソリが燃えて死んだ火なのよ。その火がいまでも燃えているんだって、あたし何度もお父さんから聞いたわ」
「サソリって、虫だろ?」
「ええ、サソリは虫よ。でもね、いい虫なのよ」
「サソリはいい虫なんかじゃないよ。僕、博物館でアルコール漬けになっているのを見たことがあるんだ。尾っこにこんな針のようなかぎがあって、それで刺されると死ぬんだって先生が言っていたよ」
「そうよ。だけどいい虫なの。お父さんはこう言ったのよ。昔、バルドラの野原に一匹のサソリがいて、小さな虫なんかを殺して食べて生きていたんですって。するとある日、イタチに見つかって食べられそうになったんですって。サソリは一生懸命逃げて逃げたけれど、とうとうイタチに捕まりそうになったわ。そのとき、目の前に井戸があって、そこに落ちてしまったの。もうどうしても上がれなくなって、サソリは溺れ始めたのよ。そのときサソリは、こう言ってお祈りしたというの。『ああ、わたしは今までいくつの命を奪ったかわからない。それなのに、わたしがイタチに食べられそうになったときは、あんなに一生懸命逃げた。それでも結局、こんなことになってしまった。ああ、何もかも無駄だった。どうしてわたしは、自分の体を黙ってイタチに差し出さなかったんだろう。そうすれば、イタチも一日生き延びられただろうに。神さま、どうか私の心を見てください。こんなにむなしく命を捨てるのではなく、どうかこのお詫びに、みんなの本当の幸せのために私の体を使ってください』と祈ったんですって。そうしたら、いつの間にかサソリの体は真っ赤な美しい火になって燃え出し、夜の闇を照らしているのを見たんだって。いつまでも燃えているのよ、とお父さんがおっしゃったわ。本当にあの火、あれのことだわ」
「そうか。見てごらん。あそこの三角標(測量用の印)が、ちょうどサソリの形に並んでいるよ」
ジョバンニは、その大きな火の向こう側に、三つの三角標がサソリの腕のように、こちら側には五つの三角標がサソリの尾や針のように並んでいるのを見ました。
そして、その真っ赤で美しいサソリの火は、音もなく明るく、ひたすらに燃え続けていました。
その火がだんだん後ろの方へ遠ざかるにつれて、みんなは言葉では言い表せないような、賑やかな楽器の音や、草花の匂いのようなもの、口笛や人々のざわざわという声を聞きました。
それはもうすぐ近くに町があって、そこでお祭りでも開かれているような気分でした。
「ケンタウルスよ、露を降らせておくれ!」と、今まで眠っていたジョバンニの隣の男の子が、向こうの窓を見ながらいきなり叫びました。
ああ、そこにはクリスマスツリーのように真っ青なモミの木が立っていて、その中にはたくさんの豆電球が、まるで千匹のホタルが集まったかのように灯っていました。
「ああ、そうだ。今夜はケンタウル祭だねえ」
「ああ、ここはケンタウルスの村だよ」とカムパネルラがすぐに言いました。
(原稿一枚分ほど欠落)
「ボール投げなら、僕、決して外さないよ」
男の子が大威張りで言い出しました。
「もうすぐサウザンクロス(南十字星)ですよ。降りる支度をしてください」と青年がみんなに言いました。
「僕、もう少し汽車に乗っているよ」と男の子が言いました。
カムパネルラの隣にいた女の子も、そわそわと立ち上がって支度を始めましたが、それでもやはりジョバンニたちと別れたくないような様子でした。
「ここで降りなければいけないのです」と青年は口をきりりと結び、男の子を見下ろしながら言いました。
「嫌だよ。僕、もう少し汽車に乗ってから行くんだい」
ジョバンニがこらえきれずに言いました。
「僕たちと一緒に乗っていこうよ。僕たち、どこまでだって行ける切符を持っているんだから」
「だけどあたしたちは、もうここで降りなければいけないのよ。ここから天上へ行くんだから」と女の子が寂しそうに言いました。
「天上になんか行かなくたっていいじゃないか。僕たち、ここで天上よりももっといい場所を作らなきゃいけないって、僕の先生が言っていたよ」
「だって、お母さんも行っていらっしゃるし、それに神さまもおっしゃるんだわ」
「そんな神さま、うその神さまだい」
「あなたの神さまこそ、うその神さまよ」
「そうじゃないよ」「あなたの神さまというのは、どんな神さまなんですか」
青年は笑いながら言いました。
「ぼく、本当のところはよく知りません。けれども、そんな神さまとちがって、本当の、たった一人の神さまですよ」
「本当の神さまはもちろん、たった一人です」
「ああ、そうじゃなくて、本当の、本当の、たった一人の神さまなんです」
「だから、そうではありませんか。私は、あなた方がいつかその本当の神さまの前で、私たちとお会いになることを祈っています」
青年はつつましく両手を組みました。女の子も、ちょうど同じようにしました。みんな本当に別れが惜しそうで、その顔色も少し青ざめて見えました。ジョバンニは、泣き出しそうになるのを必死でこらえました。
「さあ、もう準備はいいですか。もうすぐサウザンクロス(南十字星)ですから」
ああ、その時でした。見えない天の川のずっと川下に、青やオレンジなど、あらゆる光でちりばめられた十字架が、まるで一本の木のように川の中から立って輝き、その上には青白い雲が丸い輪になって、後光のようにかかっていました。
汽車の中が、まるでざわざわと騒がしくなりました。みんな、あの北の十字架の時のように真っ直ぐに立って、お祈りを始めました。あっちからもこっちからも、子供がうれしくて飛び跳ねるような声や、何とも言えない深いつつましいため息の音ばかりが聞こえました。そしてだんだん十字架が窓の正面になり、あのリンゴの果肉のような青白い銀の雲も、ゆっくりと、ゆっくりと回っているのが見えました。
「ハルレヤ、ハルレヤ」
明るくたのしくみんなの声が響き、みんなはその空の遠くから、冷たい空の遠くから、透き通った何とも言えずさわやかなラッパの音を聞きました。そしてたくさんの信号や電灯の明かりの中を、汽車はだんだんゆっくりになり、とうとう十字架のちょうど真向かいで、すっかり止まりました。
「さあ、降りるんですよ」
青年は男の子の手をひき、姉さんは自分の襟や肩を整えながら、だんだん向こうの出口の方へ歩き出しました。
「じゃあ、さよなら」
女の子が振り返って二人に言いました。
「さよなら」
ジョバンニは泣き出したいのをこらえて、怒ったようにぶっきらぼうに言いました。女の子はいかにもつらそうに目を大きくして、もう一度こちらを振り返って、それからあとは黙って出て行ってしまいました。
汽車の中はもう半分以上も空いてしまい、急にがらんとしてさびしくなり、風がいっぱいに吹き込みました。そして見ていると、みんなはつつましく列を組んで、あの十字架の前の天の川の岸辺にひざまずいていました。
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