あらゆる世界のできごとが、みんな集まっている」
そこで子どもたちは、急にいろいろなことを尋ね出しました。
一人が言いました。
「ここには図書館もあるの? 僕、アンデルセンのお話なんか、もっと読みたいなあ」
別のひとりが言いました。
「ここの運動場なら、何でもできるなあ! ボールを投げたって、きっとどこまでも飛んでいくんだ」
とても小さな子が言いました。
「僕はチョコレートがほしいなあ」
その大きな人は、静かに答えました。
「本はここにはいくらでもある。一冊の本の中に、小さな本がたくさん入っているようなものもある。小さな小さな形の本に、あらゆる本がみな入っているような本もある。お前たちはよく読むといい。運動場もある。そこで駆けっこを習うものは、火の中だって歩いて行くことができる。チョコレートもある。ここのチョコレートはたいそういいものだ。あげよう」
その大きな人は、ちょっと空の方を見ました。
すると一人の天人が、黄色い三角形を組み合わせた模様のついた立派な鉢を捧げて、まっすぐに下りてきました。
そして青い地面に降り立つと、敬虔(けいけん)な気持ちでその大きな人の前にひざまづき、鉢を捧げました。
「さあ、食べてごらん」
その大きな人は、一つを楢夫に渡しながら、みんなに言いました。
いつの間にか、みんなはそれぞれ一つずつ、その立派なお菓子を手にしていました。
それはちょっと舐めただけでも、体じゅうがすうっと涼しくなりました。
舌の先で青い蛍のような色や、オレンジ色の火、きれいな花の模様になってチラチラと見えるのでした。
そして食べ終わると、体中がピンと元気になりました。
しばらくすると、体の中からなんとも言えないいい香りが、ふわっと立ちのぼってきたのです。
「僕たちのお母さんは、どっちにいるんだろう?」
楢夫が急に思い出したように、一郎に尋ねました。
すると、その大きな人がこちらを振り向き、やさしく楢夫の頭をなでながら言いました。
「もうすぐ、お前の前にお母さんを見せてあげよう。お前はもう、ここで学校に入らなければならない。それから、お前はしばらく兄さんと別れなければならないんだ。兄さんはもう一度、お母さんのところへ帰るのだから」
その人は、一郎に言いました。
「お前はもう一度、もとの世界に帰るのだ。お前は素直ないい子どもだ。よくあのトゲの野原で、弟を捨てなかった。あのとき破れたお前の一足は、いまやもう、はだしで危ない剣の林を行くことができるぞ。いまのこの気持ちを決して忘れるな。お前の国には、ここからたくさん人たちが行っている。よく探して、本当の道を学びなさい」
その人は一郎の頭をなでました。
一郎はただ手を合わせ、目を伏せて立っていました。
それから一郎は、空の方から力いっぱい歌っている、すばらしい歌声を聞きました。
その歌声はだんだんと変わり、すべての景色はぼんやりと霧の中のように遠くなっていきました。
ただ、その霧のむこうに一本の木が白く輝いて立ち、楢夫があまりにもまぶしく立派な姿で立ちながら、何か言いたそうにかすかに微笑んで、こちらへちょっと手を伸ばしていたのでした。
五、峠
「楢夫!」
一郎が叫んだと思ったとき、急に新しいまっ白なものが見えました。
それは雪でした。
そして、眩しい青空が一郎の上に広がっているのを見ました。
「息を吐いたぞ! 目を開けたぞ!」
一郎のとなりの家の赤ひげのおじさんが、すぐ一郎の頭のところで身をかがめ、しきりに一郎を起こそうとしていたのです。
そして、一郎ははっきりと目を開けました。
自分は楢夫を固く抱きしめたまま、雪の中に埋もれていたのです。
まぶしい青空の下、村の人たちの顔や、赤い毛布、黒いコートがくっきりと浮かび上がり、一郎を見下ろしているのでした。
「弟は、どうだ! 弟は!」
犬の毛皮を着た猟師が、大きな声で叫びました。
となりの男の人が、楢夫の腕をつかんで確かめました。
一郎も見つめました。
「弟は、だめのようだ……! 早く火を焚け!」
となりの人が叫びました。
「火を焚いてもだめだ! 雪の上に寝かせろ! 寝かせろ!」
猟師が叫びました。
一郎は支えられて起こされながらも、もう一度楢夫の顔を見ました。
その顔はりんごのように真っ赤で、その唇は、さっき光の国で一郎と別れたときのまま、かすかに微笑んでいたのです。
けれども、その目は固く閉じられ、息は絶え、そしてその手や胸は氷のように冷たくなってしまっていたのでした。
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