初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第36話

ニールスのふしぎな旅

「わたくしは、この港を選び、造船所を築いて海軍を再建したお方、つまりこれらすべてのものを生み出した王さまに向かって、脱帽いたします!」
「感謝するぞ、ローセンブーム、よくぞ言ってくれた。そちは立派な人間じゃ、ローセンブーム。だが、そこにいるのは何者じゃ?」
見れば、ローセンブームのハゲ頭の上に、ニールス・ホルゲルッソンが立っているではありませんか。
しかし、ニールスはもう怖くありません。
白いそり帽を振って、叫びました。
「口ながくん、万歳!」
青銅の人は、地面をステッキでドシンと打ちました。
けれども、その人が何をするつもりであったのかは分かりません。
というのは、そのとき、お日さまが昇ってきて、それと同時に青銅の人も木の人も、まるで霧でできているかのように消えうせてしまったからです。
ニールスがじっと立ち尽くして、そのあとをぼんやり眺めていると、ガンたちが教会の塔から舞い上がり、町の上を行ったり来たりし始めました。
まもなくニールス・ホルゲルッソンの姿を見つけると、大きな白ガチョウが矢のように舞い降りてきて、ニールスを乗せていきました。

上 おわり

10 エーランド島へ

四月三日 日曜日
明くる朝、ガンたちはとある小さな島へ飛んで行って、食べ物を探しました。
そこでみんなは、二、三羽の灰色ガンに出会いました。
灰色ガンたちは、ガンの姿を見るとびっくりしました。
なぜなら、自分たちの親類にあたるガンという鳥は、陸地の上ばかりを飛ぶものだと思っていたからです。
灰色ガンたちは、いろいろと尋ねました。
そこでガンたちは、キツネのズルスケに追い回されていることを、残らず話しました。
話が終わると、アッカのように年老いていて、賢そうに見える一羽の灰色ガンが言いました。
「ズルスケがスコーネから追い払われたのは、あなたがたにとってはとんだ災難でしたね。あいつはきっと、言葉通りにラプランドまででも、あなたがたを追いかけていくでしょう。もしもわたしだったら、スモーランドを越えて北へは向かわないで、エーランド島へ回り道をして、あいつを迷わせるようにしますね。あいつの目をごまかしたいなら、あの島の南の端に二、三日とどまることです。あそこなら食べ物もたくさんありますし、仲間も大勢いますからね。あそこへ行って後悔するようなことは、まずないでしょうよ」
これは確かに、もっともな忠告です。
それでガンたちは、言われた通りにすることに決めました。
腹ごしらえを十分にして、さっそくエーランド島に向かって出発しました。
ガンたちの中には、いままでそこに行ったことのある者はいませんでしたが、灰色ガンたちが丁寧に道を教えてくれました。
なんでも、ずんずん南に進んでいけば、やがて大きな「鳥の道」に出るということです。
それはブレーキンゲの海岸に沿ってずっと伸びているそうです。
冬のあいだ大西洋の島々にいたたくさんの鳥が、これからフィンランドやロシアへ行こうとして、いまその道を飛んでいるのです。
そしてみんなは、途中で一休みするために、決まってエーランド島へ立ち寄るのだそうです。ですから、エーランド島へ行く道は、すぐにわかるとのことでした。
その日はとても穏やかで、まるで夏の日みたいにポカポカと暖かく、海の旅をするには申し分のないお天気でした。
ただひとつ残念だったのは、空がすっかり晴れ渡ってはいなくて、灰色の薄絹を広げたようにかすんでいたことです。
あちらこちらに大きな霧の雲が海面まで垂れ込めていて、遠くの景色を隠してしまっていました。
ガンたちが小さな島々から遠く離れると、海は鏡のようにピタリと静まり返りました。
そのため、ニールスが下を見下ろすと、まるで海そのものがどこかへ消えてしまったかのように思えました。
自分の下にはもう世界はなく、周りにはただ霧と空があるだけです。
ニールスはひどい目まいに襲われ、ガチョウの背中にしっかりとつかまりました。
今では、初めて乗ったときよりもずっと怖くてたまりません。
なんだか無事に目的地まで乗っていけそうもない気がして、このままでは今に落ちてしまうに違いない、と感じていました。
灰色ガンたちが言っていた大きな「鳥の道」に入ると、事態はますます悪くなりました。
見渡すと、本当にいくつもの鳥の群れが、同じ方向に飛んでいます。
その中には、カモ、灰色ガン、クロトリ、ウミガラス、ウミガモ、オナガガモ、アイサガモ、カイツブリ、ミヤコドリ、ウミマツドリなどが混じっていました。
ニールスは体を乗り出して、本来なら海があるはずの下の方を眺めました。
すると、たくさんの鳥の群れが水面に映っているのが見えました。
ところが、頭がフラフラしているので、どうしてそんなふうに見えるのか、よくわかりません。
ニールスは「きっと、鳥たちはみんなお腹を上に向けて飛んでいるんだな」と思い込んでしまいました。
なにしろ頭がぼんやりしていて何が何だかさっぱり分からない状態でしたから、そんな光景を見ても、さほどびっくりはしませんでした。
鳥たちは疲れ切っていたので、一刻も早く島に着こうと焦っていました。
叫び声を上げるものもいなければ、冗談を言い合うものもいません。
その様子は、何もかもがこの世のものとは思えないほど不思議でした。
「地球から離れてしまったとしたら、どうだろう!」と、ニールスは独り言を言いました。
「もし天へと昇っていくのだとしたら、どうだろう!」
周りには霧と鳥のほかには何も見えません。
そのうちに、天へ昇っていくというのも、そんなに不思議なことではないような気がしてきました。
そして、天へ行ったらどんなものが見られるだろうかと思いを巡らせると、ニールスはとても楽しくなりました。
そう思った途端、不思議と目まいは消えました。
そして、今自分はこの世を離れて、天へと昇っていこうとしているのだと考えると、たまらなく愉快な気持ちになりました。
その時、突然「ダン、ダン」と鉄砲の音が響きました。
見ると、白い煙が二筋立ち上っています。
その瞬間に、鳥たちは急にざわめき立ち、「猟師だ! 猟師がいたぞ! 高く飛べ! もっと高く飛べ!」と叫びました。
これでようやくニールスにも、自分たちは天上にいるのではなく、相変わらず海の上を飛んでいるのだということがはっきりと分かりました。
海の上には、猟師たちがたくさん乗った小舟がずっと並んでいて、そこから「ダン、ダン」と鉄砲を撃っているのが見えます。
一番先頭を飛んでいた鳥の群れがそれに気づいたときにはもう遅く、あっという間に何羽もの黒い体が海の上へと落ちていきました。
生き残った鳥たちは、落ちていった仲間たちのために悲しい鳴き声をあげました。
ニールスの心は、恐ろしさと悲しさで張り裂けそうでした。
無理もありません。ついさっきまで、自分は天国にいるものとばかり思い込んでいたのですから。
ガンの隊長アッカは、全速力で空高く舞い上がりました。
ガンの群れも、そのあとから力いっぱいの早さで続きました。
こうして、ガンたちは傷一つ受けることなく、無事に逃げ切ることができました。
ニールスは心から感心して言いました。

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