でも、人間の頭脳とはどこか違うのよ。
なんだかちがう、まるで異星人みたいに風変わりなの。
うまく言葉にできないけれど、オスカーが一度も質問をしてこなかったことに気づいた? 1回もよ」
「たしかにな、どうして質問してこなかったんだ? 変だな」
「すごく変よ。
もし普通の人間なら、自分以外で考える生き物に出会ったら、あれこれたくさん質問するものだわ。
私たちだっていっぱい質問したじゃない」
白い煙でその感慨を吹き飛ばしながら、パットは続けた。
「それだけじゃないわ。
あの3つ目の怪物が仲間を襲ったときのマジメじゃないというか、あまりの無関心ぶりといったら、人間どころか地球の生き物ですらありえないわよ。
クモがたくさんのハエの中から1匹捕らえても残りのハエが騒がないのは見たことがあるけど、でも知性のある生き物でそんなことが起こるかしら? ありえないわ。
あんなに頭の悪いシカの群れだって、スズメの群れだってそうよ。
1匹が殺されたら、みんな怖がるもの」
「そうだな、パット。
まったく変な連中だ。
オスカーの仲間たちってのは、おかしな動物だな」
「動物ですって? よく知らないのに適当なこと言わないでよ、ハム」
「知らないって、どういうことだ?」
「オスカーの一族は動物なんかじゃないわ。
植物よ。
温かい血が流れる、歩き回る植物なのよ。
話をしている最中、周囲の地面に自分の体を埋め込んでいたわ。
あれは根っこよ。
足のように見えたものは、ただのさやだったのよ。
あれで歩いていたわけじゃなくて、根っこを引きずっていたの。
それにね……」
「それに何なんだ?」
「それにね、ハム、あのさやは、あの3つ目の怪物が永遠の山の峡谷で私たちに投げつけてきたものと同じものよ!
息ができなくなって窒息させられた、あの莢よ」
「きみを気絶させたものだっていうのか?」
パットは少し顔を赤らめながら答えた。
「とにかく、私たちは十分に勉強させてもらったわ。
でもハム、これは大きな謎のほんの一部分にすぎないわね。
オスカーの頭脳は、植物のものなのよ」
パットが話を止めてタバコをふかすと、ハムもパイプにタバコをつめ始めた。
パットが突然、思い出したように尋ねた。
「ねえ、オスカーの一族がいることで、人間が金星を征服するのに何か脅威になると思う? あいつらは夜側の住人だと思うけれど、もしこの場所で鉱山が発見されたらどうなるかしら? 商業的に開発できるってわかったらどうする?
人間は永遠に太陽の光を断ったまま生活することはできないと思うから、ここにも一時的な拠点が必要になるかもしれないわよね。
そのとき、どうなると思う?」
「さあな、そのときどうなるんだろうな?」
「そうねえ、そのときどうなるのかしら? 同じ惑星に知性を持つ種族が2つも共存する余裕なんてあるのかしら? 遅かれ早かれ、お互いの利益がぶつかり合うんじゃない?」
「それがどうしたって言うんだ。
パット、あいつらはまだ原始的だぞ。
洞穴に住んでいて、文化も武器もないんだ。
人間にとって危険なわけがないさ」
「でも、あんなにすごい知性なのよ。
どうしてそんなことが言い切れるの? 見たでしょう、あいつらはただの野蛮人なんかじゃないわ。
あの広大な闇の世界のどこかに、自分たち独自の植物の文明があるかなんて、私たちにはわからないじゃない。
文明は人間だけの特権じゃないってことを、あいつらは知っているのよ。
だって、火星のすごく寂れた文明の跡や、タイタンの遺跡を見ればわかるでしょう。
人間なんてたまたま『奇妙な文明』っていう看板を持っているにすぎないんだから。
少なくとも、これまではね」
「まったくその通りだな、パット。
でも、もしオスカーの一族が少しも戦おうとしないし、あの凶悪な3つ目の奴らにも立ち向かわないなら、大した脅威にはならないんじゃないか?」
パットはブルッと身震いして言った。
「それが全然わからないのよ。
もしかしたら……」
パットは眉をひそめて言葉を濁した。
「もしかしたら、なんだ?」
「わからないわ。
ある考えが浮かんだの。
すごく恐ろしい考えなんだけれど……。
ハム、明日、オスカーの知能を正確に調べてみましょうよ。
あいつらがどれくらい知的なのか。
私たちにできるかしら」
しかしながら、そこには一つ大きな問題があった。
ハムとパットが奇妙な地面をとことこと歩いて氷の壁に近づいたとき、全く困り果ててしまったのは、ずらりと並んだ穴のうち、いったいどれがさっきまでオスカーと話していた穴なのか、全く見分けがつかないことだった。
宇宙服のヘルメットのライトに照らされて、どの穴もみんな同じに見えた。
穴の入口にいる生物たちは、まぶたのついた目をじっとこちらに向けているだけで、表情なんてまったく読み取れなかった。
困り果てたパットが声をかけた。
「さあて、とにかく試してみなくちゃね。
そこのあなた、あなたはオスカー?」
カシャカシャと音が響いた。
「はい」
するとハムが首をかしげて反言した。
「いや、そんなはずはない。
オスカーはずっと右の方にいたはずだ」「おい、お前オスカーか」
別の声がカシャカシャと返事をした。
「はい」
「2人とも、オスカーにはなれないよ」
パットが選んだ生き物がそう答えた。
「ぜんいん、オスカーです」
パットがすかさず割り込み、ハムの抗議を先回りした。
「ああ、気にしなくていいわ。
どうやら1人が知っていれば全員が知っているみたいだから、どれを選んでも同じことよ。
オスカー、きのう、あなたは自分のことを知性体だって言ったよね。
私より賢いの?」
「はい、ずっと賢いです」
それを聞いてハムがケラケラと笑った。
「はっはっは。
パット、一本取られたな」
パットはフンと鼻であしらってみせた。
「そうね、そこのヤンキーさんよりは遥かに賢いわよ。
ねえオスカー、今までうそをついたことある?」
半透明のまぶたの上に、さらに不透明なまぶたが下りてきて、甲高い声でオウム返しにした。
「うそ、いいえ、そんな必要はありません」
「それじゃあ、聞くけど……」
そのとき、突然ポンという鈍い音がして会話が遮られた。
「あれは何? ねえ見て、ハム。
莢(さや)が1個はじけたわ」
パットが思わず後ずさった。
鋭いつーんとする臭いが鼻をつき、あの峡谷での危なかった出来事が思い出されたが、今回はそこまで強烈ではなく、ハムを窒息させたりパットを気絶させたりするほどではなかった。
鼻をツンと刺激するけれど、まったく不快ではない。
「オスカー、あれはいったい何なの?」
「あれは、その……」
声が途中で途切れた。
「繁殖?」
とパットが推測してみる。
「はい、繁殖です。
風がお互いの胞子を運びます。
風のあるところで育ちます」
「でも、きのうは分裂だと言ったじゃない」
「はい、胞子が我々の体にくっついて……」
またしても声が止まった。
「受精なの?」
とパットが先走る。
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