初級翻訳・一寸法師 第3話

一寸法師

しかし、紋三の前を二、三歩通り過ぎた時、一寸法師の懐から何か黒いものがポロリと転がり落ちました。
繻子(しゅす)の風呂敷のようなもので包まれた、三十センチほどの細長い品物でしたが、風呂敷の端がほどけて、中身が少しだけのぞいていました。
それは明らかに、青白い人間の手首でした。
きゃしゃな五本の指が、断末魔の苦しみを表すかのように空をつかんでいました。

その奇形児は、誰も見ていないと思ったのか、特に慌てる様子もなく、包みを拾い上げると懐にねじ込み、急ぎ足で立ち去りました。
紋三は一瞬、ぼんやりとしてしまいました。
一寸法師が人間の腕を持っていることが、なぜか極めて当たり前なことのように思えたからです。
「馬鹿な奴だな、大事そうに死人の腕なんか懐に入れてやがる」
どこか滑稽な気さえしました。

しかし次の瞬間、紋三は激しく興奮していました。
「奇怪な奇形児」と「人間の腕」という組み合わせが、ある血なまぐさい光景を連想させたからです。
彼は勢いよく立ち上がると、一寸法師の跡を追いました。
音を立てないように気をつけて石段を降りると、すぐ目の前に奇形児の後ろ姿が見えました。
相手に気づかれないよう、適度な距離を保って尾行を続けました。

紋三はそうして追いかけながら、なんだか夢を見ているような気分でした。
暗い場所で一寸法師が突然振り返って、「バア!」とでも言い出しそうな気がしました。
それでも、何か妙な力に引き寄せられるように、一寸法師の後ろ姿からどうしても目をそらすことができませんでした。

一寸法師はチョコチョコと小刻みに、思ったよりも早く歩いていきます。
暗い細道をいくつも曲がり、観音様の御堂を横切って、裏道伝いに吾妻橋の方へと向かっていくのでした。なぜか寂しい場所、寂しい場所へと選んで進むので、すれ違う人もほとんどいない。ひっそりとした夜更けの通りをたった一人で歩いている一寸法師の姿は、よりいっそう妖怪じみて見えました。

彼らはやがて、吾妻橋(あづまばし)のたもとにたどり着きました。
昼間の賑やかさとは打って変わって、橋の上にはほとんど人影がなく、鉄の欄干が長々と続いています。時折、自動車が橋を揺らしながら通り過ぎていきました。それまでは脇目もふらず急いでいたあの不気味な男が、橋の真ん中でふと立ち止まりました。そして、いきなり後ろを振り返ったのです。

十間(約十八メートル)ほど後ろを尾行していた紋三は、この不意打ちに驚き、慌てふためきました。見通しの良い橋の上なので、とっさに身を隠すこともできず、仕方がないので普通の通行人を装ってそのまま歩き続けました。

しかし、一寸法師は明らかに尾行されていることに気づいた様子でした。彼はその時、懐に手を突っ込んで、例の包みを取り出しかけたのですが、紋三の姿を見つけると慌てて手を引っ込め、何食わぬ顔をして再び歩き出しました。

「あの野郎、女の腕を川の中へ捨てるつもりだったな」
紋三は、事態がいよいよただ事ではないと感じました。彼は以前、昔からある死体の隠し方について書かれた記事を読んだことがありました。そこには、殺人犯は死体を切断することがよくあると書かれていました。一人で持ち運ぶためには、死体を六つか七つの断片にするのが一番手頃だというのです。そして、頭はどこそこの敷石の下に埋め、胴体はどの水門に捨て、足はどの溝に投げ込んだ、といった犯罪の実例がたくさん並んでいました。それによると、犯人たちは死体の断片を、できるだけ遠い場所に別々に隠したがるものらしいのです。

相手に尾行がバレたかと思うと少し怖くなりましたが、それでも追跡を諦める気にはどうしてもなれませんでした。紋三は前よりもさらに距離をとり、ビクビクしながら一寸法師の跡をつけました。

吾妻橋を渡りきったところに交番があり、赤い電灯の下で一人の警察官がぼんやりと立っていました。それを見ると、紋三はいきなりそこへ駆け込んで知らせようかとも思いましたが、ふとあることを考えて踏みとどまりました。今、警察に知らせてしまうのは、なんだか惜しいような気がしたのです。

彼のこの尾行は、決して正義感からやっているのではなく、何か異常なものを求める激しい冒険心に引きずられているに過ぎませんでした。もっと先まで突き進んで、血なまぐさい光景を目撃したかったのです。そればかりか、彼は犯罪事件の渦中に巻き込まれることさえ厭いませんでした。臆病者のくせに、彼は一方で、命知らずな捨て鉢なところがあったのです。彼は交番を横目に見て、少し得意な気分にさえなりながら、なおも尾行を続けました。

一寸法師は大通りから、中の郷(なかのごう)の入り組んだ裏道へと入っていきました。その辺りは貧民窟などもあり、東京にもこんな場所があったのかと思われるほど、複雑な迷路のようになっていました。相手はそこを何度も曲がるので、尾行はますます困難になっていきます。紋三は交番から三町(約三百メートル)も歩かぬうちに、もう後悔し始めていました。

片側は真っ暗に戸を閉めた民家、もう片側はまばらな杉垣で囲まれた墓地へと出ました。たった一つだけ灯る五燭(ごしょく)の街灯が、倒れた石碑などを照らしています。そこを、頭の大きな怪物がヒョコヒョコと急いでいる姿は、どこか現実離れしていました。今夜の出来事は、最初から夢の中の出来事のように思えます。今にも誰かが「おい、紋三さん、紋三さん」と揺り起こしてくれるのではないか、そんな気がしました。

一寸法師は尾行者に気づいているのかいないのか、長い間一度も後ろを振り返りませんでした。しかし紋三の方は十分用心して、相手が一つの角を曲がりきるまでは姿を現さないように、軒下から軒下へと伝って歩きました。

墓地を一つ曲がると、小さな寺の門に出ました。一寸法師はそこで一瞬後ろを振り返り、誰もいないのを確かめると、ギイと潜り戸を開けて門の中に姿を消しました。紋三は隠れ場所から出て、大急ぎで門の前まで行きました。そして、しばらく様子をうかがってからそっと潜り戸を押してみましたが、内側からかんぬきがかけられているようで、びくともしませんでした。

潜り戸の閉まり具合からすると、一寸法師はこの寺の中に住んでいるのかもしれません。ですが、必ずそうとは限りません。そうこうしている間にも、あいつは裏の墓地の方から逃げ出しているかもしれないのです。紋三は大急ぎで元の道を戻り、杉垣の破れ目から寺の裏手をのぞいてみました。

すると、墓地の向こう側に庫裏(くり)らしい建物があり、ちょうどそこの入り口を開けて、誰かが中へ入るところでした。その時、戸の隙間から漏れる光に照らし出された人影は、疑いもなく不格好な一寸法師に違いありませんでした。人影が庫裏の中に消えると、戸締まりをするらしい金物の音がかすかに聞こえました。

もう疑う余地はありませんでした。一寸法師は意外にも、この寺に住んでいたのです。紋三は念のため、杉垣の破れ目をくぐって庫裏の近くまで行き、しばらくの間、見張り番を続けることにしました。建物の中は電灯を消したようで、光ひとつ漏れてこず、耳を澄ましてもコトリとも物音はしませんでした。

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