初級翻訳・三つのお人形 第2話

三つのお人形

なぜなら、二度目に私がその家の窓をのぞいたときには、すっかり人形たちは荷造りされた様子でしたから……」
つばめは、こう物語ったのです。
街灯は夜になったときに、ふたたびこのことを踊っている人形に話しました。
「あのお人形は、どこへいっても可愛がられるでしょう」と、人形は沈みがちに、踊りながらいいました。

三

それからまもない、ある日のことでした。
酔っぱらいの紳士が人形屋の店先へ入ってきて、いろいろな人形を出させて見ていましたが、どれも気にいりませんでした。そのうち踊っている人形に目をつけると、さっそく手に取りあげて「これがいい」といって金を払い、例のごとく箱にいれてもらって持っていきました。
その晩、街灯は店先を照らしてびっくりしました。踊っている人形の姿が見えなかったからです。
「とうとうあのお人形さんも、どこかへいってしまった」と、街灯はひとりごとをしました。
酔っぱらいの紳士に連れていかれた人形は、気が気でありませんでした。自分はどんなところへ連れていかれるのだろう? 暗い箱の中でずっとそう考えていました。
紳士は電車に乗ると、うとうとと居眠りをしました。そしてふと気がつくと乗り越していましたので、びっくりして電車を飛び降りました。家へ帰るまで、人形をどこかへ忘れてきたことに気づかなかったのです。
不幸なこの人形は、それからいろいろな目に遭いましたが、その年の夏の終わりの時分には、ほかの古道具などといっしょに、露店に並べられていました。
「おちぶれても踊っているなんて、のんきなものですね」と、こちらのすみで、すずりと筆立てが、あちらの人形を見て冷笑していました。
しかし、露店の主人は人形を大事にしました。車に乗せて運ぶ時分にも、手や足を痛めはしないかと新聞紙で巻いて、できるだけの注意をしたのです。
「美しいものは、ちがったものだ。」「……そうやって大切にされるなんて、ずるいですね」と、ほかの古道具たちは、自分たちがそこまで可愛がられないことに不平を漏らしました。
しかし、人形は昔のことを思い出すたびに、お友だちは今ごろそれぞれ落ち着いた場所で、平和に暮らしているのだろうと想像しました。
自分だけがいまだに身の上が定まらず、あちこちを転々としていることを悲しく思いました。
そんなある日のことです。
いつものように露店に並べられていると、かたわらに新しくどこからか売られてきた、電気スタンドが置かれました。
「私は今日、ここへ仲間入りに来たのですが、あなたと姉妹のようにそっくりなお人形さんと、ついさっきまで一つの家で暮らしていましたよ」
スタンドは、じっと踊っている人形を見つめながら言いました。
「どんな様子のお人形ですか?」
踊っている人形は、スタンドの話に引き込まれるようにして尋ねました。
なぜなら、自分の知りたいと願っていたお友だちの身の上のような気がしたからです。
「ちょうどあなたと同じくらいの背丈で、すらりとすまして立っているお人形でした」
「それなら、私と仲の良いお友だちです! 私はどれほど、その方の身の上を知りたいと願っていたことか。どうか、私にくわしくお話を聞かせてくれませんか」
人形はそう頼みました。電気スタンドは、次のように語り始めました。
「私がいた家のお嬢さんが、ある日、街から美しい立ち姿のお人形を買って帰りました。家じゅうの人たちは『まあ、なんてきれいなお人形でしょう』と言って、棚の上に飾りました。そして、それまで棚に載せてあった古いつぼや汚れたおもちゃたちは、新しくやってきたお人形に蹴落とされるようにして棚から取りのぞかれ、立ち姿の美しいお人形だけが、そこをひとり占領したのです」
「すると、それまで棚の上にいたつぼやおもちゃたちは不平を言いました。『あのお人形が来たばかりに、私たちは棚から降ろされて、箱の中へ押し込められてしまった。本当に憎らしいお人形だ』と言ったのです。すると、耳の取れた馬のおもちゃが、口の欠けたつぼに向かって『そんなに不平を言ってはいけません。いつかあのお人形も、私たちのようになる時が来ますよ』と言ってなぐさめました」
「それは、まさしくお馬の言った通りでした。ある朝、お嬢さんが掃除をしようとして、はたきで誤ってお人形を落としてしまったのです。そのはずみに、お人形の片手がもげてしまいました。お嬢さんはびっくりして、すぐにのりで取れた手をつけましたが、どうしても傷跡は消えませんでした」
「このお人形がこうして壊れてしまうと、箱の中に入れられていた口の欠けたつぼや、耳の取れたお馬やほかのおもちゃたちは、また取り出されて棚の上に並べられたのです。もはや、あのお人形だけが完全だとは言えなくなったからです。それで今は、お人形もおもちゃたちも平等にもてなされて、みんな仲良く平和に暮らしています……」
スタンドはそう話しました。
踊っている人形は、こうして二人の友だちの消息を知ることができました。
一つは外国へ行き、一つはお嬢さんの家で暮らしていることが分かったのです。
けれど、自分のことをどうすればあの二人の人形に知らせることができるのでしょう?
「もしお友だちが、私がまだこうして街の露店にさらされていると知ったら、なんて不幸な方だとあわれんでくださるにちがいありません」
と、踊っている人形は言いました。
「いいえ、そうではありませんよ。きっと二人の友だちは、今ごろ退屈していて、この明るく華やかな街をもう一度見たいと思っているはずです。そして、あなたの今の暮らしをうらやましがっているに違いありません」
と、電気スタンドは言いました。
なぜなら、人の境遇というものは、外から見れば何でもよく見えるものですから……。
毎晩、大空を照らす月だけは、みんなの運命を知っていました。
そしてある晩のこと、月はあの街灯にも、踊っている人形の今の様子を話したのでした。

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