「AK(東京放送局)の文芸部に聞いてくださればすぐに分かりますよ。
つまり手短に言うと、私の書いたラジオドラマが今夜8時から30分間、全国に放送されたんです。
出演者はPCL(映画会社)の連中でしたがね。
そんなわけで、私はずっとAKのスタジオにつきっきりだったんですよ。
なんなら、もらってきた原作料と演出料の入った封袋をお見せしてもいいんですがね」
「ああ、あの『空襲葬送曲(くうしゅうそうそうきょく)』というラジオドラマだね」
と、帆村が横から口を出しました。
「そうです!
もしかして、聞いていてくださったんですか?」
「ええ、聞いたとも。
なかなかに面白かったよ。
あのナレーション(地の文章)を読んでいたのは、千葉早智子(ちばさちこ)かい?」
「ええ、ええ、そうですとも!」どうしましたか」
「いや、今夜はお早智女史、なんだかすごく力強い声を張り上げていましたネ」
「それはそうでしょう。
戦争がテーマのお話ですからネ。
緊張するのも無理はありません」
二人は目の前の大事件をそっちのけにして、ラジオドラマの話にすっかり夢中になっていました。
その傍らでは、大江山課長が雁金検事のもとへと歩み寄っていました。
「ウララ夫人を早く探し出さなきゃいけませんネ。
一度外から帰ってきたのに、殺された博士をその場に残したまままた外へ出ていったというのは、どうも納得がいきませんネ。
警察とかお医者さんにすぐ電話するのが本当の行動ですからネ」
「ねえ君、あの留守番のおばあさんは大丈夫なのかネ」
「ああ、あいつは大丈夫ですよ。
お年寄りですし、一体何ができるというんですか」
「しかし君、人造人間が博士を殺したことがはっきり分かれば、そんな生きた人間をいくら調べたって何の意味もないんじゃないかね」
「いやいや、人造人間に魂がない限り、これは絶対に生きた人間の仕業に違いありませんよ」
「うーん、この点をはっきりさせたいんだがネ、どうも機械というやつは私は苦手でねえ。
この人造人間がどうやって動いているのかが、きれいに分かればいいんだがなあ。
そうだ、帆村に調べさせようじゃないか」
「それが一番いいですね」
そこで帆村が呼び出され、この人造人間がどうやって動くのかを調べるようにお願いされました。
「さあ、僕にもまだ分からないけれど、馬詰丈太郎さんはずっと博士の助手をつとめていたんだから、ちょっと訊いてみましょう」
帆村は馬詰を連れて、人造人間の目の前へと歩み寄りました。
そして、どうすればこれが動くのかと尋ねました。
「そうですねえ。
僕はこの新型の人造人間については詳しく知らないんですが、とりあえず中を開けて見てみましょう」
そう言うと彼は慣れた手つきでドライバーを手に取り、人造人間の胴体を締めつけている鉄の扉のネジを次々と外していきました。
すぐに、人造人間の「お腹の中」がむき出しになりました。
お腹といっても機械のことですから、細かいパーツがぎっしり詰まっており、その隙間を赤、青、黄、紫と色とりどりの配線コードが縦横無尽に引っ張り回されていました。
なんと複雑な構造なのでしょう。
竹田博士のすごすぎる頭脳の持ち主ぶりが、ありありと伝わってくるような気がしました。
特に帆村たちの目を引いたのは、下腹部に置かれた電池からの放電によって、心臓のあたりにある小さな赤い電球と青い電球がチカチカと代わる代わる点滅し、さらに大きさの違ういくつかの歯車が、ギリギリギリと正確に回転している光景でした。
魂はないにしても、この機械的人間の心臓も肺も、まさに本物そっくりに元気に動いていたのです。
「――こちらが増幅器で、こっちが継電器ですよ」と馬詰はドライバーの先端で機械を指し示しました。
「これが、体をまっすぐ立たせるためのジャイロです。
こっちは腕を動かす電磁石の装置ですね。
そしてこっちは脚の方です。
左右の二つに分かれているでしょう。
ついでに、首の方も解剖してみましょうか」
馬詰はまるで本物のお医者さんのように、なんの躊躇(ちゅうちょ)もなく人造人間の鉄の仮面をペリッと剥ぎ取りました。
「ほら、これが口の代わりになるスピーカー(高声器)です。
おや、この人造人間は目がまったく見えませんよ。
光電管はついているけれど、肝心の電線が外されています。
そしてこれが、耳の働きをするマイクロフォンですね」
「ちょっと待ってくれたまえ」と帆村が手を上げて制止しました。
「すると、この人造人間を動かすにはどうすればいいかといえば、要するにこのマイクに向かって何らかの信号音を送ってやればいいわけだネ」
「まあ今のところ、機械の配線はそうなっていますね」
「ハハア――ということは、どんな信号音を送ればどんな風に動くのかが書かれた、『人造人間操縦信号簿』みたいなものが絶対に必要になるはずだ。
さあ皆さん、そのあたりを探してみてください!」
「よし、人造人間操縦信号簿か。
――」
係官の号令のもと、刑事たちは一斉に部屋の中を宝探しのように這い回り始めました。
「あっ、これじゃないかなあ!」
一人の刑事が、機械の戸棚と後ろの壁のすき間に挟まるように落ちていた、一冊の薄いノートを見つけて引きずり出しました。
そのノートの表紙には「ロボットQ型8号の暗号表」としっかりと書かれていました。
「うむ、Q型8号とはまさにこの人造人間のことだな。
ホラ、あそこの鉄の枠の上にペンキで書いてあるぞ」
係官たちはその暗号表をみんなで引っ張り合うようにして覗き込みました。
「ほうほう、『荒天』――首を左に曲げる。
『魚雷』――首を前後系に振る。
なるほど、いろんな暗号がびっしり書いてあるぞ。
『偵察』――『時間ガ来タ』と発言する。
『滑走』――膝を折る。
……これを見ると、人造人間を動かす命令の言葉は、どれも短い単語ばかりだな」
「ここを見ると、操縦するための単語は全部で四、五十個もありますね」
「おや、これは変だぞ。
なんだかおかしいなと思ったら、この暗号表のページが一片、びりっと引き破られているじゃないか!
うむ、これは重大な発見だ。
おいみんな、その破り取られた暗号表の紙切れを探してみるんだ!」
刑事たちは課長の命令を受けて、再び部屋の隅々を丹念に探し回りました。
しかし――彼らはついにその紙切れを見つけ出すことはできませんでした。
「どうも、見当たりませんよ」
「そうか……。
うむ、よしよし。
それで謎が分かったぞ」やっぱりこれは、人造人間に自分の意志や魂があったわけじゃなくて、生きている人間がこのロボットを操って仕組んだんだ。
犯人は、まちがいなくあの暗号表を持っているはずだ」
大江山課長は、きっぱりと言い切りました。
とにかく、竹田博士のいるこの部屋で、誰かが人造人間に命令の声を飛ばしたことに違いありません。
それが誰なのかさえ分かれば、この事件はすぐに解決するはずです。
さあ、いったい誰がこの部屋に入り込んで、ロボットに命令することができたのでしょうか?
それはウララ夫人でしょうか。
それとも助手だった馬詰丈太郎でしょうか。
あるいは、怪しい外国人のジョン・マクレオ医師でしょうか。
初級翻訳・人造人間事件 第4話
人造人間事件
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