初級翻訳・人造人間殺害事件 第2話

人造人間殺害事件

もっと若くてカッコいい騎士がたくさんいるんだから、そっちの人を探してみたらどうですか」
「あなたは、少しもわたしの気持ちを分かってくれないのね。
あなたと同じ国に生まれたこのわたしの気持ちが、どうしてあなたには分からないのかしら。
こんな遠い異国に来て、毎日涙を流して暮らしているわたしを、かわいそうだとは思ってくれないの?
わたしは恥ずかしさをこらえてでも、祖国のためになることをしようと思っているっていうのに!」
「そういう話はしない方がいいでしょう。
ドロドロした恋愛の世界に、祖国も名誉もありやしませんよ」
「あなたは、今夜はどうしてそんなに不機嫌なの?
さあ、機嫌を直して、今夜こそわたしのうちに来てよ。
主人は今朝、北の方へ出かけたの。
一週間は帰ってこないわ。
さあ、今から行くわよ。
ね、いいでしょ、井東さん。
絹子の命をかけてお願いするからさ!」

このしつこい情熱的な夫人に、もう三十日以上もつきまとわれていた。
肺を病んでいる僕のどこが良いのか、誘ってくる理由がさっぱりわからず不審でならなかった。
しかし、人間の心理として考えてみれば思い当たる節がないわけでもない。それは、おそらく恋愛に飽き飽きしている夫人が、僕の変わった性格に興味を持っているからか、あるいは、もしかすると、仲間である林田が言っていたように、僕のまわりを探るためのスパイの一味であり、古くからの手口である「ハニートラップ」というやつなのかもしれなかった。
もしそうだとしたら、この劉夫人は簡単に僕から離れてはくれないだろう。
だけど、夫人にあまりベタベタとつきまとわれては、こっちの仕事が全く進まなくなってしまう。
ここは一つ、高圧的な態度に出て、一気に夫人を追い払うのがいいと考えた。
幸い、今夜の海龍倶楽部の会議までは一時間ほどの余裕があった。
「夫人、では一時間だけお供をしましょう」
「えっ、行ってくれるの!
まあ、うれしいわ!」
夫人は少女のように飛び跳ねて喜んだ。
「そこに自動車を待たせてあるの、さあ、早く行きましょう!」

夫人が左手を上げて合図をすると、道端に停まって眠っていた真っ黒なパッカードが、ゆらゆらとこちらへ近づいてきた。
僕たちが乗った自動車は、真っ暗なオフィス街にヘッドライトの光を散らしながら走り出していった。
二十五番街にさしかかったとき、何の警告もなく、もう一台の自動車が後ろから追いついてきて、いきなり窓と窓をぴったりと並べて平行に走り始めた。
僕は、お腹のあたりに爆弾を押し付けられたような、不気味で冷たい恐怖に襲われた。
あと三十秒これが続いたら、僕は運転手を撃ち殺してでも、この車から外に飛び出そうと心に決めた。

「劉夫人!」
僕は夫人の両手をしっかり掴んで、自分の方へと引き寄せた。
まるで愛の抱擁をしているように見せかけて、夫人をこの危ない瞬間のための「人間の盾」にしなければならなかったのだ。
十秒、十五秒――。
並んで走る自動車の窓が、スルリと開いた。
「キャッ!」
叫んだのは劉夫人だった。
夫人は僕から飛びのいて、後ろに隠れようとした。
――その開いた窓から現れたのは、あまりにも奇怪な顔だった。
目も唇も、額も頬も、すべてが真っ黒な顔。
黒人というわけでもなく、まるで前衛的な彫像のような顔の持ち主は、人間というより、魂のない怪物のように感じられた。
そのとき、夫人の右手がスッと伸びるやいなや、割れた窓ガラス越しに、怪物に向けて拳銃が撃ち放された。
怪物は真正面から撃たれたのだから、顔面が粉々に砕け散ったかと思いきや、平然とした顔を窓から突き出して、
「三十番街を左に曲がれ」
と流暢な中国語をしゃべり、驚く僕たちをあざ笑うかのように、そのまま後ろの方へと走り去っていった。
夫人は、壊れた窓から銃を構えたまま、なおも怪物を狙い続けていた。
「一体なんなのかしら、あの怪物は?」
夫人は真っ青な顔を上げ、鋭い目で僕をキッと睨みつけた。「もしかすると、本当に人造人間かもしれませんね」
「人造人間ですって! そんなもの、本当にあるんですか」
「ありますとも。このごろ世間でうわさを聞かないのは、どこの国も秘密裏に作り方を研究しているからなんですから」
「いまのは、いったいどこの国の人造人間かしら」
「さあ、どこでしょうね。もしかすると……」
「もしかすると……」
「おい運転手、三十番街を左に曲がれ! まっすぐ進んだら殺されちまうぞ!」
僕は押し付けるように大声で命令した。
車はすでに三十番街にさしかかっていたので、運転手は急ハンドルを切って四つ角を曲がった。
その瞬間、僕たちの車のすぐ後ろを猛スピードで追いかけていたイスパノ・スイザなどの高級車が数台、そのまま三十一番街へと滑り込んでいった。
次の瞬間、彼らが飛び込んだその場所で、ものすごい大爆発が起きた。
僕たちの車の窓ガラスが、まるでゴムボールで激しく叩かれたかのように「ジジーン!」とけたたましい音を立てた。
何かとてつもない事件が起きたらしい。
このまま通り過ぎるべきか、それとも引き返すべきか。
さっき窓から顔をのぞかせていた人造人間らしき怪物は、仲間である林田が計画をスタートさせたことを物語っている。
三十一番街の爆発事件も、きっとあいつが仕掛けたものに違いなかった。
だけど、あんな場所で、そんな危険な作戦をやるように指示した覚えはない。だから、この突然の出来事が何を意味するのか、すぐには見当がつかなかった。
「引き返して、様子を確認したいな」と思ったが、劉夫人は僕の胸にピタッと顔をくっつけたまま、少しも離れようとしない。
彼女は、とにかく僕を自分の家に連れて行くことしか頭にないらしかった。
僕は、象牙のように真っ白な夫人の首筋で、かわいらしい産毛がかすかに震えているのをなんとなく眺めながら、「このやっかいな人を、どうやったら上手にまきのだろうか」と頭を悩ませた。

「止まれ! 止まれ!」
車の進路に立ちふさがった、数人の怪しげな男たちが叫んだ。
「また出てきやがったな」
僕は心の中でつぶやいた。
夫人はすばやくパッと身を起こした。
そして再びしっかりと拳銃を握りしめたが、僕はまだ何も武器を取り出していなかった。
武器を持つのは、本当に最後のピンチのときだけにすると決めている。
軽い気持ちで武器を取り出すのは、できるだけ避けた方がいい。
それに、さっきからの劉夫人のすばやい動きを見て、心の中で密かに疑いを抱いていた僕は、自分の隠し場所から武器を取り出すところを、絶対に夫人に見られたくなかったのだ。

車のスピードが少し落ちると、怪しい男の一人がヒョイと飛び乗って運転席の窓を開け、こちらへ顔を向けた。
それは意外にも、林田でもなければ他の仲間でもなく、まったく見知らぬ中国人の顔だった。
「夫人にお願いがございます。大けがをした人が出ましたので、この車をちょっとお借りしたいのです」
中国人は丁寧な口調でありながらも、どこか相手を圧倒するような強い口調で言った。
「失礼ね! お断りするわ」
夫人は負けじと言い返した。
「どうかお願いいたします、劉夫人。

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