帽子――インドのターバンのような黒い麦わら帽子。青い打ち紐のリボンが巻いてある。多色の貝細工ピン付き。
外套――紺色のポリヴィア生地で、裾の長いもの。ラグラン袖でゆったりとした仕立て。同じ生地のベルト付き。背中には布で包んだボタンが二列。裏地は青いフランス絹。
着物――上着とスカートに分かれた、高級な紺色のサージ生地。スカートの裾は朝顔のように広がり、上着の両脇にそれぞれポケットがある。襟には藤色のフェルトのカラーがあしらわれ、前と後ろにひだ(プリーツ)が取ってあり、胸元は長い二列のボタンで留められている。低い襟。全体的にゆったりとした作りで、低めの位置にベルトを回し、前面に黒い大きな留め金が付いている。
身体および人相――身長五フィート四インチ(約163センチ)。体重百二十ポンド(約54キロ)。推定年齢二十五歳。澄んだ青い目、薄い茶色の髪。繊細で手入れの行き届いた手。
特徴――特になし。強いて言うならば、この極めて形が良く、美しい手こそがそれだったのかもしれない。
土から生えて、トニィ・フェルナンデを招き寄せ、こうして事件を社会の注目の的へと引き出したのは、他ならぬこの「極めて形良く、美しい手」だったのだ。
少しばかり、因縁めいた話をしよう。
三月十二日、遺体はサンフランシスコの変死人収容所へ移され、身元判明の手がかりを得るために一般公開されることになった。
捜査の根幹を確立する意味で、これが唯一の望みだったのである。
聖マテオでも心当たりのある者に遺体を見せたのだが、サンフランシスコでは数千人が遺体安置所へ押し寄せる騒ぎとなった。
大評判になっている若い女の遺体である。
好奇心旺盛な人々がわいわいと詰め掛け、一日中途切れることなく野次馬の列が遺体の前を流れていった。
巡査が出動して厳重に警戒し、群衆を整理している。
大変な混雑ぶりだ。
新聞は盛んに書き立てる。
「手の美しい女の秘密」――これがジャーナリズムがこの事件に与えた呼び名であり、実際この「手」だけでも、女を知っている人が見れば一目で誰であるか分かりそうなものだというのだ。
まるで中国の女性のような指をしていたと言われている。
中国の女性の指というのがどのようなものか私は知らないが、とにかく、先へ行くほど細く、恐ろしく長く、作り物のように綺麗な指だった。
爪だけを見るとまるで子供の手のように小さく、指先は工芸品か何かのように実に見事に整っているのである。
小指などは普通の鉛筆よりもずっと細く、特に小指の爪は象牙細工と言ってもいいほどだった。
皮膚は白く、柔らかで、もちろん念入りに手入れがされていた。
強力なマニキュアの跡が、今も爪に残っていた。
その間にも、サンフランシスコの当局は、聖マテオ警察および州検事局と協力し、ホワイト部長、司法主任ダンカン・マテスン氏らを捜査本部の中心に据えて、被害者の女の身元を突き止めることと、犯人――これが非合法手術を施行した産婦人科医であろうと言われている――の検挙に全能力を注ぎ込み、奔走している。
刑事の総動員。
カリフォルニア州ならびに隣接する各州において、年齢が該当する家出女性の調査。
むなしく日が過ぎていく。
半月湾(ハーフムーンベイ)国道の現場を中心に、付近数マイルの原野や密林を、何か証拠になるようなものを落としていないかと、文字通り草を分け石をひっくり返して探査したが、一つの手がかりも得られない。
女が着ていたボリビア生地の外套(コート)は、百ドルから三百ドルもする少し高価なもので、そう簡単には誰もが着ている物ではないから、もしそれであれば、売った者が覚えているはずだ。
それに、田舎の店にはない品で、サンフランシスコでも一、二流の商店以外には扱っていないから探りやすいというので、そのボリビアの外套を持って刑事たちが、サンフランシスコやオークランド市などの有名な婦人洋服店を回り歩いたのである。
一方では、遺体の歯のレントゲン写真を撮った。
その歯科治療の状態と入れ歯の特徴を詳細にラジオで放送し、各新聞に掲載して、このような患者を手がけた覚えのある歯科医が名乗り出るのを待っている。
レノック巡査によって語られ、ホテル支配人ロバート・マギが確認した、深夜の聖マテオ・ホテルに現れたという一対の怪しい男女が、とりあえずこの大捜査の対象となっていることは言うまでもない。
彼らがホテルを出た時刻と、被害者の女が絶命した推定時間とが、ほぼ一致するのである。
サンフランシスコ警察から、ホワイト氏の部下であるフランク・マコネル、チャールズ・ギアリヴァン、ミクル・ミシェル、ジャック・フロイド、この四人の刑事が出動して専心この方面に当たっているのだが――すると、ホテル聖マテオへ出かけていき、あの、始終うめいていた女と、挙動不審な男の同伴者とが、真夜中に来て二、三時間休んだという部屋を検分している時、鏡台の引き出しの奥に突っ込んであるのをフランク・マコネル刑事が発見したのだ。
血だらけの安楽椅子のクッションカバーと、同じく血に染まったシーツである。
もうこれで、一組の男女が、間違いなく被害者と加害者であると決まったようなものだ。
――苦痛にうめいている若い女――血――何者とも知れない男――午前三時――崖下の遺体――と、こう並べていくと、事件の連鎖がくっきりと浮かび上がってきて、新聞はこの「夜の同伴者」の男とその自動車へ一斉に公衆の注意を向ける。
レノック巡査、マギ支配人、その他ホテルの使用人たちの口から、どんな男だったか、どういう自動車に乗っていたかは大体判明しているから、それを根拠に、刑事の一隊はガレージと給油所を問い歩いて必死に自動車の男の行方を求めている。
ところが、その時ホテルを出たきり、糸が切れたように明け方の闇の中へふっつりと消息が絶えているのだが、どうやらサンフランシスコの方へ向けて走り去ったらしいというのである。
マギ支配人もレノック巡査も、自動車の種類までは分かっていない。
ただ、「高価な大型のリモジン」というだけだ。
リモジン車というのは、運転台と後部の車室とが完全に分かれているか、あるいはその間に仕切り壁のある、純粋な都会用・社交用の、まさに公式な高級車のことである。趣味にうるさい上流階級の人間や、老人が乗るような車だ。
その紳士の人相といえば、背が高く、面長で、大きくてがっしりとした立派な顔立ちだったという。服装もきちんとしており、黒のソフト帽をかぶり、黒い長い外套(コート)をまとっていた。これを聞いただけでも、いかにもリモジンを乗り回していそうな人物である。
ホテルに行く前でも、出た後でもかまわない。このリモジンの足取りを掴まなければと、刑事隊は半月湾国道沿いの民家を一つずつ訪ね歩いた末、ようやく唯一の報告を得た。国道をホテルとは反対の方向に少し下ったところに「アンクル・タムス・キャビン」という看板を掲げた郊外料理店があり、事件の夜の十二時過ぎ、それらしい一台のリモジンが前を通るのを見たというのだ。車内の明かりは暗かったが、確かに男と女が乗っていたそうだ。もちろんあの自動車に違いないが、これだけでは何の役にも立たない。
発見からすでに六日が経過している。
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