初級翻訳・土から手が 第6話

土から手が

どうも私は、憲兵隊をはじめとする陸軍の連中が、いつの間にか本筋から外れた方向へ迷い込んでいるような気がしてならない。
いいか、チャアリイ。事件を単純に分解すると、次の三つの要素になる。
第一に、サンマテオ市から遠くないハーフムーンベイ国道の崖下で、遺体が発見されたこと。
第二に、解剖の結果、堕胎手術の失敗によって殺害されたものであり、遺体は比較的近い場所から運ばれて捨てられたということ。
第三に、アイネはサンフランシスコを出る際、『半島へ行って二、三日友達を訪問してくる』と弟夫婦に話していたこと――この状況から、君は何という結論を導き出すかね」
「私の見解は、あなたと同じです。
事件のからくりはサンマテオ市に潜んでいます。
サンマテオ市から着手すべきです」
「その通りだ、ガフ。
サンマテオ市こそがこの事件の中心地だ。端的に言えば、その街のどこかにアイネ・リィドが非合法で無茶な手術を受けた家があるはずだ。
そして、その家には動かぬ証拠が残っているに違いない。
狙うべき医者は、そこに隠れている! 看護師もいるかもしれない――」
しかし、サンマテオで新たに捜査を始めるといっても、その手がかりは何だろうか。静かな住宅街の自宅で、紹介のみで患者を診ているような高級開業医か。
裏町のアパートの一室に、目立たない看板を出している貧民相手の小さな医者か。
あるいは、企業的な大規模病院か。
下町の診療所か。
施療院か。
養生所か。
ガフ刑事が顔を上げました。
「私に少し考えがあるのですが――」
しかし、マテスン主任は話を続けました。
「それから、こういう事実を考慮に入れることを忘れてはならない。
アイネは弟の家から真っ直ぐサンマテオへ向かったのだ。
しかも夜行列車を使っている。
これを見ると、その時すでにアイネと医者の間には約束が出来上がっていたことになる。
おそらく、誰かが駅へ迎えに来るくらいの打ち合わせは済んでいたのかもしれない。
ところが、今回休暇を取って西部へ来てからというもの、それまでアイネは一度もサンマテオへ行ったことがなかったのだ。
ということは、ガフ君、どういう意味だと思う?」
「サンマテオへ発つ以前に、サンフランシスコにいる医者を通じて、話がすっかり出来上がっていたと解釈できますね」
「その通り! だが、それは二人の別の医者であってもいいのと同じように、一人の同じ医者であっても何ら不思議ではない。
とにかく、サンフランシスコの医者で、サンマテオに住んでいるか、分院のようなものを持っているか、養生院を経営しているか。あるいは、患者を紹介し合うほどの協力関係にある別の医者がサンマテオにいるか――つまり、サンフランシスコの医者で、何らかの形でサンマテオとつながりのある者を洗い出すことが急所なのだ」
ところが、サンフランシスコの医師でサンマテオから通勤しているだけでも、かなりの人数がいます。
そこでマテスン氏とガフ刑事は、サンフランシスコとサンマテオの二手に分かれて、両方から攻めることにしました。
つまり、ガフ刑事はサンマテオへ出向き、病院や診療所をくまなく調べて回る。
社会的に信用のある医師については一旦おき、同市内で評判の良くない医者のリストを作り上げる。
その間、マテスン氏はサンフランシスコを担当し、市内の怪しい医師の中から、何らかの点でサンマテオとつながりのある者を掘り起こしていく。
そうして両方の調査を照らし合わせれば、必ず何かが出てくるはずだというわけです。
まだ誰も手を付けていない角度だけに、これこそ唯一の有望な方法に違いありません。
新聞記者はもちろん、捜査本部の内部にも厳秘のまま、すぐさま捜査が開始されました。
このチャールズ・ガフ刑事の精力と忍耐は、信頼に値するものとされていました。
サンフランシスコの中華街で起きたムーニー事件を鮮やかに片付けて名を上げたのも、この男だったのです。
果たして、サンマテオにおけるガフの活躍は、目を見張るものがありました。サンマテオに到着するやいなや、ガフ刑事は地方検事総長のスワアート氏を訪ねました。そして、郡医師会の役員である地元の開業医、H・ストックマン博士への紹介状を書いてもらったのです。

しかし、すぐに博士の元へ駆けつけることはしませんでした。ガフはまず聖マテオの職業別電話帳を借り受け、市内に住む医師全員の名前と住所を書き出しました。このリストをストックマン博士に見せ、一人ずつその人柄や評判を聞き出したのです。

博士が「公私ともに立派な医者だ」とお墨付きを与えた五人には印をつけ、逆に「この人はどうも……」と首をかしげた人物には鉛筆でしるしをつけました。次にガフは、博士が太鼓判を押した「善玉」の医師五人を順番に訪ね、先ほどしるしをつけた「悪玉」候補の医師たちについて、それぞれの評判を聞いて回ったのです。

こうして五人の専門家の意見を突き合わせ、悪玉の中から特に怪しい人物を絞り込み、最後に最も疑わしい二、三人にターゲットを絞ろうという作戦でした。

さて、その「善玉」として選んだ五人のうち、三番目に訪ねたのがマッキントン博士でした。午後の三時ごろ、ガフがマッキントン博士の診察室へ入り、用件を伝えて例の医師リストを見せながら、怪しい医者たちの話を聞き出そうとしていた時のことです。博士は急に何かを思い出したように言いました。

「実は、ちょっと変な話を聞いています。お役に立つかどうかは分かりませんが、とにかくお話ししましょう。この聖マテオのハイランド通りに、私の妻の妹が住んでいます。その妹が四、五日前に遊びに来て、こんなことを言っていたのです」

ハイランド通りの妹の家から一町ほど下ったところに、ある一軒家があります。最近、その家に白い制服を着た看護師の姿が見えるようになったそうです。妹はその家の前をよく通るのですが、急に看護師を見かけるようになったことを不思議に思っていました。なぜなら、その家は持ち主が変わったのか、つい最近まで空き家になっていたはずだからです。

「新しく療養所でも開かれたのかしら」

博士の妹はそう思ったそうです。博士の話はそれだけでしたが、これこそが新聞記者や刑事のいわゆる「第六感」というものでしょう。ガフは何かピンとくるものを感じ、すぐその足で問題のハイランド通りにある家へタクシーを走らせました。

住所は、マッキントン博士が覚えていた通り「ハイランド通り615番地」でした。

二階建ての、かなり立派な住宅です。階下の窓はすべて雨戸が閉められており、見たところ人が住んでいる気配はありません。呼び鈴を押して声をかけましたが、何の返事もありませんでした。

そこで、隣の621番地を訪ねて話を聞いてみると、主婦のL・C・シュワイツア夫人という人が出てきました。夫人によると、この3月1日まで「ボウン」という男性が住んでいたそうですが、1日の早朝どこかへ引っ越してしまったといいます。

ところが、その日の午後4時ごろ、二人の婦人がボウンを訪ねてきました。しばらく家の周りを歩き回り、あちこちのドアや窓を叩いていましたが、どこも鍵がかかっていて開きません。

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