初級翻訳・海妖 第5話

海妖

エドガー・アラン・ポーの『謎と想像の物語』や、コールリッジのあの幽玄で悲しげな詩『老水夫行』は、このメアリー・セレスト号を題材にしたものです。

しかし、それにも増して奇妙なのは、この事件から39年を経た一九一一年七月二十四日の夜のことです。こうしてライン川で私用船エイメ号を走らせ、談笑していたエドワルド氏、ジャネット夫人、モッファ氏、キュヴァリエ少将、ポール・フェラル氏、デニュウ博士夫妻たちの間で、なぜこのメアリー・セレスト号事件が話題に上らなければならなかったのでしょうか。

そして、なぜ人々はあれほど真剣に、この過去の神秘について議論しなければならなかったのでしょうか。何が彼らをそうさせたのでしょうか。

デュポン船長の何気ない一言から始まり、数々の難破船の例や海の不思議といった話へ自然と移り変わり、その時まで人々の頭を悩ませていたこの有名な海の怪異事件へと話が漂っていっただけのことかもしれません。しかし、デニュウ博士ではないですが、まさに「後から思うと全く不必要な、そして気味の悪い雑談だった」と言えるでしょう。

「話の内容そのものが不気味なだけでなく、なぜこの晩に限って、これほどまでにメアリー・セレスト号事件に新しい興味を感じて話し込んでしまったのか。そのこと自体が実に不気味なのだ」

しかも、キュヴァリエ少将とデニュウ博士を主な語り手として、その夜エイメ号の甲板上でメアリー・セレスト号の話が続いたことは、先ほど述べた通り、居合わせた全員が後で係官の前で証言していることなのです。ああではないか、こうではないかとそれぞれが名推理を披露するのが面白く、この事件は不気味でありながらも、座談の話題としてはいつも盛り上がるものだったのでした。その晩も、エイメ号の人々は、それぞれの意見を戦わせたり反論し合ったりして、いつまでもメアリー・セレスト号の話題を続けそうな様子でした。
夜が深まったとはいえ、まだ九時を回ったところでした。
話は戻りますが、キュヴァリエ少将が新聞『マタン』に寄せた記録をもう一度引用すると、「みんなは臆病な女学生のように顔を見合わせ、まるで難破船の乗組員のように、暗闇の甲板に身を寄せ合っていた」とあります。
実際、その時、社交室の時計が九時を打ちました。
このことは、デュッセルドルフの通信員がデニュウ博士から聞き出した話にも、「博士は確かに九時の鐘を聞いた」と記されています。
その九時の鐘を聞くと、ジャネット夫人は、急に何かを思い出したように、甲板下の自分の船室へと降りて行きました。
一同は、快活で、どちらかと言えばお転婆なジャネット夫人が、口笛を吹きながら大きな足音を立てて階段を駆け下りていくのを聞きながら、そのまま話しを続けていました。
眠りにつくのが早い対岸の田舎町エメリッヒの灯りが、一つ、また一つと消えかけていました。
ジャネット夫人が船室に入り、ようやく椅子に腰を下ろしたかと思った頃、あくびのような微かな、そして長い声が上がってきて、甲板の人々の耳に届きました。
「今の、聞こえましたか?」と一人が尋ねました。
「誰かが呼んだようですよ」
「ジャネットさんの声でしたね、間違いありません」
「一体、どうしたんでしょう――?」
一同は耳を澄ましてみましたが、その後は全く何の物音もしません。
虫の知らせだったのか、エドワルド氏は急に気が気ではなくなりました。
すぐに階段を駆け下りて、ジャネットの船室をノックしました。
キュヴァリエ少将と洋服屋のフェラル氏も、エドワルド氏の後を追って見に行きました。
ドアには、内側から鍵がかかっています。
慌ただしくノックをしながら、エドワルド氏は呼びかけました。
「ジャネット!」
しかし、何の応えもありません。
室内はしんと静まり返っています。
何か異変を感じた三人は、力を合わせて扉を破り、転がり込むように中へ入ってみましたが、船室は空っぽでした。
ジャネット夫人の姿はありません。
狭い船室で、椅子と小さなベッドがあるだけですから、どこかを探す場所も、見回すところもありません。
きれいに片付けられた部屋のペルシャ絨毯の上には、先ほどまでジャネットが着ていたドレスが丸く脱ぎ捨ててありました。
彼女の体臭そのもののような、愛用の香水の香りがうっすらと漂っています。
やっと首だけが出るような小さな円窓が開け放たれていて、黒く光って流れるライン川の水が、夜の歌を歌っていました。
一方は内側から鍵のかかったドア、三方は鉄板の壁、それに、一つだけある小さな円窓――どこからも出ることのできないはずのこの狭い船室で、ジャネット夫人は煙のように、完全に消えてしまったのです。
今日に至るまで十九年、いまだに彼女は消えたままです。

何ら納得できる説明はなされていませんが、納得できる説明がないということこそが、ある意味で唯一の答えなのかもしれません。
キュヴァリエ少将もデニュウ博士も、あの晩だけメアリー・セレスト号のことを話し合っていたわけではありませんが、あの時ほど、その不思議さを全身で感じ、呼吸が苦しくなるような恐怖を覚えたことはなかったと語っています。
メアリー・セレスト号から人々をさらった「何か」が、このエイメ号からジャネット夫人を掠め去ったのです。
ただ、メアリー・セレスト号からは乗組員全員が消えましたが、エイメ号からはジャネット一人だけでした。
ナドーとペルティエの両氏の記録の中に、この「ジャネットの神秘」に関する記述がありますが、そこではかなり小説的に扱われていて、まるで現場を目撃したかのように書かれているだけでなく、フランス人らしく、そこに三角関係の要素を紛れ込ませて、ジャネット夫人に何かあったかのようにほのめかしています。
仮にジャネットに恋人がいたとしても、それは、低い呻き声を一つ残して、首しか通らない小さな窓からライン川の闇へと霧散したという、この怪奇な事実を説明することには全くならないのですが、例えば話はこうなります。
エイメ号で、ジャネットが階下の船室へ降りて行ったときのこと――。
夫人は船室に入りました。
内側から慎重に鍵をかけ、ドレスを脱ぎました。
裸の上に薄い羽織物をまとい、髪を解き始めました。
栗色の髪が、濡れた藻のように重く彼女の肩にかかっています。
それから、夫人は小さなテーブルの前に座りました。
一枚の便箋を取り出し、書き始めました。
「愛するアンドレ――」

まるで私室を覗き見ているかのような詳細な描写ですが、「アンドレ」という普通名詞のような名前を持ち出したところで、何の解決にもなりません。
しかし、ともかくそのジャネットの恋文はどうなったかと言うと、この記録に従えば、エドワルド氏と共にキュヴァリエ少将とフェラル氏が船室へ入った際、その中の一人が素早くそれを見つけ、何も知らないエドワルド氏の気持ちを察して、咄嗟に隠してしまったのだと言われています。言うまでもなく、これは一般的には根も葉もないナンセンスな話とされており、他の記録には一切採用されていません。しかし、ナンセンスはナンセンスでも、こうした噂が流れたのには理由がありました。ジャネット・エドワルド夫人は元女優で、パリの舞台で名を馳せた女性だったのです。

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