初級翻訳・太一の靴は世界一 第2話

太一の靴は世界一

それはめでたいことじゃないか!」
 倉庫の管理人の人は、楽しそうにからからと笑いました。
 そして、倉庫の隅っこを貸してあげようと言って、その戸をガラリと開けてくれました。
 倉庫の中には、工場のいろいろな古い道具が入っていました。その脇に、太一の店の古い靴たちがきれいに積み上げられました。

三
 太一の店は、ものすごい大繁盛でした。
 修理をお願いされた古い靴が、倉庫の中にどんどんたまっていきます。
 どんなに一生懸命に手を動かして仕事をしても、まったく間に合いません。
 それでもお客さんは増える一方で、倉庫の中は古い靴でいっぱいになりそうでした。
 そこへまた、新しい仕事が持ち込まれました。
 工場の主人が、太一のうわさを聞きつけて、「新しい靴を作ってくれ」と頼みに来たのです。
 「お金はいくらでも払うから、急いで、今すぐ新しい靴をこしらえてくれ!」と言うのです。
 今度の仕事は、新しくて立派な靴です。
 太一の心は、ぐっとそれに惹きつけられました。
 これまで古い靴の修理ばかりで、まだ一度も新しい靴を作ったことがなかったからです。
 『太一の靴は世界一』――その世界一の腕で、新しい靴を造ったら、どんなにうれしいことでしょう。
 でも、太一は、倉庫の中に山のように積み重なっている古い靴をじっと眺めてから、ハッキリと答えました。
「あの古い靴を、みんなきれいに直し終えてからでなければ、お引き受けすることはできません」
「それより前に、今すぐ、わしの靴を作ってくれよ。どうしてもできないのかい?」
「はい、どうにも仕方がありません」
「どうしてもできないのか!」
「はい。私にとって、古い靴も新しい靴も、みんな大事なお客さまなんです。仕事は順番どおりにしなければいけませんので」
「よし、覚えておけよ!」
 そう言って、工場の主人は怒ったように立ち去っていきました。
 太一は気を取り直して、また古い靴の底をコツコツとたたき始めました。

 ところが、しばらくすると、さっきの工場の主人が荒々しい人夫を四、五人連れて戻ってきて、倉庫の中にある古い靴を、外へドンドンと放り出させました。
 「おれはこの工場の主人だ! お前がこのわしの言うことをきかないと言うなら、こっちとしても、お前にこの倉庫を貸すわけにはいかない。明日からここで仕事をするのも一切禁止だ! どこへでも行ってしまいなさい!」
 太一はあまりのことにびっくりして、ぽかんと立ちすくんでしまいました。
 倉庫の中の古い靴は、みんな外にほうり出されています。
 おまけに、明日からはここで仕事すらさせてもらえません。
 かといって、他のお客さまとの約束をいいかげんにして、たった一人の工場の主人の言うなりになるなんてことも、太一には絶対にできません。
 太一は、ほうり出された古い靴を一つひとつ拾い集めました。
 そして、山のようになった古い靴のそばに、ぽつんとじっとしゃがみ込みました。
 いくら考えても、どうにもこうにも打つ手はありません。
 それでも太一は、ただそこにかがみこんだまま、じっと動かずにいました。
 長い時間が過ぎました。
 見物していた人たちも、みんな帰っていなくなりました。

 そのとき、ふいに太一の肩をぽんと叩く者がいました。
 顔を上げてみると、なんと工場の主人でした。
 主人は、さっきまでの怖い顔ではなく、やさしい笑顔で見つめていました。
 「お前は、本当に立派な心の持ち主だ。心底感心したよ。さっきの態度はな、ただお前の仕事に対する本気度を試すためにやったことなんだ。これからも、お客さまを大事にするんだよ。これからはな、このわしがいろいろと面倒を見てやろう。本当の立派な自分の店を一軒出してあげようじゃないか。『太一の靴は世界一』という看板の店をな。……さあ、泣くんじゃないよ」
 太一はあまりの驚きに目を見張り、そして次の瞬間、あふれてくるうれし涙をぽろぽろと流したのでした。それから、やがて、工場の主人の力添えのおかげで、太一もりっぱな自分のお店を持つことができました。そして、「太一の靴は世界一」という評判が広がり、お店は大繁盛しました。
太一は、お母さんと一しょに、いつまでも幸せに暮らしました。

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