初級翻訳・娘と大きな鐘 第2話

娘と大きな鐘

お坊さまは前歯の抜けた口をもぐもぐと動かしながら、
「赤いすいれんの花を煎じて飲ませれば、たいていの病気は治るものじゃよ」
と答えました。
娘はお寺を出て、里川をたずねて歩きました。
しかし、どこを見回しても、赤いすいれんの花は咲いていませんでした。
ひとつ山を越えると、そこには大きな池がありました。
大空に浮かぶ夏の雲が、静かな水の面にきれいな影を映していました。
娘はその淵に立って水面を覗き込むと、そこには赤いすいれんの花が二つ三つ、まるで星のように美しく咲いていたのです。
「まあ、なんてきれいなんでしょう。
これを摘んでお父さんのところへ持って帰ろう」
と、娘は思いました。
娘はそっと手を伸ばし、赤い花を取ろうとして水の中に指を入れた途端、どこからか銀色に光る白い糸のようなものが手首にからまり、しっかりと巻きつきました。
そして、するすると娘を引きずり込み、どんどん深い水底へと引っ張っていってしまったのです。
「あっ!」
と、娘は声をあげる暇もなく、姿がすっかり水の中に沈んでしまうと、なんとそこに、それはそれは立派なお寺が現れ、池の底の方からゴーンと鐘の音が響いてきたのでした。
ちょうどそれと同じ時刻に、お寺の鐘つき堂につるしてある鐘の太い綱がプッツリと切れて、鐘はものすごい地響きを立てて下へと落下したのでした。
何でも古くなると力が弱くなって、重いものを支えきれなくなってしまうもののようです。
村の人たちは大急ぎで鐘つき堂に集まってきました。
そして、落ちた鐘を動かそうとみんなで力を合わせましたが、どうしてもびくとも動きませんでした。
しかたがないので、何十年もの間、鐘はそのままで放置されていたのです。
そうこうしているうちに、当時の村のお年寄りたちはみんな亡くなってしまいました。
そして若い人たちの時代になったとき、ようやく鐘つき堂を大がかりに修理し、盛大なお供えをして、たくさんの人々で力を合わせて鐘を動かしました。
鐘はみんなの力で見事に動き出したのです。
こうして、再び大きな鐘がりっぱにつるされることになりました。
しかし、どういうわけか、その鐘を鳴らしますと、どんなに晴れ渡ったいい天気の日であっても、たちまちのうちに池のある方、あの山の頂上に黒い雲がもくもくとわき起こって雨が降り出したり、激しい風が吹いたりするのでした。
それ以来、この鐘を鳴らす者は誰もいなくなってしまいました。
いつまた頭の上からあの大きな鐘が落ちてくるかわからない恐怖と、なんとなく気味の悪い不気味さがあったので、村の子供たちもこの鐘つき堂には遊びに来なくなりました。
お寺はその後、すっかり荒れるにまかされてしまいました。
普段は誰もこのお寺にお参りには来ませんが、夏になって雨の降らない日照りが続くと、村人たちが集まって相談をするのです。
「あの寺の鐘をつこうじゃないか」
と、こう言い出すのです。
雨ごいの日には、村中の男も女も仕事を休んでお寺にお参りし、盛大なお供えをして供養をしました。
それから、男たちが鐘つき堂へと上がり、力いっぱい鐘をつくのです。
やがて、どこか陰気な鐘の音が、遠くの野原まで波のように響き渡っていくのでした。
昔、娘が池に落ちて亡くなったという悲しい物語の由来を村の人たちはよく知っているため、神聖かつ恐ろしいものとして、女の子を鐘つき堂へは決して近づけないことになっているのです。

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