初級翻訳・日がさとちょう 第2話

小川 未明

そのあとを、ほかの女の子たちもワーッと追いかけていきました。
せっかくのきれいな日傘は、途中の木の枝や、奪い合いでぶつかった切り株などに引っかかって、ビリッと破れてしまいました。
村の女の子たちは、「はじめてお借りしたのに、なんて大変なことをしてしまったんだろう!」と真っ青になって驚き、耳の聞こえない女の子のところへ走って行って、申し訳なさそうに謝りました。
彼女は、せっかく東京からがんばって買って帰ってきた大切な日傘が破れてしまったのを見て、ただただショックで、ぼんやりと立ち尽くすほかありませんでした。
美しい日傘が破れてしまうと、もう村の女の子たちは、「用事なんてもうないわ」と言わんばかりに、蜘蛛の子を散らすようにどこかへいなくなってしまいました。
「見た目ばかりいくらきれいだって、あんな紙みたいなもの、いったい何の役に立つっていうのかしらねぇ」
と、冷たくあざ笑う女の子さえいました。
耳の聞こえない女の子は、急に胸がキュッと締めつけられるように、さみしくなりました。
でも、足の不自由な女の子だけは、昔もいまも変わらずにやさしい心を持っていて、態度がすこしも変わることはありませんでした。
足の不自由な女の子は、お家でお百姓仕事をして忙しくしていましたが、すき間時間を見つけては、耳の聞こえない女の子の家へと遊びにやって来ました。
そして、大好きな彼女から都会の楽しいお話を聞くのを、心から楽しみにしていたのです。
「ああ、わたしはいつになったら東京へ行って、その賑やかな街の光景を見ることができるんだろう?」
と、足の不自由な女の子は、一人きりのときにそっとため息をもらしたのでした。
そうこうするうちに楽しい日数はあっという間に過ぎていき、耳の聞こえない女の子は、また東京へ戻らなければならない時期がやって来ました。
「わたし、また明日、東京へ出発することになったの」
と、彼女は足の不自由な女の子の家へやって来て、名残惜しそうに旅立ちの挨拶を告げました。
「こんどは、いったいいつになったら、また二人でこうして会えるんだろう……」
足の不自由な女の子は、お別れが悲しくてたまりませんでした。
そして、ついに別れのその日がやって来ました。
足の不自由な女の子は、耳の聞こえない女の子を村のはずれの道まで一生懸命に送っていきました。
「どうぞ、いつまでも元気で暮らしてくださいね。
この日傘は、わたしの形見だと思って、あなたに置いていきます」
そう言って、耳の聞こえない女の子は、あの破れてしまった日傘をきれいにたたみ、形見として足の不自由な女の子に手渡しました。
二人はそこで、涙を流しながら悲しいお別れをしました。
足の不自由な女の子は、たった一人で山道をとぼとぼと歩いて家に帰る途中、道ばたの大きな石の上にそっと腰をかけて休みました。
そして、また遠い都会へと旅立っていった大好きな友達のことを思い出しながら、あの美しい日傘をそっと開いて眺めてみました。
そのときです。
青葉の茂る木々のうえを、ビューッと強い山風が突然吹きつけてきて、手にした日傘をフワッとさらっていってしまいました。
足の不自由な女の子は、「あっ!」と慌てて一生懸命あとを追いかけましたが、日傘は深い谷の底へとヒラヒラと落ちていき、とうとう見えなくなってしまいました。
しかし、不思議なことがありました。
そのあくる年の春から、この山には、まるであの日傘のような美しい更紗(さらさ)模様のついた色鮮やかな蝶々が、たくさん谷からふわふわと飛び出すようになったのです。
村の女の子たちは、その美しい蝶々を見るたびに、耳の聞こえないあの子がさして帰ってきたあの素敵な日傘のことを、思い出さずにはいられませんでした。
また、それから何年もの歳月が流れていきましたが、耳の聞こえない女の子が、二度とふるさとの村へ帰ってくることはありませんでした。

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