初級翻訳・家なき子 第4話

家なき子

「あの子はとこにはいるとすぐに目がくっつくのだから、だいじょうぶなにを言っても聞こえやしませんよ」

わたしはむろん、「いいえ、ねむっていません」と言わねばならないはずであったが、言えなかった。
わたしはねむれと言いつけられた。それをまだねむらずにいた。
わたしが悪かった。
「それであなた、裁判のほうはどうなったの」とおっかあが言った。
「だめよ。裁判所ではおれが足場の下にいたのが悪いと言うのだ」
そう言ってかれはこぶしで食卓をごつんと打って、なんだかわけのわからないことを言って、しきりにののしっていた。
「裁判には負けるし、金はなくなるし、かたわにはなるし、びんぼうがじろじろ面をねめつけて(にらみつけて)いる。それだけでもまだ足りねえつもりか、うちへ帰って来ればがきがいる。なぜおれが言ったとおりにしなかったのだ」
「でもできなかったもの」
「孤児院へ連れて行くことができなかったのか」
「だってあんな小さな子を捨てることはできないよ。自分の乳で育ててかわいくなっているのだもの」
「あいつはてめえの子じゃあねえのだ」
「そうさ。わたしもおまえさんの言うとおりにしようと思ったのだけれど、ちょうどそのとき、あの子が加減が悪くなったので」
「加減が悪く」
「ああ、だからどうにもあすこへ連れては行けなかったのだよ。死んだかもしれないからねえ」
「だがよくなってから、どうした」
「ええ、すぐにはよくならなかったしね、やっといいと思うと、また病気になったりしたものだから。かわいそうにそれはひどくせきをして、聞いていられないようだった。うちのニコラぼうもそんなふうにして死んだのだからねえ。わたしがこの子を孤児院に送ればやっぱり死んだかもしれないよ」
「だが……あとでは」
「ああ、だんだんそのうちに時がたって、延び延びになってしまったのだよ」
「いったいいくつになったのだ」
「八つさ」
「うん、そうか。じやあ、これからでもいいや。どうせもっと早く行くはずだったのだ。だが、いまじゃあ行くのもいやがるだろう」
「まあ、ジェローム、おまえさん、いけない……そんなことはしないでおくれ」
「いけない、なにがいけないのだ。いつまでもああしてうちに置けると思うか」

しばらく二人ともだまり返った。
わたしは息もできなかった。のどの中にかたまりができたようであった。
しばらくして、バルブレンのおっかあが言った。
「まあ、パリへ出て、おまえさんもずいぶん人が変わったねえ。おまえさん、行くまえにはそんなことは言わない人だったがねえ」
「そうだったかもしれない。だが、パリへ行っておれの人が変わったかしれないが、そこはおれを半殺しにもした。おれはもう働くことはできない。もう金はない。牛は売ってしまった。

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