初級翻訳・猫の草紙 第3話

楠山 正雄

「これ、これ、お前たちもせっかくねずみたちがああ言うものだから、こんどはこれでがまんして、この先もうねずみをいじめないようにしておくれ。
その代わりまた、ねずみが悪さをはじめたら、いつでも見つけ次第食い殺してもかまわない。
どうだね、それで承知してくれるか。」
「よろしゅうございます。
ねずみが悪ささえしなければ、わたくしどももがまんして、あわび貝でかつ節のごはんや汁かけ飯を食べて満足しています。」
 こう猫たちが声をそろえて言いますと、和尚さんも満足らしく、にこにこ笑って、
「さあ、それでやっと安心した。
ねずみは猫にはかなわないし、猫はやはり犬にはかなわない。「上には上がいて、もっと強いものがいるんだ。ここでどっちが勝ったところで、それだけで世の中の怖いものが全部いなくなるわけじゃないし、自分たちの思い通りになるわけでもない。
まあ、お互いに自分の生まれ持った身分に満足して、獣は獣同士、鳥は鳥同士、人間は人間同士、仲よく暮らすのが一番いいことなんだよ。
その道理がわかったなら、さあ、みんなおとなしくお家に帰りなさい、帰りなさい。」
「どうもありがとうございました。これからはもう、罪のないねずみを取るのはやめにしましょう。」
「その通りです。私たちも、けっして余計な人間の物を取ったりなんかいたしません。」
 猫とねずみは口々にこう言って、和尚さんに深々とおじぎをすると、ぞろぞろとそれぞれの家に帰っていきました。

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