初級翻訳・少年探偵団 第22話

少年探偵団

黄金塔は、広さ六十センチ四方、高さ一メートル三十センチほどの、長い箱の形をした、りっぱな木製のわくの中に入れて、その部屋の床の間に安置してあるのですが、この木のわくが、くせものなのです。
本来ならば、このわくには四ほうにガラスをはるわけですが、大鳥氏はわざとガラスをはらず、だれでも自由に黄金塔に手をふれることができるようにしておきました。
そのかわりに、わくの四すみの太い柱のかげに、赤外線防備装置という、おそろしいしかけがかくされていたのです。
四本の柱に三ヵ所ずつ、つごう十二ヵ所に、赤外線を発射する光線をとりつけて、一口にいえば、黄金塔の上下左右を、目に見えぬ赤外光線のひもでつつんでしまってあるわけです。
そして、もし、だれかが黄金塔に手をふれようとして、赤外線をさえぎりますと、べつの電気じかけに反応して、たちまちベルが鳴りひびくと同時に、そのさえぎったものの方向へ、ピストルが発射されるというおそろしい装置です。
木のわくの上下のすみには、外部からは見えぬように、八丁の小型ピストルが、実弾をこめて、まるで小さな砲台のようにすえつけてあるのです。
ただ、盗難をふせぐだけならば、黄金塔を大きな金庫の中へでも入れてしまえばいいのですが、大鳥氏は、せっかくこしらえさせたじまんの宝物を、人にも見せないで、しまいこんでおく気にはなれませんでした。そこで、気心の知れたお客さまには、じゅうぶん見せびらかすことができるように、こんな大げさな装置を考案したわけです。
むろん、お客さまに見せるときは、わくの柱のかげにある秘密のボタンをおして、赤外線の放射をとめておくわけです。
高価な純金の塔そのものも、たいへん世間をおどろかせましたが、この念入りな防備装置のうわさが、いっそう世評を高めたのです。
むろん、大鳥時計店では防備装置のことをかたく秘密にしておいたのですけれど、いつとはなく輪に輪をかけたうわさとなって、世間にひろがり、塔のおいてある部屋にはいると、足がすくみ、からだがしびれてしまうのだとか、鋼鉄でできた人造人間が番をしていて、あやしいものがしのびよれば、たちまちつかみ殺してしまうのだとか、いろいろの奇妙な評判がたって、それが新聞にものり、今ではだれ知らぬものもないほどになっていました。
二十面相はそこへ目をつけたのです。
一夜に千万円もの美術品をぬすんだこともある二十面相のことですから、黄金の塔そのものは、さほどほしいとも思わなかったでしょうが、それよりも、うわさに高いげんじゅうな防備装置にひきつけられたのです。
人のおそれる秘密のしかけをやぶって、まんまと塔をぬすみだし、世間をアッといわせたいのにちがいありません。
「どうだ、おれには、それほどの腕まえがあるんだぞ。」
と、いばってみせたいのです。
警察や明智名探偵を出しぬいて、「ざまをみろ。」と笑いたいのです。
二十面相ほどの盗賊になりますと、盗賊にもこんな負けぬ気があるのです。
名探偵明智小五郎は、その夕刊新聞の記事を読みました。
翌日には、大鳥時計店の主人が、わざわざ探偵の事務所をたずねてきて、黄金塔の保護を依頼して帰りました。
そして、名探偵は、むろんこの事件をひきうけたのです。
前の事件で、軽気球のトリックにかかったのは、中村捜査係長はじめ、警官隊の人たちでしたが、明智にも責任がないとはいえません。
賊に出しぬかれたうらみは、人いちばい感じているのです。
こんどこそ、みごとに二十面相をとらえて恥辱をそそがなければなりません。
名探偵のまゆには深い決意の色がただよっていました。
ああ、なんだか心配ではありませんか。
怪盗二十面相は、どんな魔術によって、黄金塔をぬすみだそうというのでしょう。
名探偵は、はたしてそれをふせぐことができるでしょうか。
探偵と怪人の一騎うちの知恵くらべです。
悪人は悪人の名まえにかけて、名探偵は名探偵の名まえにかけて、おたがいに、こんどこそ負けてはならぬ真剣勝負です。

怪少女

それと知った助手の小林少年は、気が気ではありません。
どうかこんどこそ、先生の手で二十面相がとらえられますようにと、神さまに祈らんばかりです。
「先生、何かぼくにできることがありましたら、やらせてください。ぼく、こんどこそ、命がけでやります。」
大鳥氏がたずねてきた翌日、小林君は明智探偵の書斎へはいっていって、熱誠を面にあらわしてお願いしました。
「ありがとう。ぼくは、きみのような助手を持ってしあわせだよ。」
明智はイスから立ちあがって、さも感謝にたえぬもののように、小林君の肩に手をあてました。
「じつは、きみにひとつたのみたいことがあるんだよ。なかなか大役だ。きみでなければできない仕事なんだ。」
「ええ、やらせてください。ぼく、先生のおっしゃることなら、なんだってやります。いったい、それはどんな仕事なんです。」
小林君はうれしさに、かわいいほおを赤らめて答えました。
「それはね。」
明智探偵は、小林君の耳のそばへ口を持っていって、なにごとかささやきました。
「え? ぼくがですか。そんなことできるでしょうか。」
「できるよ。きみならば大じょうぶできるよ。ばんじ、用意はおばさんがしてくれるはずだからね。ひとつうまくやってくれたまえ。」
おばさんというのは、明智探偵の若い奥さん文代さんのことです。
「ええ、ぼく、やってみます。きっと先生にほめられるように、やってみます。」
小林君は、決心の色をうかべて、キッパリと答えました。
名探偵は何を命じたのでしょう。
小林君が「ぼくにできるでしょうか。」と、たずねかえしたほどですから、よほどむずかしい仕事にちがいありません。
いったい、それはどんな仕事なのでしょうか。
読者諸君、ひとつ想像してごらんなさい。
それはさておき、いっぽう怪盗の予告を受けた大鳥時計店のさわぎはひととおりではありません。
十名の店員が交代で、寝ずの番をはじめるやら、警察の保護をあおいで、表裏に私服刑事の見はりをつけてもらうやら、そのうえ民間の明智探偵にまで依頼して、もうこれ以上、手がつくせないというほどの警戒ぶりです。主人の大鳥清蔵氏は考えました。
「奥座敷には例の三段がまえのおそろしい関所があるのだし、そのうえ店員をはじめ、警察や私立探偵の、これほどの警戒なのだから、いくら二十面相が魔法使いだといっても、こんどこそは手も足も出ないにきまっている。
わしの店は、まるで難攻不落の堡塁のようなもんだからな。」
大鳥氏は、それを考えると、いささか得意でした。
「二十面相め、やれるものなら、やってみろ。」
といわぬばかりの勢いでした。
しかし、日がたつにつれて、この勢いは、みじめにもくずれていきました。
安心が不安となり、不安が恐怖となり、大鳥氏は、もういても立ってもいられないほど、いらいらしはじめたのです。
それというのは、二十面相が毎日毎日、ふしぎな手段によって、犯罪の予告を、くりかえしたからです。
夕刊新聞に予告の記事が発表されたのは、十六日のことで、問題の二十五日までは九日間のよゆうがあったのですが、二十面相は、あの新聞記事だけでは満足しないで、それ以来というもの、毎日毎日、「さあ、もうあと八日しかないぞ。

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