「ほらごらん! 声の主はここにいるんだよ!」
明智探偵が指さしたほうを見ると、ああ、なんとびっくりしたことでしょう!
今抜き取った鎧の胴体のすぐ後ろに、小型のテープレコーダーがくくりつけられており、カセットのテープがグルグルと回っていたのです!
これは、二十面相の人をバカにした悪趣味ないたずらでした。
彼は、明智が必ずここへやってくることを見越して、明智をからかってやろうと、「ぼくを捕まえようとすると、こんな目に遭うんだよ」と言わぬばかりに、手の込んだ仕掛けを用意しておいたのです。
あとで調べてみたところ、テープレコーダーから廊下の入り口のドアの内側と、鎧の前一メートルほどの床の上にかけて電線が引いてあり、誰かがその場所を踏むとテープレコーダーのスイッチが入るという、とても巧妙なからくりになっていたことがわかりました。
こうして、怪人・二十面相は、またしても完全に勝利を収めたのでした。
たとえこの事件に最初から直接関係していなかったとはいえ、名探偵・明智は、ふたたび二十面相に一本取られてしまったのです。
「小林君、信雄君も、今日のことをよく覚えておいてくれたまえ。ぼくは必ず、あの男を捕まえてみせる。この手であいつの首根っこを押えつけてみせるんだ。こんなにバカにされては、もう我慢ができない。今から一ヶ月以内に、いいかね、一ヶ月以内だよ! ぼくはきっと、絶対に、二十面相を刑務所にブチ込んでみせるからね!」どんな大敵に出あっても、いつもニコニコ笑っている名探偵も、このときばかりは、目を怒らせ、歯を食いしばって、怪人二十面相へ復讐を誓うのでした。
しかし、二十面相のほうでも、少年探偵団員への復讐を、まだまだつづけると宣言しています。
いや、そればかりか、明智探偵までも、同じように、おそるしい目にあわせてやると、今もテープレコーダーがしゃべったばかりです。
ああ、日本一の名探偵と希代の怪盗との戦いは、いよいよ、その絶頂に達しようとしています。
明智勝つか、二十面相勝つか。
その決戦の日こそ待ちどおしいではありませんか。
少年探検隊
それ以来、明智探偵はもちろん、警察でも、熱心に捜索をつづけたのですが、二十面相はどこへ隠れてしまったのか、まったく行方がわからなくなってしまいました。
かならず、少年探偵団員の全部に復讐してみせると、あれほど広言しておきながら、まるでもの忘れでもしたように、どこかへ消えうせてしまったのです。
では、二十面相は、もう復讐はあきらめたのでしょうか。
そして、捕縛されるのが怖さに、東京から逃げだしてしまったのでしょうか。
いやいや、油断はできません。
相手は、何しろ魔法のような怪物です。
復讐をあきらめたと見せかけて、そのじつは、この東京のどこかのすみに身をひそめ、じっと時機のくるのを待っているのかもしれません。
そして、こんどこそ、世間の人をアッといわせるようなおそるしい計画をたてているのかもしれません。
二十面相が姿をかくしてから二十日ほど後のことでした。
ちょうど日曜日と祭日とがつづいて、お休みが二日つづいたので、少年探偵団員たちは、うちそろってハイキングに出かけることになりました。
少年たちは、二十面相が、ちっとも姿をあらわさないものですから、たいくつでしかたがなかったのです。
それに、春もおわりに近い、ハイキングにはもってこいの好季節です。
元気な団員たちは、なんだかじっとしていられないような気持ちでした。
探偵の仕事がなければ、せめて山登りでもして、思うぞんぶん、はねまわってみたかったのです。
少年たちは、一週間もまえから、こんどの二日つづきのお休みには、どこへ出かけようかと、楽しい相談をはじめていましたが、団員の桂正一君と篠崎始君とが、奥多摩の鍾乳洞を探検しようじゃないかと、熱心に主張しました。
桂君と篠崎君とは、同じ中学校の一年生でしたが、同級生に、ごく最近、大学生の兄につれられて、その鍾乳洞へ出かけたものがあって、その少年が洞くつの中のものすごさを、いろいろと話して聞かせてくれたものですから、ふたりはもう夢中になってしまったのです。
少年探偵団員たちは、深さも知れない洞くつの探検と聞いて、大喜びで賛成しました。
冒険が何より好きな少年たちのことですから、無理もありません。
そして、お休みのハイキングは、奥多摩のN鍾乳洞と一決したのでした。
少年たちのハイキングには、少し道のりが遠いのですけれど、同勢十人のうえ、おとなもおよばぬ、しっかりものの小林芳雄君が、団長としてつきそっていくのですから、団員のお父さまお母さまとりも、安心して、このハイキングをお許しになりました。
当日の日曜日の朝は、みな暗いうちから大騒ぎをして、リュックサックを背負い、水筒をさげ、お父さまの古いステッキなどを持って、登山姿りりしく、新宿駅に集合しました。
中央線で一時間ほど、それから支線に乗りかえて、また一時間あまり、その終点でおりますと、こんどは川ぞいの道をバスにゆられて、約三十分、そのさきは、もう車の通らない細い山道です。
自動車をおりた少年探検隊は、小林団長を先頭に、総勢十一人、足にまといつくくまざさをわけて愛国行進曲を合唱しながら、勇ましく進んでいきました。
いっぽうは見あげるばかりの若葉の山、いっぽうは深い谷川です。
その谷川をへだてて、むこうがわには、やはりモクモクと若葉のしげった山がそびえています。
足の下には、ごうごうとひびく水音、その水音をぬうようにして、たえまのない小鳥のさえずり、ウグイスの鳴き声、一点の雲もなく晴れわたった空からは、木々の若葉をとおして、まだ午前中の日光が、さんさんとふりそそいでいます。
「ワッ、おどろいた。
なんだかぼくの足のそばからとびだしていったよ。」
「ワッ、ウサギだ。
ほら、あすこ、あすこ、ああ、もう見えなくなった。」
「ほんとうかい。」
「うそなもんか。
ネズミ色の耳の長いやつが、ピョンピョンとんでいったんだよ。
このへんにはウサギの穴があるのかもしれないねえ。」
「ウサギならいいけど、クマが出やしないかなあ。」
「大じょうぶだよ。
こんなところへクマなんか出るもんか。」」
「フン、クマの野郎が出てきたら、ぼくが金太郎みたいに相撲をとって、生け捕りにしてやるんだけどなあ。」
相撲が得意な桂正一くんが冗談を言うと、十一人は声をそろえて、ワハハと楽しそうに笑い合いました。
歌ったり、飛び跳ねたりと元気いっぱいの少年たちだったので、十キロ以上の山道もまったく疲れることなく、お昼を少し過ぎたころには、もうN鍾乳洞の前に到着していました。
鍾乳洞の入り口の少し手前に、一軒の古ぼけた山小屋が建っていて、その軒先には果物やお菓子、ラムネなどが少しばかり並べられています。
少年たちがそこを通りかかると、家の中から、もんぺをはいた山男のようにたくましいおじいさんが、ニコニコしながら出てきました。
「おめえさん方、鍾乳洞を見物に来ただか。」
おじいさんは日に焼けた赤銅色の顔をシワだらけにして、少年たちに声をかけました。
「ええ、そうです。きょう、ぼくたちより先に見物に来た人たちはいますか?」
小林くんもニコニコしながら、おじいさんにたずねました。
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