初級翻訳・幽霊船 第2話

小川 未明

乙が顔を上げて沖の方を見ると、間違いなく、あの懐かしい船の姿がありました。
しかも、昨日見たのと同じ……あの幽霊船が……こちらへ向かってこいでくるのが見えたのです。
一瞬、ハッとしてうれしさに胸が躍りましたが、次の瞬間には、気味の悪さで体じゅうが震えました。
「こいつめ、俺まで死なせようってのか?」
乙は、恐怖で頭がおかしくなりそうでした。
その間にも、船はますます近く、波を切って島に近づいてきました。
乙は、腰にあったピストルを取り出しました。
そして、船を目がけて、続けて火ぶたを切りました。
しかし、それは幽霊船ではなかったのか、消えることはありませんでした。
船が岸に着くと、二人は陸へ飛び上がりました。
「おい、お前、気が狂ったのか!」
二人はそう言って、暴れ狂う乙をようやく押さえつけました。
乙は、完全に気が狂ってしまっていたのです。
あの夜、二人の乗った船は、向こう側の陸に暴風で吹き飛ばされていました。
そして、波が静まるのを待って、二人は島へ仲間を迎えに来たのでした。
二人は、気が狂ってしまった友だちを船に乗せて、向こうの陸へと帰っていきました。
それから二人は、一生懸命、哀れな友だちを看病しました。そのおかげで、乙の狂気は少しずつおさまり、いつの間にかすっかり治ってしまいました。
それからというもの、三人はずっと仲の良い友だちでした。
今でも、この話は北の港に語り継がれています。
あの無人の小島は、今も青黒い波の間から頭を出しています。
――一九二四・八作――

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