初級翻訳・彗星の話 第2話

彗星の話

ケメトスは塔の頂上に登り、空の星に向かって長い間、祈りを捧げました。
お祖父さんから聞かされていた運命のことが、今はっきりとわかるような気がしました。
やがて彼は右手に松明を持って、塔の頂上に姿を現しました。
それを見て四方から、雷のような拍手と歓声が湧き起こりました。
塔の上から眺めると、辺り一面はぼんやりとした星明かりに包まれていました。
大河がゆったりと流れ、所々に森がこんもりと茂り、宮殿から続く都の家々が屋根を並べ、その間には見渡す限りの見物人がひしめいていました。
ケメトスは空の星に向かって最後にもう一度心の中で祈ると、右手の松明を三度、輪を描くように振って、飛び降りる合図をしました。
どっと歓声が上がったあと、あたりはしんとした静寂に包まれました。
ケメトスは右手に高く松明をかざしながら、大河の深い淵に向かって力いっぱい飛び出しました。
人々は息を殺して、塔から離れたケメトスを見つめました。
ところが、ケメトスの体は塔の下の毛氈の上には落ちてきませんでした。まるで羽が生えたかのように、すうっと空をかすめ、松明の光を長く尾のように引きながら、遠く離れた大河の淵へと落ち込み、そのまま姿が見えなくなってしまったのです。
あまりの見事さと、あまりの意外さに、人々はしばらく呆然としていました。
やがて驚きが静まると、新たな騒ぎが起こりました。
王様の命令で、人々は急いで舟を川に出し、ケメトスが落ちた淵を探し始めました。
捜索は三、四日間続きました。
しかし、ケメトスはどこにも見つかりませんでした。
ケメトスは名前だけを残して、それきり消え失せてしまったのです。
その知らせを受けたお祖父さんは、一言も口をきかず、ただ悲しげにうなずきました。
それからというもの、彗星が空に現れるのを見ると、土地の人たちは「ケメトスが飛んでる!」といつも言うようになりました。
実際、ケメトスが松明をかざして塔から河の淵へ飛び込んだその姿は、空に現れる彗星とそっくりだったそうです。

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