初級翻訳・暗黒星 第4話

ニューコム シモン

しかも、この学説が本当に当たるかどうかなんて、誰にもまだ分からないというのに。

二十七 しかし博士がそこまで用心していたにもかかわらず、世界中は本当に不安に包まれた。
火星からの信号が、ますます激しく送られてくるのだ。
これは間違いなく一種の警告であり、危機を知らせるサインだった。
初めのうちは一日おき、あるいは二日おきに来ていたものが、ついに毎晩続けてやってくるようになった。
火星人が、いったい何事かとものすごく大きな声で叫んでいるに違いない。
それにしても、いったいどんな意味なのだろう。
人々はただただ不気味がり、この理学博士のところへもたくさんの問い合わせが舞い込んだ。
「大丈夫でしょうか? 何か危険なことは起こりはしないでしょうか?」
さすがの博士も、はっきりと断言はしないまでも、ある程度は答えないわけにいかなかった。

二十八 「そうだな、詳しいことは分からないけれど、暗黒星と太陽がぶつかったなら、急に太陽の熱が高くなるように思われる。
二日か三日のうちに熱さが最高潮に達して、それから何週間もの間はものすごく熱いことだろう。
とにかく、家の屋根のように強い太陽の光を直接受ける場所や、その他燃えやすいものは、燃えない素材で覆う準備をしておくのがいいだろう。
特に衣類や食料といったものは、すぐに傷んでしまう恐れがあるから、地下室の底深くしまうような用意をしておかなければならないだろうね」
博士はこれくらいの返事をしたのだった。

二十九 ハットン市にある大学の、ある哲学の博士がこれに対して反対の意見を唱えた。
もともと哲学者と理学の科学者というのは、いつもお互いの意見をぶつけ合って争うものだが、いったいどちらの言うことが事実として正しいのだろうか。
この哲学者の意見にも、なかなかしっかりと人を納得させるだけの力があった。
哲学の先生は、論理(ロジック)の力でこの問題を解決しようとしたのだ。
まず少しでもこの問題に関係のあるすべての事実や材料を集め、それらを方程式の形に当てはめて分析したのである。

十一 哲学者の論理

三十 そしてその結果として発表した内容は、次のようないものだった。
「過去一万年間の記録を調べてみると、太陽は全宇宙の中で最も変化しないものの一つである。
世の中に気象台ができてからの統計を見ても、太陽が毎一年、私たちの地球の表面に降り注ぐ光と熱の量は、ほんの少しも増えたり減ったりしていない。
そんな太陽が、どんな理由があるにせよ、突然その熱さを変えるなどという想像は、どんな科学的な実験にも裏付けられていない、単なる根拠のない空想にすぎない。
だからこそ、理学博士の予言に驚かされて、無暗に恐れおののくような態度は、論理的ではない(イルロジカル)。
理学博士自身ですら、自分の予言にいくらかの疑いを持っているのだから、なおさらその通りである。
とはいえ、どちらに転んでも損得が非常に大きい大問題なのだから、理学博士の注意に従っておくことが賢いやり方であることは言うまでもない。できる限りの用心をしておいて損になることはない」

三十一 こうなるとまた、理学博士のところへ次から次へと問い合わせがやってきた。
「先生の数理的な説明に、何か間違いはないのでしょうか? 何百万年ものあいだ秩序正しく保たれてきた宇宙の天界が、一瞬にして大変化を受けるようなことはなさそうに思えるのですが……」などと、手紙が夕立ちのように激しく降り注いだ。
博士はこれに対してただ、「私の学説は、私たちが普段見聞きする範囲の中では、まだ一度も実際に起きて実験されたことのないものだ」と答えるだけだった。
もちろん、実際にそれが起きたところを実験できるはずなどない。
むしろ博士は、世間の人たちが自分の説を疑ってくれるのを喜んでいた。
博士の説には確かな根拠があったが、あえてその根拠を詳しくは見せなかったのだ。
その根拠とは、さきほど説明した通り、夜空にときどき新しい星が輝く現象こそが、暗黒星とほかの星が衝突した結果であるという一つの事実である。
もしこの事実をはっきりと示していたなら、哲学者の結論も違ったものになっていたかもしれないが、博士には自分なりの考えがあって、一番大切なこの根拠を隠していたのだった。

三十二 学者たちの議論がこのように続いているあいだにも、あの暗黒星は、ヒマラヤ天文台の巨大な望遠鏡にだけはしっかりと姿を捉えられるようになっていた。しかし、世間のほかの望遠鏡には少しも写らなかった。
だが、それも最初だけのことで、週が経つごとに、さらに小さな望遠鏡でも見だせるようになり、ついに天体を観測する人なら誰でも確認できるほどになった。
そして、いよいよ暗黒星が太陽にたどり着く二ヶ月前になると、ヒマラヤ天文台はその正確な時刻まで詳しく発表した。
その時間は十二月十二日の午後だった。
つまりヨーロッパの全地域ではすでに日が沈んだあとで、北の方のほんの一部分を除いたアメリカ大陸全体と、太平洋の大部分でその様子を見ることができるという。
さらに詳しく言うならば、ちょうどラブラドル地方で日が暮れたころにあたる。
そのため、アメリカ東海岸の中央部あたりでは、まだ一時間ほど夕方の太陽が残っている時間帯だった。

三十三 一夜、また一夜と、その運命の期限が近づくにつれて、世界中の人々はただ、根拠のない期待にすがりながら自分を安心させようとするようになっていった。
これまでにも、時々「世界が破裂する」という噂が流れることはあったが、いつだって最後には天文学者の計算違いであることが分かり、世界はこうして何事もなく存在し続けてきた。
だから今回の暗黒星とやらの話も、きっとまた計算違いに違い違いない。なるほど太陽のそばまで来るには来るのだろうけれど、途中から横にそれて、だんだん遠ざかり、二度と姿を現さなくなったりはしないだろうか?これも無理のない想像である。
軌道のある星ならば、天文学者の計算違いということもあろうが、すでに軌道を踏み外したお尋ね者、あてどない無宿者で、やみくもに天界から落ちてくるのだから、太陽へ落ち込むに決まっている。
地球の引力の範囲で落ちたリンゴは、どうしたって地球へ落ちるに決まっているではないか。
暗黒星はすでに太陽の引力の範囲へ落ち込んでいるのだ。太陽の表面の外側にいて、いったいどこへ落ちるというのだろう。

十二 いよいよ十二月に入る

ついには暗黒星が肉眼で見えることとなった。
天気さえよければ毎晩見える。
こうなると、「途中から横にそれるかもしれない」という根拠のない期待は消え去ってしまった。
それるものか、天文台の報告の通りに進んでいくのだ。

三十四 ただ、その光の小ささには本当に驚かされる。
夜が過ぎるごとに多少は太くなっているのだろうけれど、見た目には分からない。
(暗黒星であっても太陽の光を反射して輝いており、ちょうど月の輝くようなものなのだ)
大昔の人は星を吉凶禍福の源と信じて、ひどく恐れ気にしたものだ。
けれどもしこのような星が現れたなら、きっとほとんど気が付かずに過ごしていただろう。

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