初級翻訳・楽聖物語 第17話

楽聖物語

清楚な中に情熱を秘めた、不思議な魅力を持つモーツァルトです。
他にも、ギーゼキングによる「ソナタ 変ロ長調」のレコードがあります。

**弦楽その他の四重奏曲、五重奏曲**

 モーツァルトの室内楽――とりわけ弦楽四重奏曲や五重奏曲は、それ自体が珠玉の芸術です。
この世の中に、これほど無条件に美しい音楽が存在するでしょうか。
それらはハイドンの室内楽を土台としつつ、さらに独自の芸術の高みを開拓したものです。ハイドンとは全く異なり、より華麗で、より明朗で、そしてより美しい宝石のような作品が次々と生み出されました。
晩年の作品には、ト短調の交響曲に見られるような、「楽しさが極まって哀しみが生まれる」という趣があるにしても、それが美しさを損なうことはありません。かえって深い陰影を加え、モーツァルトの芸術をさらに一段高い境地へと引き上げたのです。レナー四重奏団はモーツァルトの曲を四つ録音していますが、どれも十年以上前の古い録音なので、今の時代に比べたり評価したりするのはちょっとかわいそうなくらいです。
 その中からあえて挙げるなら、「弦楽四重奏曲(狩猟)変ロ長調 K.458」と「弦楽四重奏曲ト長調 K.387」の二つですが、もともとの曲の面白さも考えると、前者の「狩猟」を選ぶのが自然でしょう(コロムビア J7854-6)。
 この曲はモーツァルトの四重奏曲の中でもおごそかでしっかりとした作りで、レナー四重奏団の繊細でやわらかな美しさは、レコードが発売された当時、私たちの血を大いに沸かせたものです。
 当時は、生の素晴らしい弦楽四重奏の演奏を聴くチャンスなんてめったになかった私たちにとって、それはまさに魔法のような美しさに感じられたからです。
 のちにカペエ四重奏団によるモーツァルトのレコードが登場したことで、レナー四重奏団の人気や評価はぐっと下がってしまいました。
 たとえば、カペエ四重奏団の「弦楽四重奏曲ハ長調 K.465」(コロムビア J7786-9)などは、レナーと同じく十数年前の古い録音ではあるものの、演奏のテクニックはもちろんのこと、音楽に向き合う心構えや表現の感覚において、レナーとは全く別世界のものでした。そしてそれは、現代を生きる私たちが触れることのできる、最高芸術の域に達しているものです。
 一見するととてもシンプルでわかりやすいのですが、隅々まで行き渡った光と、噛み締めるほどに味わい深い魅力は、聴く人をこの上ないうっとりとした気分へと誘わずにはおきません。
 ほかにもプロ・アルテ、コーリッシュ、クレトリーといった他の四重奏団によるモーツァルトの演奏もありますが、それらを聴くのは、まずは以上で挙げた数々の名演をしっかりと味わったあとのことです。

「フリュートと弦楽のための四重奏曲イ長調 K.298」は、若々しさに満ちた美しい曲です。
ルネ・ル・ロアとパスキエ三重奏団による手頃なレコードが、愛好家協会の第4集に収められています。

「オーボエと弦楽のための四重奏曲ヘ長調 K.370」は、オーボエの名手グーセンスとレナー四重奏団による演奏がコロムビアから出ています(J8209-10)。

「ピアノと弦楽のための四重奏曲ト短調 K.478」は、シュナーベルとプロ・アルテという組み合わせの演奏も、参考としてここに挙げておきましょう。

 五重奏曲の中で、「弦楽五重奏曲ト短調 K.516」は、モーツァルトの晩年の切ない悲しみがたっぷり詰まった曲で、ヴィオラが2本加わる五重奏曲のジャンルにおける最高傑作とされています。
 コロムビアにはレナー四重奏団とドリヴェラによる演奏があり(J7763-6)、ビクターにはプロ・アルテ四重奏団とホブディによる演奏がありますが(JD371-4)、感情豊かで甘口な前者と、頭脳的ですっきりした后者とで、好みが分かれるところでしょう。
 ちなみに録音の古さで言えば、プロ・アルテの方がはるかに新しく綺麗です。

 五重奏曲の中で最大の魅力と言えば、何と言っても「クラリネット五重奏曲イ長調 K.581」です。
 ブラームスのクラリネット五重奏曲と並んで、この楽器のために書かれた史上最高の傑作であり、そのどこまでもまとわりつくように甘美な美しさは他には比べようもありません。
 この曲のレコードは3つの種類が出ています。
 一番古いのはレナー四重奏団とドゥレーパーの組み合わせ(コロムビア J7451-4)、次の世代はブダペスト四重奏団とベンジャミン・グッドマンの組み合わせ(ビクター JE167-9、JD1374)、そして一番新しいのがロート四重奏団とベリスンの組み合わせです(コロムビア JW203-6)。
 この3つのなかでは、ジャズの指揮者であり一流のクラリネット奏者でもあるベニー・グッドマン(つまりベンジャミン・グッドマン)とブダペスト四重奏団のものがとても評判が良く、絶賛する人も少なくありません。しかし、昔からの音楽ファンたちの中には、今でもレナーとドゥレーパーのコンビに強い愛着を感じており、「これでなければこの曲を聴いた気がしない!」という人が多いのも確かな事実です。
 それは、レナー四重奏団の甘く切ない表現力と、ドゥレーパーが奏でるクラリネットの思いがけないほどの素晴らしさによるものです。ベニー・グッドマンはどれほど上手だと言っても、やはりジャズ奏者らしい荒っぽさや、クラシック特有の深い感情表現の物足りなさがどうしても残ってしまうからでしょう。

 ピアノ三重奏曲も3、4種類ほどレコードに録音されています。
 その中から一つだけ選ぶなら、「ピアノ三重奏曲ホ長調 K.542」の、ベルギー宮廷付属三重奏団によるコロムビア・レコードを挙げるにとどめておきましょう(J7883-4)。

**管弦楽曲**

 数えきれないほどの序曲やドイツ舞曲、セレナーデ、そして嬉遊曲(ディヴェルティスマン)の中から、特に優れたものをいくつかご紹介しましょう。
 ひと口にモーツァルトのセレナーデと言えば、愛らしさと魅力、そして輝きのすべてが詰まった「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」です。世の中にたくさんレコードが出ていますが、その優雅で端正な美しさという点において、コロムビアから出ているワルター指揮のものを一番におすすめしなければなりません(JS23-4)。
 続いて、録音の少し悪いのを我慢できるのであれば、ポリドールから出ているフルトヴェングラー指揮の、重厚で壮大なスケールの演奏を選ぶのが順当なところでしょう(G108-110)。

「ドイツ舞曲」もたくさんレコードに入っていますが、コロムビアにあるワルター指揮の第1番から第3番までの3曲だけに絞っておきます(J5577)。

 気楽に楽しめる嬉遊曲(ディヴェルティスマン)も非常に愛すべき音楽たちですが、わざわざ取り上げて紹介するほど印象に残っているレコードは、今のところ特にありません。序曲は有名な曲がいくつも重複してレコード化されていますが、特に素晴らしいのはフルトヴェングラー指揮による「フィガロの結婚」(ポリドール4513)と、メンゲルベルク指揮による「魔笛」(ビクター1486)の二つではないでしょうか。

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