致命的な心配はないのですが、あまりに突然のことだったので、少し慌ててしまいました。
母船側の操作はとても上手くいったようで、数秒のうちにワイヤーがピンと張り、機体はほぼ元の位置に戻りました。
このごく短い時間の間に、窓の外に現れたもの。それこそが、ずっと待ち望んでいた海底の真の姿でした。
一言で言うなら、それは「白褐色の世界」でした。
険しい岩礁が寄り添い、その間が暗い崖になっています。
岩礁は、岩肌がまったく見えないほど、珊瑚と海百合(うみゆり)と海藻で覆われていました。
珊瑚といっても、珊瑚礁を作る仲間の珊瑚で、もちろん赤い本珊瑚ではありません。
ほんの少し褐色がかった、白い色をしています。
細く枝分かれしたその白い木のような珊瑚の間に、褐色の海藻が群生しています。
海藻についてはまったく知識がないので種類はわかりませんが、形はどれもテングサに似ていて、細い糸くずを束ねたような姿です。
色はそれぞれ少しずつ違っているので、少なくとも三種類はあるのでしょう。
ただ、色が違うといっても、どれも白から褐色にかけてのグループで、褐色の濃さが少し違うか、黄色や赤色がわずかに混ざっている程度の違いです。
昆布のような形の藻も二、三本見えますが、こちらは少し濃い褐色をしています。
長さは三尺(約90センチ)ほどで、北海道の海辺で見る昆布の半分もありません。
こうした海藻も、空気中に引き上げてみれば、また違った色に見えるのかもしれません。
しかし海底では、どれも似たような色に見えます。
一面に薄い霧がかかったような、統一感のある調子です。
この景色、どこかで見たことがあるような気がしましたが、それは錯覚でした。この景観の記憶は、ヨーロッパの古城に秘められた、古い「ゴブラン織」の思い出だったのです。
本来は鮮やかな色を避けた高貴なゴブラン織のタペストリーが、長い年月のうちに少しずつ色あせて、全体が淡い黄褐色になり、独特の美しさを放っている――。
海底の真の景色の美しさは、まさにこのゴブラン織に通じる美しさであり、雑誌のカラー口絵のような色調ではありません。
魚のときもそうでしたが、海底の景色もまた、写真に撮るにはもっとも不向きな色合いなのです。
横倒しになりながら、同乗していた写真班の宮崎君に急いで二、三枚撮ってもらいましたが、あとで確認するとほとんど写っていませんでした。
そういえば、海外の海底写真を見ても、いわゆる「美しい写真」というのはほとんどありません。
それが真実なのでしょう。
しかし、いわゆる華やかな写真にはならなくても、このゴブラン織の世界は、別の意味で非常に美しい世界です。
カラー写真の技術を使えば、あるいはこの独特の美しさを、地上の人々に伝えることができるかもしれません。
(昭和二十六年八月)
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