ところが、殻を取り除いた海蛍の体は三ミリ以下の大きさしかなく、その小さな体の中のさらに一部にある唾液腺ですから、到底それを分離することなどできません。
しかし、水がその光る物質を分離するのに、とても便利な働きをしてくれるのです。
七 水と発光
水と火は相容れないもので、水は最高の消火剤です。
だから火事のときにはポンプ(消防車)が欠かせません。
ところが、面白いことがあります。
水がなければ、海蛍は光らないのです。
これは、乾燥した海蛍が光らないのを見ればよく分かります。
その理由はこうです。
海蛍が光るのは、その光る物質が水に溶けるからです。
光る物質が水に溶けなければ、海蛍は決して光りません。
ですから、この「光る物質が水に溶けること」と「光る物質が光ること」は、どうしても切り離すことができないのです。
この理屈は、エーテルに入れた実験材料が全く光らないのを見れば、さらによく分かります。
というのも、海蛍の光る物質はエーテルには全く溶けないからです。
だからエーテルの中では決して光りません。
ところが、この光る物質は水にはよく溶けます。
だから水の中では見事に光るのです。
とはいえ、光る物質は無限にあるわけではないので、しばらくすると水の中での発光も止まってしまいます。
これは、お小遣いでいろいろな買い物をしていると、最後には財布が空になるのと同じことです。この場合、お金はなくなってしまいましたが、その代わりに買った何かが手元に残っています。
言ってみれば、お金という形が別の何かに変わって残っているのです。
それと同じように、光らなくなった水の中には、何かが残っています。
だから、この水は大切に保存しておくのです。
ところが、ここに面白い謎があります。
水の中で光る実験材料と全く同じものを、沸騰しているお湯の中に入れると、それは全く光らないのです。
それならば、エーテルの場合と同じ理屈で、海蛍の光る物質はお湯には溶けないのではないでしょうか。
もしそうだとしたら、それは相当に特殊な物質だと言えるでしょう。
なぜなら、水に溶ける物質は、お湯にはさらに良く溶けるのが普通だからです。
例えば砂糖などを溶かすとき、水よりも熱湯の方がよく溶けることは、誰でも知っていますよね。
それならば、海蛍の光る物質は、卵の白身(タンパク質)のように、熱湯に入れると固まってしまうのではないでしょうか。
あるいは、そうかもしれません。
もしそうだとすれば、海蛍の光る物質の研究は、そこで万事休すということになってしまいます。
八 二つの発光物質
フランスの貝類の光る物質の中に、二つの物質があるということを初めて発見したのはデュボアです。その一つの物質は摂氏百度の熱湯の中でも壊れませんが、もう一つの物質は摂氏六十度以上の熱湯に入れると、完全に壊れてしまいます。
そう考えると、海蛍が光るための物質にも二つの種類があり、沸騰したお湯の中で光らないのは、もしかするとその片方の物質が壊れてしまったからではないでしょうか。
もしそうだとすれば、沸騰したお湯の中でも壊れない方の物質は、そのお湯の中に無事に残っているかもしれません。
このように考えれば、先ほどの謎も解決がつきます。
だから、このお湯も大切に取っておくことにします。
もし海蛍の光る物質にも、先ほどのような二つの物質、つまり熱で壊れるものと、熱では壊れないものがあるとすれば、水の中に入れた実験材料が光るのは、その二つの物質が同時に水に溶け出すからだと考えなければなりません。
そうすれば、水の中の実験材料が最後には光らなくなったのには、少なくとも二つの理由があると考えられます。
第一には、その二つの光る物質が両方ともなくなってしまったから光らなくなったということ。第二には、二つの光る物質のうちのどちらかが先になくなってしまったから光らなくなったということです。
もし第一の理由で光らなくなったのであれば、特に問題はありません。
もし第二の理由で光らなくなったのであれば、二つの物質のうち、どちらがなくなったのかが問題となります。
生物の体には、非常に大切な役割を持っていて、熱によって壊れてしまう物質がたくさんあります。
例えば、人間の食べ物(でんぷん)の消化を助ける物質が大根の中に含まれていますが、その大根を加熱すれば、消化を助ける物質は熱のために壊れてしまいます。
ですので、大根は生でおろして食べれば消化に効き目がありますが、加熱してしまえば、全くただの水の塊を食べているようなものです。
この生物の体の中にあり、熱によって壊れる物質は、不思議な持久性(何度でも繰り返し働く性質)を持っています。
例えば、消化を助ける物質が食べ物に作用して、その食べ物を消化させたとしても、その消化を助けた物質そのものは、依然として残っているのです。
生物学者はこの種の物質を「醗酵素(はっこうそ)」あるいは「酵素(こうそ)」と名づけています。
海蛍の光る物質の場合もそれと同じように、まず二つの光る物質、つまり一つは熱で壊れるもので、もう一つは熱で壊れないものがあると仮定して、この二つの物質の中で、熱のために壊れる方の物質も、酵素のような持久性を持っているのではないでしょうか。
もし熱のために壊れる物質が持久性を持っているとすれば、水の中に入れた実験材料が最後には光らなくなったのは、熱には壊れない方の物質が先になくなってしまったからかもしれません。
言い換えるならば、熱には壊れない物質が、光るために変化してしまったのかもしれません。
そうすれば、その熱によって壊れる方の物質は、依然として水の中に残っている可能性があるのです。
この熱で壊れる物質が果たして水の中に残っているかどうかを証明するには、この物質と、熱には壊れないもう一つの物質を混ぜ合わせて、実際に光るかどうかを実験してみなければなりません。
もし光れば、熱で壊れる物質が水の中に残っていたことになりますし、もし光らなければ、その物質は水の中には残っていないということです。
それからまた、海蛍の光る物質には熱で壊れる物質以外に、もう一つ熱では壊れない物質があると仮定します。そこで、沸騰しているお湯の中に海蛍の実験材料を入れると、その瞬間に熱で壊れる方の物質は壊れてしまいます。
だから、このお湯に入れた材料は光らないのでしょう。
そして熱で壊れない方の物質は、お湯の中に溶けたまま無事に残っているのではないでしょうか。
それが無事に残っているかどうかを確かめるためには、このお湯が冷めてから、それに「熱で壊れる物質が残っているかもしれない水」を入れてみるより他に方法はありません。
もしこのお湯の中に熱で壊れない物質が溶けて無事に残っており、また、水の中に熱で壊れる物質が依然として残っていれば、この二つの液を混ぜ合わせると光るはずです。
そこで、この二つの液体を混ぜてみます。
すると、見事に光るのです。
だから、海蛍の光る物質には二つの種類があることが分かります。
その一つは熱のために壊れ、もう一つは熱では壊れない物質です。
この二つの物質が組み合わさることで、海蛍は光っているのだと分かります。
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