人間の分際で、我々エリートの高貴な生物をやっつけようなどとは、まったく生意気な連中め」
――なにが「生意気」でしょう。
地球に勝手に攻め込んできて、我が物顔で暴れ回っている火星兵たちの方が、よほど何倍もふてぶてしい連中です。
しかし、世の中は結局「実力」がすべてです。
相手がどれだけけしからんと口で怒ってみても、相手が圧倒的な実力で攻めてくる以上、こちらにそれを跳ね返す実力がなければ、無残に踏みにじられてしまいます。
実力を持たない者、そして事前に実力を備えることを怠った者は、いつの時代であっても、あまりにみじめな結末を迎えるのです。
しかし、地球の人類は、火星兵団の怪力線の前に完全に手も足も出なくなったわけではありません。
なんといっても、私たちにはあの「蟻田博士」がついています。
博士はなんと、たった一晩という驚異的な早さで、火星兵団をギャフンと言わせるための「新しい秘密兵器」の準備を完璧に整え終えていたのです。
さて、博士はいったいどんな兵器を繰り出すのでしょうか!?
56 負け戦
その朝、火星兵団長の丸木は、いつも通り千二少年に揺り起こされました。
丸木は、めずらしく機嫌がすこぶる良好でした。
それもそのはず、前日に大江山突撃隊の奇襲によって危うくやられかけましたが、隠し持っていた怪力線のおかげで見事に撃退することができたからです。丸木はすっかりいい気分になっていたのでした。(ふふん、昨日は人間たちのチームに、すっかりやられてしまうかと思ったぞ。
あのままあいつらに攻め込まれていたら、こちらもうんと苦しい戦いになっていたかもしれない。
人間たちが引き上げてくれて、本当に運がよかったぞ)
と、丸木は昨日のことを思い返しながら、ふふふふと薄笑いを浮かべました。
千二(せんじ)少年は、丸木のまわりをきれいに片づけると、部屋から出ていこうとしました。
それを見ていた丸木は、
「おい千二、ちょっと待て」
「はい、兵団長」
千二少年は、これまでどおり丸木に電気帽をかぶらされ、電波で心をあやつられる「囚人」にされているため、丸木の命令には逆らうことができません。
「お前、今日はなんだか顔色が悪いが、どうかしたのか?」
丸木は、めずらしく少年にやさしい声をかけました。
「はい……。
今朝から頭がわれるように痛くて、困っています」
「なんだ、頭がわれるように痛いだと?」
丸木は少し考え込んでいましたが、やがてうなずくと、
「電気帽で、この少年の脳をあまりきつく締めすぎたのかもしれん。
いま千二に死なれては、おれが困る。
よし、ちょっと緩めてやるか」
とひとりごとをつぶやき、千二のそばへ歩み寄って電気帽に手をかけました。
「あ、痛っ! 痛い、痛い!」
千二が飛び上がりました。
「いま痛いのをとめてやるから、じっとがまんしろ」
と、丸木は千二がかぶっている電気帽のネジを緩めようとしました。
「あれっ! これは、ネジがさびているぞ。
なかなかうまく回らないな。
うん、うん!」
丸木はうなり声をあげながら、力いっぱい自分の触手を使ってネジを回しました。
ところが、あまりにも力を入れすぎたせいで、ネジの一つが「ぽろん」ともげ、コツンと音を立てて下に落ちてしまいました。
「ああっ、痛い!」
千二少年が悲鳴を上げました。
「おお、かわいそうに……」
丸木は大あわてです。
千二は苦しそうにもだえながら、その場にパタリと倒れてしまいました。
「しまった!
千二よ、死んでしまうんじゃないぞ!」
丸木が少年のそばへ駆け寄ろうとしたその時、部屋に取り付けられていた警報のベルが、けたたましく鳴り響きました。
ジャン、ジャン、ジャン、ジャン!
「おお、警報ベルだ!
いったいどうしたというのだ?」
丸木はびっくりしてその場に立ちすくみました。
その時、壁にしかけられたスピーカーから、大きな火星語の声が飛び込んできました。
「兵団長、一大事です!
我が兵団は、たった今大きな被害を受けています!
すぐに出てきてください!」
「大損害とはどういうことだ!?
いったい何が始まったんだ!」
「大変なんです!
宇宙艇がボコボコと壊れているのです!
どんどん溶けて、まるで煙のように消えていってしまうのです!」
「なんだと、宇宙艇が煙に……!?
そうか、それは大問題だ!
今そっちに行くから、みんなにしっかりしろと伝えろ!」
兵団長の丸木はびっくり仰天して、部屋から飛び出していきました。
あとに残されたのは、床の上にぐったりと横たわる千二少年ひとりだけです。
大変だ!
原因はまったくわかりませんが、火星兵団が乗ってきた宇宙艇にいま、一大事が起きていました。
シュッ、シュッと、宇宙艇の端から端へと煙を上げて、どんどん崩れていくというのです。
火星兵団長の丸木も、この報告を聞いて目を丸くして驚きました。
彼はあわてて外へと飛び出しました。
「おお、こいつはとんでもない一大事だ!」
丸木はぼんやりと立ち尽くし、煙を吹き上げている宇宙艇を不思議そうに見つめるばかりでした。
「兵団長、あおの通りです!
あっ、こっちの宇宙艇からも煙が出てきました!
やられた宇宙艇は、これでもう六隻か七隻になります!
どうしましょう、兵団長!」
参謀らしき火星人が、青ざめた顔であわてて丸木の肩をたたきました。
「おお、こいつはとんでもない一大事だ!」
丸木はまるで夢を見ている人のように、同じひとりごとを何度も繰り返しました。
「兵団長、一刻も早く命令を出してください!
『急いで地球から引き上げろ!』と、そうおっしゃってください!
このままでは、我々が火星まで乗って帰るための宇宙艇が、ぜんぶ全滅してしまいます!」
参謀の声は恐怖でブルブルとふるえていました。
「うーん、こいつは参ったな。
敵のやつ、蒸発させるガスを砲弾に詰めて砲撃してきやがったんだ。
こちらが油断していた……。
おい、ただ逃げ出すことよりも、敵の砲兵陣地を探しあてるんだ!
急いで行って、この砲弾を撃ち出している陣地を探してこい!」
「敵の砲兵陣地ですね!
へいっ!」
一度言い出したら絶対に引かないのが丸木という男でした。
それをよく知っている参謀の一人は、すぐにパッと駆け出していきました。
観測台のある宇宙艇のところへ行き、人間たちの砲兵陣地を探させるためでした。
「参謀、よくわかりません!
山のかげになっていて、陣地なんてまったく見えません!」
「なに、山のかげになっているだと?
それは困ったな……。
どうにかして居場所を知る方法はないのか?」
「さあ、お手上げですな……」
火星兵団が、めったに見られない「負けの色」に染まっています。
観測台のある宇宙艇の下で、参謀と観測兵がそんな押し問答をしているところへ、バタバタとすごい音がして、さらに二名の火星人が駆けつけてきました。「おい、兵団長が返事を待っておられるではないか。どうしたんだ。人間隊の砲兵陣地がある場所は?」
「おい、早くしろということだ。ぐずぐずしているから、また宇宙艇が三隻ばかり煙になってしまったぞ。これでは約束が違う。
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