「よそのむすめが、ぼくのところからにげだして、あのナシの木の上にとびあがってしまったらしい」それを聞いて、お父さんは、
(木の上にとびあがったのなら、それは灰かぶりのはずだが……)
と、思いました。
そこで、おのをもってこさせて、その木を切りたおしました。
けれども、木の上にはだれもいませんでした。
それから、みんなが台所にはいってきますと、灰かぶりは、いつものように、灰のなかにねころんでいました。
じつをいうと、それはこういうわけなのです。
つまり、灰かぶりは木のむこうがわにとびおりて、ハシバミの木の上のいつもの鳥に、きれいな着物をかえしておいて、じぶんは、ネズミ色のいつものうわっぱりにきかえていたのでした。
三日めにも、おとうさんとまま母が、ねえさんたちをつれてでかけてしまいますと、灰かぶりは、またおかあさんのお墓のところへいって、ハシバミの木によびかけました。
ねえ ハシバミさん ゆれてうごいて
金と銀とをおとしてちょうだいな
すると、いつもの鳥が着物をなげおとしてくれました。
ところが、その着物ときたら、目もさめるように美しくて、きらびやかで、それこそ、まだだれもきたことのないようなものでした。
それに、上ぐつはぜんぶ金でできているというすばらしさです。
ですから、灰かぶりがこの着物をきて、宴会の席へあらわれたときには、だれもかれもが、ただただおどろきあきれるばかりで、なんといったらいいのか、わからないくらいでした。
王子は、灰かぶりとばかり、ずっとおどりつづけました。
だれかがやってきて、灰かぶりといっしょにおどりたいといっても、王子は、
「このひとはぼくの相手だよ」
と、いって、ことわりました。
そのうちに、日がくれましたので、灰かぶりはかえろうとしました。
もちろん、王子はあとからついていくつもりでした。
ところが、灰かぶりがあんまりすばやくにげてしまいましたので、とうとう、あとからついていくことができませんでした。
でも、王子は、きょうは計略をめぐらして、階段じゅうにチャンというべたべたする薬をぬらせておきました。
そのため、灰かぶりが階段にとびおりえたたん、左の上ぐつがべったりとチャンにくっついて、そのままあとにのこってしまいました。
王子がそのくつをとりあげてみますと、それはちっちゃくて、きれいで、ぜんぶ金でできていました。
そのつぎの朝、王子はそのくつをもって、あの金持ちの男のところへいきました。
そして、
「この金のくつがぴったり足にあう女を、ぼくは妻にしたいのだ」
と、いいました。
それをきいて、ふたりのきょうだいはよろこびました。
だって、ふたりともきれいな足をしていましたからね。
まず、ねえさんのほうが、そのくつをもってへやのなかにはいり、ためしてみようとしました。
まま母もそのそばに立っていました。
ところが、足の指が大きすぎるために、どうしてもはいりません。
だいいち、くつぜんたいが小さすぎます。
そのようすを見て、まま母はほうちょうをわたしながら、
「足の指なんか、切ってしまいなさいよ。お妃さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね」
と、いいました。
むすめは足の指を切りおとして、くつのなかに、むりやりに足をおしこみました。
そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子のところへいきました。
そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにそこをでかけました。
ところが、ふたりは、あのお墓のそばをとおっていかなければなりませんでした。
すると、ハシバミの木にとまっていた二羽のハトが、
ちょいとうしろを見てごらん
ちょいとうしろを見てごらん
くつのなかは血がいっぱい
だってくつがちいちゃすぎるもの
ほんとのよめさん うちにいる
と、よびかけました。
こういわれて、王子がむすめの足もとを見ますと、なるほど、血がそとまでながれでています。
王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめを、またうちへつれていきました。
そして、
「このむすめはほんものではないから、もうひとりのきょうだいにくつをはかせてみなさい」
と、いいました。
そこで、こんどは、妹のほうがへやのなかにはいりました。
うまいぐあいに、足の指はくつのなかにはいりましたが、かかとが大きすぎます。
そのようすを見ますと、まま母がほうちょうをわたして、いいました。
「かかとのすこしぐらい、切ってしまいなさいよ。お妃さまになれば、もう足で歩くこともなくなるからね」
むすめはかかとをすこし切りとって、くつのなかに、足をむりやりにおしこみました。
そして、いたいのをやっとがまんしながら、へやをでて、王子のところへいきました。
そこで、王子はこのむすめを花よめとして馬にのせ、いっしょにでかけていきました。ふたりがハシバミの木のそばをとおりかかりますと、木の枝にハトが二羽とまっていて、
ちょいとうしろを見てごらん
ちょいとうしろを見てごらん
くつのなかは血がいっぱい
だってくつがちいちゃすぎるもの
ほんとのよめさん うちにいる
と、うたいました。
いわれて、王子がむすめの足を見おろしますと、なるほど、くつから血がながれでて、しかも、白いくつしたが上のほうまでまっかにそまっています。
そこで、王子はすぐさま馬のむきをかえて、にせの花よめをまた家へつれていきました。
「このむすめもほんものではない。
もう、ほかにむすめはないのかね。」
と、王子はいいました。
「ございません。」
と、お金持ちの男がいいました。
「もっとも、なくなりました家内がのこしていったむすめがひとりおりますが、これは体も小さくて、いつも灰だらけのきたないかっこうをしております。
とても、花よめになれるようなものではございません。」
すると、王子は、
「そのむすめをここへつれてきなさい。」
と、いいました。
ところが、まま母は、
「まあ、とんでもないことでございます。
とてもきたなすぎて、こちらへつれてまいれるようなものではございません。」
と、もうしました。
けれども、王子がどうしても見たいというので、とうとう灰かぶりがいきさつを話してよびだされることになりました。
それで、灰かぶりは、まず両手と顔とをきれいにあらいました。
それから、でてきて、王子のまえでおじぎをしました。
王子は灰かぶりに金のくつをわたしました。
そこで、灰かぶりは足台にこしかけて、おもたい木ぐつから足をぬきだして、金の上ぐつにいれてみました。
ところが、どうでしょう。
くつはぴったりと灰かぶりの足にあっています。
それから、灰かぶりは立ちあがりました。
王子がその顔を見ますと、それこそ、じぶんといっしょにおどった、あの美しいむすめではありませんか。
それで、王子は思わず大きな声をだして、
「これがほんとうの花よめだ。」
と、いいました。
まま母とふたりのきょうだいは、びっくりしました。
そして、くやしさのあまり、まっさおになりました。
けれども王子は、そんなことにはおかまいなく、灰かぶりを馬にのせて、いっしょにでかけました。
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