むかしむかし、ある農夫(のうふ)が、とてもよく働く一とうの馬を飼っていました。
ところが、馬はだんだん年をとって、ついに仕事ができなくなってしまいました。
すると、しゅじんは、ごはんをやるのがいやになってしまったのです。
「おまえは、もう何の役にもたたない。
それはわしにもよく分かっているが、それでも、わしはおまえをかわいく思っているんだ。
だから、もしおまえが、まだこの家にライオンをつれてくるだけの力があるなら、これからも飼ってやることにしよう。
だが、まずは、この馬小屋から出ていってくれ」
こう言って、農夫は馬を広い野原へ追い出してしまいました。
馬はしょんぼりと、森のほうへ歩いていきました。
森へいけば、雨や風をいくらかは防げるだろうと思ったからです。
すると途中で、一ぴきのきつねに出会いました。
きつねは、馬にたずねました。
「おまえさん、どうしてそんなにうなだれて、さびしそうに歩いているんだい?」
「ああ……。人間の欲深(よくぶか)い心ってやつには、本当に困ったもんさ。
こっちは真心(まごころ)をこめて尽くしてきたというのに、どうしようもないんだからなぁ。
おいらは長年のあいだ、しゅじんの言うとおりに、いっしょうけんめい働いてきた。
そりゃあ今は、畑仕事はできないさ。
だけど、しゅじんときたら、おいらをさんざん働かせたこともすっかり忘れちまって、ごはんをやるのがもったいなくて、おいらを追い出しちまったんだ」
と、馬はお話しました。
「なぐさめてもくれなかったのかい?」ときつねが聞きました。
「いや、それがさ、そのなぐさめかたが、またひどいのなんのって。
なにしろ、おいらがしゅじんのところへ、ライオンをつれてくるくらい強かったら、飼ってやろうって言うんだ。
おいらにそんなことできっこないなんて、わかりきっているくせになぁ!」
と、馬はこたえました。
「よし、おいらが手伝ってあげるよ。
おまえさんはそこに横になって、手足をしっかり伸ばしていなさい。
ぴくりとも動いちゃいけないよ。死んだふりをするんだぜ」
と、きつねが言いました。
馬はきつねに言われたとおり、ごろりとそこに横になりました。
きつねは、近くのほらあなにいるライオンのところへいって、
「おもてに、死んだ馬がいますよ。出てごらんなさい。おいしいごちそうにありつけますよ」
と、言いました。
ライオンは大喜びで、きつねといっしょに出ていきました。
馬のそばまで来ると、きつねはライオンに言いました。
「ここじゃあ、まわりが気になってゆっくり食べられませんね。
よかったら、ぼくがこの馬のしっぽを、あなたの体にしっかりと縛りつけてあげますよ。
そうすれば、あなたはこの馬をほらあなの中へひきずりこんで、心ゆくまでゆっくり食べられるってわけです」
ライオンは、「それはたしかにいい考えだ」と思いました。
そこで、きつねがじぶんの体に馬をしっかりと結びつけられるように、じっと立っていました。
ところが、きつねは、馬のしっぽを使って、ライオンの足をぐるぐる巻きにしてしまったのです!
しかも、ライオンがどんなに力をふりしぼっても絶対にちぎれないように、ぎゅっくぎゅっと固く結んでしまいました。
この仕事をやりとげると、きつねは馬の肩をぽんとたたいて、
「さあ、いけ! さあ、いけ!」と、叫びました。
とたんに、馬はぴょんと跳ね起き、ライオンを引きずったまま全速力で走りだしました!
ライオンは「ウオーッ! ウオーッ!」と、ものすごーい声でほえたてました。
森の鳥という鳥が、あまりの恐さにびっくりして一斉に飛び立ちました。
けれども、馬はライオンがいくらほえたててもおかまいなしです。
野原をどんどん越えて、ついにしゅじんの家の戸口まで、ライオンを引きずっていきました。
それを見たしゅじんは、あまりのことにびっくり仰天し、すぐに考えを改めました。
「おまえはこれからはずっと、うちにおいて大事にしてやろう!」
こうして馬は、死ぬまでおながいっぱい、美味しいごはんを食べさせてもらったのでした。
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