初級翻訳・六羽の白鳥 第2話

グリム ヴィルヘルム・カール

それにはおまえ、六年のあいだ、口をきいても笑ってもいけない。そのかわり、そのあいだじゅう、せっせとエゾギクの花を集めて、僕たちの着る肌着を縫ってくれなければならないんだ。それが済むまで、ただの一言でもおまえの口から言葉が漏れたら、せっかくの仕事がそっくり水の泡になってしまうのさ」

こうお兄さんたちが話しているうちに、いつかもう十五分の時が経ちました。六人は六人ともまた白鳥になって、窓からバタバタと飛び立ってしまいました。
ひいさまは、それでもあくまでお兄さんたちを魔法から助け出す決心を固めました。そのためには、命を捨ててかかる覚悟でした。
それで森の小屋を出ると、森の奥深く入っていって、一本の木の上に登り、そこでその晩を明かしました。
あくる朝はもう早速出かけて、エゾギクの花を集めて肌着を縫いにかかりました。誰とも話はできませんし、そもそも笑うなんて気も起きませんでした。ただ明け暮れ木の上に座って、仕事ばかりに打ち込んでいたのです。三

そうやって長い月日が流れるうちに、その国の王さまが森へ狩りにやって来ました。すると、狩人たちが妹姫の隠れている木のすぐそばまでやって来たのです。
狩人たちは下から声をかけました。
「おい、そこにいるのは誰だ?」
妹姫は、何も答えません。
「さあ、降りておいで」と、仲間たちが言いました。「何も悪いことはしないからさ」
妹姫は、ただ首を横に振るだけでした。
それでも狩人たちがしつこくあれこれと尋ねるので、困り果てた妹姫は、身につけていた金の首飾りをはずして投げました。これでおとなしく帰ってくれるだろうと考えたのです。
ところが、それだけでは立ち去ってくれません。そこで今度は帯をはずして投げました。それもだめだったので、靴下留めを投げました。そうして次から次へと、なくて済むものをすべて投げた結果、とうとう肌着一枚だけになってしまいました。
それほどまでにしても狩人たちは引き下がろうとせず、あべこべに木の上まで登ってきて、妹姫を抱きかかえ、王さまのもとへ連れて行きました。
王さまは尋ねました。
「おまえは誰なのだ? 木の上で何をしていたのかね」
しかし、妹姫は黙ったままです。王さまは知っているかぎりの国々の言葉を使って話しかけてみましたが、妹姫は魚のように口を閉ざしたままでした。
それでも、妹姫があまりに美しいので、王さまはすっかり心を奪われ、この人を大好きになってしまいました。王さまは自分のマントを脱いで妹姫に羽織らせ、自分の前に乗せてお城へと帰りました。
お城に着くとすぐに豪華な衣装を着せました。もともと美しい妹姫は、真昼の太陽のように明るく輝いて見えました。ただ、その口からは、一言も言葉を発することはありませんでした。
食事のときも、王さまは妹姫を隣に座らせました。すると、妹姫のしとやかな身のこなしや品格といったすべてが、王さまの気に入りました。
「私の結婚相手は、この人しかいない。世界中どこを探しても、これ以上の人はいないだろう」
そう言って、数日後、王さまは妹姫と結婚式を挙げました。

四

さて、この王さまには、あいにくと意地悪な母親がいました。王太后は今回の結婚が気に入らず、若いお妃のことを悪くばかり言いふらしました。
「いったい全体、どこの素性も知れない女だか分かりませんよ」と、王太后は言いました。「そんな、口もきけないような女が、王の相手だなんてことがあるのでしょうか」
一年が経ち、お妃は初めての子を産みました。すると、その子を王太后がこっそりさらっていき、眠っているお妃の口に血を塗りたくりました。そうしてから王さまのもとへ行き、あの女は人食い鬼の魔女だと、とんでもない嘘を吹き込んだのです。
しかし、王さまはそのような話を信じようとはしませんでした。それどころか、そんな噂を流してお妃を苦しめることを悲しく思いました。お妃はといえば、いつもと変わらず静かに座って肌着を縫い続けており、外で何が起ころうと気にも留めない様子でした。
その次にまた美しい子が生まれると、意地悪な姑は同じ計画を企てましたが、王さまはまだその告げ口を本気で信じることはありませんでした。
王さまは言いました。
「あれは誠に信心深く心の優しい者だ。そんな恐ろしいことができるはずがない。もしあいにく口がきけない体でなければ、自分で弁明して、潔白が真昼の太陽のように明らかになるだろうに」
それでも、とうとう三度目に、王太后が生まれた子をさらって行き、お妃のせいにして訴え出ました。お妃はやはり一言も言い訳をしようとしなかったので、さすがの王さまも、お妃を裁判にかけるほかなくなりました。
そして裁判所は、お妃に火あぶりの刑を言い渡したのです。

五

言い渡しの通り、刑が行われる日となりました。それはちょうど、お妃にとって「口をきかず、笑ってもいけない」という、まる六年の期限が満ちる最後の日でもありました。
この日、お妃はついに、お兄さんたちを魔法から完全に救い出すことができたのです。六枚の肌着は、このときにはもうほとんど完成していて、あと六枚目の左のそでだけが足りない状態でした。
お妃さまが火あぶりのための薪が積み上げられた場所へ連れてこられたとき、その六枚の肌着をしっかりと腕に抱えていました。
お妃さまが高い台の上に立ち、いよいよ薪に火がつけられようとしたその時、お妃さまはそっと四方の空を見渡しました。
すると突然、六羽の白鳥が空からさっと舞い降りてきたのです。
ああ、助けがやってきたわ。そう思って、お妃さまは胸を喜びでいっぱいにしました。
白鳥たちは、バタバタと大きな羽音を立てながら、お妃さまのすぐそばまで飛んできました。
そして、肌着を投げかけることができる距離に降り立ちました。
肌着が白鳥たちの体に触れると、白鳥の皮はパラリと抜け落ちて、お兄さまたちは元の立派な人間の姿となってそこに立ちました。
みんな、若々しくとても美しく見えました。
ただ一人、一番下のお兄さまだけは、左のそでが間に合わなかったために、背中にまだ白鳥の翼がくっついたままでした。
きょうだいたちは抱き合って、喜びのキスを交わしました。
お妃さまは、何が起こったのかとびっくり仰天している王さまのところへ歩み寄り、ついに口を開きました。
「愛する殿方、わたくしはもう、言葉を話すことができるようになりました。
ですから、はっきりと申し上げます。
わたくしには何の罪もございません。わたくしは長い間、身に覚えのないひどい濡れ衣を着せられていたのです」
そう言って、お妃さまは、意地悪な王太后の企みによって、三人の子供たちがさらわれ、どこかへ隠されていた一部始終を詳しく話しました。
ちょうどその時、子供たちが連れ戻されてきたので、王さまの喜びようといったらありませんでした。
そして、あの意地悪な姑は、かわりにお妃さまが縛られるはずだった火あぶりの柱に縛り付けられ、焼かれて灰になってしまいました。
こうして、王さまとお妃さまは、六人のお兄さまたちと一緒に、いつまでも末長く、仲睦まじく幸せに暮らしました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました