道路の上には、黄色いほこりが、かすかな風に舞い上がっています。
お姉さんはその子どもたちをじっと見つめていました。
その中にひとり、とってもかわいらしい男の子がいました。
その子は黙ったまま、真っ赤に咲き誇るぼたんの花を見つめていました。
お姉さんはなにを思ったのか、足音もしないようにそっとその子に近づきました。
そして、氷のように冷たいくちびるで、男の子のりんごのようなほっぺたにキスをしたのです。
ほかの子供たちは、そのことにまったく気づきませんでした。
するとどうでしょう、その男の子の顔色は、たちまち真っ青に変わっていったのです。
「なんだか気分が悪くなっちゃった……」
そう言って男の子は、友だちみんなに別れを告げると、自分の家に帰っていき、そのままバタリと倒れてしまいました。
お姉さんはひとりで心の中でクスッと微笑むと、静かに町を歩いて去っていきました。
しばらく行くと、そこには大きな呉服屋さん(着物屋さん)がありました。
お店に出入りする人々で、そこの門のあたりは、黒山の人だかりのように大にぎわいでした。
お姉さんは、たくさんの人ごみの中にまぎれながら、「妹はこの中にいないかしら?」と探し歩きました。
華やかなことが大好きで、こういう場所を好む妹なら、きっとここに立ち寄っているに違いないと思ったからです。
妹はもうここを去ったあとだったのか、その姿は見当たりませんでしたが、ちょうどそのとき、若くて美しい女の人が、お気に入りの反物(きものの布)を買って、それを大事そうに抱えながら、うれしそうに出てきたところでした。
お姉さんはなにを思ったのか、その女の人のそばにスッと近づいて、その瞳の中をじっとのぞきこみました。
すると、お姉さんの長い黒髪が、女の人の肩にふわりとかかりました。
さっきまで生き生きとしてうれしそうだった女の人は、急にしおれてしまいました。
そして、顔からすっかり血の気が引いてしまい、まるで重い病気にかかったかのように、まわりの人に助けられながら、どこかへと連れ去られていったのです。
このとき、お姉さんは残酷な笑みを顔に浮かべました。
そして、まるで勝利者のような顔をして、どこかへスタスタと去っていったのでした。
その日の夕方、お姉さんはさらに妹を探し続け、あるカフェーの店の前にさしかかりました。
その中では、若い女の人や男たちが大はしゃぎしながら楽しそうに歌をうたい、ビールや外国のお酒を飲んでいました。
「こういう場所が好きな妹なら、きっとこの中にいるに違いないわ」
お姉さんはそう思いました。
お姉さんはガラス戸にピタッと顔をくっつけるようにして、ギランと光る目で中をのぞきこんでいました。
そのとき、すぐ近くの道路でおじいさんが急病にかかり、苦しそうにもがいていました。
通りかかった人々がそのまわりにわらわらと集まってきて、「どうしたんだ!」と大騒ぎしています。
お姉さんは心の中で、「もう少しだけ、妹を自由にさせておいてやろう。今夜だけは好きなようにさせてあげるけど、明日はそのかわり、もう身動きひとつできないようにがっちり縛りつけてやるんだから」と思いながら、カフェーの前から離れようとしました。
そのとき、ちょうど苦しんでいるおじいさんのそばを通りかかったお姉さんは、その姿を目をとめました。
お姉さんはさっそくそのおじいさんに近づいていき、冷たく白い手で背中をやさしくなでてあげました。
すると、あんなに苦しんでいたおじいさんはピタリと静かになり、そのまま永遠に安らかな眠りについてしまったのです。
不思議な力を持つお姉さんは、そのまま町の中を通り抜け、いつしか誰もいないさびしい道を、北の方角へと歩いていきました。
すっかり夜になり、空には星がピカピカとまたたいています。
通りすがりの人たちは、お姉さんの目の色がギョッと光るのを見て、なぜかハッと思いながら近づくと、まるで頭から冷たい水をぶっかけられたかのように、ブルッと身震いをしたのでした。
なぜなら、お姉さんが通りすぎたあとには、まるで真冬のような冷たい風がピューッと吹いていたのですから。
初級翻訳・灰色の姉と桃色の妹 第2話
小川 未明
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