するとそのとき、小林少年が空を指さしながら、ひときわ高い声をあげました。
「あっ、あそこにいる!
あの木の枝にのぼっているぞ!」
見ると、クマは大きなカシの木の枝にしがみつき、下を鋭くにらみつけているのです。
「しかたない。
ピストルでおどかそう!」
警官は小林君とヒソヒソと言葉を交わしたあとで、腰からピストルをとり出し、空に向かってパーンと一発ぶ放しました。
「こらっ、おりてこい!
おりてこないと、退治してしまうぞっ!」
警官は、まるで人間に呼びかけるかのように大声で怒鳴りました。
すると、クマの方でもその言葉が分かったのか、撃たれてはたまらないと思ったのか、木の枝の上でモタモタとためらっていましたが、いきなりパッと地上にとびおりると、すぐに体勢を立て直して表門の方へ駆け出しました。
少年たちは「ワーッ!」と叫んで逃げ出しましたが、警官と小林団長は逃げません。
勇敢にクマを追いかけていくのです。
クマは木の幹の間を縫うようにして、境内をグルグルと逃げ回ります。
まさにクマと人間のおにごっこです。
ふたりの警官が先回りをして、木のかげに待ち伏せをしました。
大勢に追いかけられてパニックになったクマは、それとも知らずにまさにその方へと逃げてきます。
距離が3メートルほどに近づいたとき、ふたりの警官は「ワーッ!」と叫びながら木のかげから飛び出し、クマの目の前に大きく両手を広げて立ちふさがりました。
クマはびっくりして引き返そうとしましたが、後ろからは別の警官が追いかけてきます。
すっかり挟み撃ちになってしまったのです。
さすがの大グマも「しまった!」というようにその場で立ちすくみました。そのすきを逃さず、前と後ろから三人の警官が一斉にとびかかりました。
そして、くんずほぐれつの大格闘が始まったのです。
そのころには、神社の境内を見張っていたほかの少年たちもみんな集まってきました。
そして、格闘のまわりを取りかこんで、「ワーッ! ワーッ!」と警官たちに熱い声援を送るのでした。
クマは大きな図体に似合わず案外と弱く、しばらくすると三人の警官にくみふせられ、地面にドスンとへたばってしまいました。
「ちくしょう! 骨を折らせやがって。
いまに化けの皮をはいでやるぞ!
このへんにボタンがあるんだろうな!」
クマの首のあたりにまたがった警官が妙なことを叫びながら、クマのノドのあたりを手で探ってゴソゴソとなにかやったかと思うと、今度は両手をクマの頭にかけて、いきなりぐいと後ろの方へねじ曲げるようにしました。
すると、じつに驚くべきことが起こったのです。
大グマの頭が後ろへスポッとぬけてしまい、それにつづいて肩から背中にかけて、グルグルとかわが剥がれていったではありませんか!
クマの毛皮が剥がれたあとからあらわれてきたのは、なんと、思いもよらない人間の上半身でした。
「わあっ! こいつ、サーカスの道化師の大男だっ!」
だれかが大声で叫びました。
まさに、それはあの大男でした。
まゆ毛が濃くて目が大きく、まるで西郷さんの銅像みたいな顔をした大男です。
彼は、いざというときの用心のために、大きなクマの毛皮を用意していたのです。
そして、それをすっぽりかぶってオリに入り、大グマに化けて身を隠していたというわけです。
少年たちは「ワーッ!」と勝利の歓声をあげました。さきにはお宝に化けて隠れていた一寸法師をつかまえ、いまはまた、クマに化けた大男をとらえることができました。
あとは、あのきらびやかな宝冠をかぶった少女が残っているだけです。
少女のゆくえ
「にじの宝冠」をかぶった少女が神社の森の中へ逃げ込んだとき、神社の表門にも裏門にも少年探偵団員たちがしっかりと見張りをしていたため、神社の外へは絶対に逃げ出せるはずがありませんでした。
少女は神社の森のどこかに、きっと隠れているに違いありません。
そこで、少年たちはさいごにその少女を捜し出すことになりましたが、そのころにはすでに日が暮れて、あたりはすっかり真っ暗になっていました。
おまけに神社の中は大きな木が生い茂り、ところどころに街灯がぽつんと立っているだけなので、この捜索はものすごくむずかしいものでした。
小林団長は、神社の表門と裏門にいる五人ずつの団員にはそのまま見張りを続けさせ、残りの九人の団員を裏門の外へと集めました。
「これからサーカスの女の子をさがすんだよ。
みんな、探偵七つ道具の中から懐中電灯を取り出して!」
と、テキパキと命令しました。
探偵七つ道具とは、少年探偵団員たちがいつも身につけている小さな便利グッズのことで、万年筆型の望遠鏡、虫めがね、磁石、万能ナイフ、黒い絹糸でできた縄ばしご(丸めると手のひらにすっぽり収まるサイズになります)、小型の手帳、そして万年筆型の懐中電灯などが入っています。
少年たちはその万年筆型の懐中電灯をさっと取り出し、スイッチをカチッと押しました。
すると、小林団長の分とあわせて十個の豆電灯がまるで星のようにピカッと光り、そのあたりが一気にパッと明るくなったのです。
そのとき、ひとりの少年が前にすすみ出て、小林団長にこんなふうに話しかけました。
「団長、いくら懐中電灯があるっていっても、あんなに広くて真っ暗な森の中をさがすのは、すごくむずかしいと思います。
今夜は見張りだけにしておいて、あしたの朝になってから捜索したほうがいいんじゃないでしょうか」
それはもっともな意見でした。
広大な森の中をたった二十人の少年で夜間に捜し出すのは、なかなかに無謀な話しです。
すると、小林団長はそれに答えてこう言いました。
「そう思うのも無理はないけれど、この捜索は夜のほうが好都合なんだよ。
それにはちゃんとしたわけがあるのさ。
ぼくは明智先生から、とっておきの作戦を教わっているんだ。
だから心配しないで、ぼくの命令のとおりにしてくれたまえ」
そう言われてしまうと、だれもそれ以上反対する者はいませんでした。
そこで小林少年は、みんなに次のように指示を出しました。
「全員、懐中電灯を消して、ぼくのあとについて来るんだよ。
どんなことが起こっても、ぼくが『つけていいよ』と言うまでは、絶対に懐中電灯をつけてはいけない。
分かったね?
それから、神社の中のある場所へ着いたら、みんなバラバラになって木のかげに隠れ、ぼくが名前を呼ぶまでじっと待っているんだ。
変なことが起きても、あわてて飛び出したりしちゃダメだよ。
いいかい、それじゃあ出発だ!」
小林団長を含めた十人の少年たちは、静かに神社の裏門へと入っていきました。
裏門のあたりでは、五人の少年団員と三人の警官がしっかりと見張り番をつとめていました。
小林団長はその人たちに向かって、
「みなさんは、このままでここで見張っていてください。
おまわりさんたちも、おねがいします。
女の子は、ぼくたちで必ず見つけ出してみせますからね。
もし見つけたら、よび笛をピリピリと鳴らしますから、そのときは警察のみなさんもすぐに駆けつけてください。
よろしくお願いします!」
と言い残して、暗い森の中へと歩みを進めました。
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