常人には到底不可能なことを成し遂げるために、竹童は心にもない大道芸人の真似事をしているのです。見ている小姓たちは面白がっていますが、竹童にとっては、涙が出るほど切ない芸なのでした。
二
「さあ、それから、それから!」
輪になって取り囲んだ少年たちは、待ちきれない様子で続きをせがみました。絶妙なタイミングで、竹童はわざと焦らして言いました。
「さあ、火焔独楽の曲回し、いよいよお見せしますが、その前に一つだけ伺いたいことがございます。どうか教えてくださいまし」
「なんだ、独楽回しよ」
「あの、近ごろ浜松の城下で、武田伊那丸という方が徳川様の手でお捕まりになったそうですが、それは本当でございますか?」
「捕まったのは本当だ。家来の二人も一緒にな」
「ああ、やはり……」
竹童は思わず青ざめそうになる顔を必死に隠し、無理に微笑んで続けました。
「やはり噂は真実でしたか。家康様もこれでひと安心でしょうね。ですが、伊那丸やその家来たちは知勇に優れた者と聞いております。どうしてそんなにたやすく捕まってしまったのでしょう?」
「そんなことはどうでもいい。それより早く独楽を回して見せろ!」
「はい、今すぐ回します。ですが実は、さきほど都田川で高札を見た時に、仲間の者と賭けをしたのです」
「なら話してやるから、それが済んだらすぐに火焔独楽を回せよ」
「ええ、回しますとも、必ず!」
「その武田伊那丸のやつ、前からあちこち手配していたが、なかなか捕まらなかったんだ。ところが今回、桑名の方から和田呂宋兵衛という者が密告してきた。その言葉で伊那丸の通る道が分かったから、関所に兵を伏せて、苦もなく縛り上げたというわけさ。明後日の処刑は、その呂宋兵衛が役を仰せつかって、都田川の刑場で三人の首を斬ることになっている」
「ああ、そうですか。よく分かりました」
平然と聞いていたものの、竹童の胸は早鐘のように打ち鳴らされていました。
「ところで、この大鷲は、どうしてあなたがたの手に入ったのですか? 浜松にはなかなかこんな大鷲は飛んでこないでしょうに」
「この鷲か? これもその呂宋兵衛が、桑名から浜松へ来る途中で捕まえたのを、菊池半助のところへ土産に持ってきたんだ。それを万千代様がおねだりして、こうしてとんぼ組で飼っているのさ。だから滅多な者には貸さないが、お前が上手に独楽を回せば、万千代様も貸してやるとおっしゃっている。さあ、早く回せ、早く火焔独楽の曲芸を見せろ!」
竹童をただの旅の独楽回しだと信じ切っている小姓たちは、城内で聞きかじった情報をすべてペラペラと喋ってしまいました。
事実でした。伊那丸の遭難は、紛れもない真実だったのです。ああ、一大事がついに起きた。
「ううん、もうこうしてはおられない!」
竹童の瞳は、自分でも気づかないうちにカッと燃え上がりました。
その真剣な気迫に、万千代や小姓たちが少し後ろへ下がったのを好機と見て、竹童はふたたび芸を始めるような構えをキッと取り、
「では! 竹生島に伝わる神の魔独楽(まごま)!」
と声高らかに叫ぶと――
「――小手調べは、剣の刃渡りだ!」
片手に独楽を持って回すふりをして、もう一方の手で般若丸の脇差をサッと抜くと、杉の根元につながれていた「クロ」の綱を一閃のもとに斬り放ちました。
突然のことに驚いた大鷲は、地面を蹴ってユラリと浮き上がり、空へ向かって足を縮めました。
二度と戻ることのない、高い空の彼方へ。
「あ、あ、ああっ!」
不意を突かれた「とんぼ組」の小姓たちは、つむじ風に巻き上げられた木の葉のように、頭上で翼を広げる大鷲の腹の下で、転んだり起きたりしながら悲鳴を上げました。
「逃がすな!」
「いまの独楽回しだ!」
「あっちへ行ったぞ!」
「鷲も逃げた!」
「それッ!」
「そらッ!」
「追いかけろ!」と走り出しました。
見れば、竹童も真っ先に駆け出しています。
竹童は鷲を追い、万千代は竹童を追い、小姓の「とんぼ」たちは万千代のあとをゾロゾロと追いかけていきました。
三
いつのまにか、茜色だった広野は、海のように深い青い黄昏(たそがれ)へと変わっていました。
草を蹴って追いつ追われつする者たちには、四方に何一つ遮るものはありません。
すると不意に、先を走っていた竹童が鋭い気合いを上げ、何やら虚空へ棒のようなものを投げ上げました。
クルクルと螺旋を描いて舞い、それが空の藍色に溶け入ったかと思うと、高いところで「カッ!」という音が響きました。
そして、投げ上げた棒切れが落ちてくるのと一緒に、クロの大きな影もそれにつられて真っ直ぐに地上へ降りてきました。
そして、やがて。
「独楽回しの偽者め!」
「鷲を返せ、鷲を返せ!」
声を揃えて万千代たちがそこへなだれ込んできた頃には、すでに地上に竹童の姿も、大鷲の影もありませんでした。
ただ、呆然としていた彼らの目に映ったのは、ちょうどその時、野の端から昇った大きな宵月の光に照らされ、何者かの影が草の上をフワフワとさまよっている――それだけのことでした。
おお、お小姓とんぼの坊ちゃんたちよ!
三方ヶ原をあとにしながら、眼下に月光に照らされた山川を眺め、あたりに銀の鱗のような雲を見ながら、鞍馬の竹童は鷲の上から叫ぶのです。
これはもともと、おいらの鷲だ。
おいらのものは、おいらに帰る。なんの不思議もない話だ。
蛾次郎みたいに盗んで逃げるのとはわけが違う。
独楽でだましたのは悪かったけれど、おとなしくクロを渡してくれと言っても、貸してくれと頼んでも、浜松城の腕白坊ちゃんたちは決して素直には承知しないだろう。
だから、あんな詐術を使ったのだ。
それもすべては武田一党のため。
ああ、それにしても伊那丸さまの危難を知ったその日に、この鷲がふたたび自分の手元に戻ってくるとは。天がこの竹童をあわれんでくれたのか、それとも果心居士さまのお守りであろうか。
何しろ、おいらはこれから急がなければならない身だ。
久しぶりにこのクロを一人で思いのままに乗って駆けているのだが、今はその翼の力さえ、なんだか遅く感じられてならない。
クロよ、ひと羽ばたきで飛んでくれ。小太郎山へ、小太郎山へ!
三
右少将・徳川家康は、いつになく顔をほころばせています。ご機嫌がよいのです。
常に彼が気にしている羽柴秀吉が、近ごろメキメキと勢力を伸ばし、一挙に桑名の滝川を陥落させ、軍を返して北国を突き、猛将・柴田勝家の本城である北ノ庄に迫って、誰にも崩せない勢力を築き上げ、北陸の豪族・前田利家とも仲良くなったという間諜の報告がありました。
そのため、家康の気分はひどく優れなかったのです。
どこかで秀吉がつまずいてくれないかと祈っているのに、その反対の噂ばかりが飛び込んできて、ここしばらくの間、彼の心を楽しませることはありませんでした。
しかし、今日はいたって穏やかな表情です。
もともと家康という人は、心の中の喜怒哀楽を顔に出さない性質です。
いつもムッとして武者座りをして、少し猫背になりながら、口数は少なく、しかし物事はよく聞き入れることを心がけています。
非常に狡猾で気難しい、腹黒い人相のようでもあり、かと思えば、ひどく柔和で温かい相好のようにも見えます。
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