初級翻訳・若草物語 第36話

オルコット ルイーザ・メイ

「切ってもらうとき、怖くなかった?」

「床屋さんが道具を準備している間、私は見納めに自分の髪をじっと見つめたわ。でも、めそめそなんてしなかった。ただ、いざ切られてしまうと、腕や足を切り落とされたみたいに、なんだか変な気持ちがしたけれど。奥さんは、私が切られた髪をじっと見ているのに気づいて、『長い毛を一本抜いて、取っておきなさい』って言ってくれたの。お母さん、記念にこれをあげるわ。切ってみたらさっぱりしたし、私、もう二度と髪を伸ばそうなんて思わないわ!」

お母さんはその髪の毛をていねいにたたむと、お父さんの短い白髪といっしょに、机の引き出しにしまいました。お母さんはただ「ありがとう」と言っただけでしたが、娘たちはお母さんの様子を察して、すぐに明るい話題に変えました。ブルック先生が親切にしてくれたことや、明日は天気が良くなりそうなこと、そしてお父さんが帰ってきたらみんなで看病できる楽しみについて、できるだけ元気に話し合いました。

誰もまだ寝たくないような雰囲気でしたが、時計が10時を打つと、お母さんが「さあ、みんな、寝る時間ですよ」と言いました。そして、お父さんが一番好きだったさんび歌をピアノで弾き始めました。みんな最初は元気よく歌い出しましたが、悲しみがこみ上げてきて、一人、また一人と声が止まってしまいました。音楽がいつも心の支えになっているベスだけが、最後まで心を込めて歌い続けました。

歌が終わると、娘たちはお母さんにキスをして、静かにベッドに入りました。ベスとエイミーは、大きな心配事があってもすぐに眠りにつきましたが、メグはどうしても眠れませんでした。ジョーは身動きひとつしなかったので、メグは妹がもう眠ったのだと思っていました。けれど、低く抑えきれないような泣き声が聞こえてきたので、そっと声をかけました。

「ジョー、お父さんのことが心配で泣いているの?」

「今は、そうじゃないの……。私の、髪の毛のことなの」
ジョーはそう言うと、いっそう激しく泣き出しました。メグは悲しんでいる妹にキスをして、その頭を優しくなでてあげました。

「後悔なんてしていないわ。ただ、自分のきれいなものをなくしちゃったのが、ちょっとだけ悲しくて泣いただけなの。でも、もうすっかり落ち着いたから、今のことは誰にも言わないでね。……お姉さんは、どうして眠れないの?」

「いろいろと心配でたまらないのよ」

「楽しいことを考えてみて。きっと眠れるわよ」

話しているうちに、ジョーが大きな声で笑ったので、メグは「もうおしゃべりはおしまいにしましょう」と言いました。そして、ジョーの短い髪にカールをかけてあげる約束をすると、やがて二人とも眠りにつきました。

夜中の12時を回り、家の中がひっそりと静まり返ったころ、一人の人影が、娘たちのベッドを一つずつ回っていました。布団をかけ直したり、枕を整えたり、寝顔をじっと見つめたり。そして、そっと唇にキスをして、熱心にお祈りを捧げました。その人影がカーテンを開けて、寂しい夜空を見上げたときです。ふいに黒い雲の影から月が現れ、まるで慈しみ深い顔のように、その人を優しく照らしました。その月は、声にならない言葉で、こうささやいているようでした。

「心安らかにいなさい、愛しい人よ。雲の向こうには、いつだって光があるのだから」第十六 手紙の花束

 寒くてまだ薄暗い夜明けのことです。姉妹たちはランプを灯して、これまでになく熱心に聖書を読みました。その小さな本の中には、心を救ってくれる言葉や、優しいなぐさめがたくさん詰まっていました。

 下の階へ降りていくと、もう出発の準備は整っていて、お手伝いのハンナさんが忙しそうに台所で働いていました。お母さんは、一晩中眠れなかったので、とても疲れ切った顔をしていました。心配事がいっぱいのお母さんを悲しませないように、元気に旅へ送り出そうと決めていたみんなでしたが、お母さんの顔を見た瞬間、どうしても涙がこみあげてきてしまいました。

 お母さんは食卓についても、ほとんど何も食べられませんでした。お迎えの馬車が来るまで、みんなはあまりおしゃべりをせず、お母さんの身の回りの用事を手伝いました。

 お母さんはこう言いました。
「お母さんは、あなたたちのことをハンナさんとローレンスさんにお願いして行きますね。ハンナさんは本当に誠実な人だし、お隣の親切なローレンスさんは、あなたたちを自分の娘のように守ってくださるわ。だから、お母さんは少しも心配していないわ。ただ、今のこの大変な状況をしっかり受け止めて、留守の間、悲しんだりイライラしたり、怠けたりしないで、それぞれ自分のやるべきことをやってちょうだい。希望を持って働きなさい。そして、どんなことが起きても、決してお父さんという存在を失うことはないんだ、ということを忘れないでね」

「はい、お母さん」

 お母さんは、さらに細かく、娘たち一人ひとりにアドバイスをしました。馬車の音が聞こえてきたとき、みんなは一生懸命に我慢して、悲しくて声をあげて泣く人はいませんでした。ただ、静かにお母さんにキスをして、馬車が動き出したら、元気に手を振って見送ろうと心に決めました。

 ローリーとおじいさんも見送りに来てくれました。一緒に行ってくれるブルック先生は、とても頼もしく見えたので、みんなはすぐに、物語の『巡礼(じゅんれい)ごっこ』に出てくる案内役、「グレート・ハート(勇気ある心)さん」というあだ名をつけました。

 馬車が走り出したとき、まるで良いことが起こるサインのように、ちょうど太陽の光が見送るみんなを明るく照らしました。そして、お母さんが角を曲がるとき、最後に目に入ったのは、四人の娘たちの輝くような顔と、その後ろに守り神のように立っているローレンスおじいさんと、ハンナさん、そして誠実なローリーの姿でした。

「皆さん、なんて親切にしてくださるのかしら」
 お母さんは、隣に座るブルック先生の顔に浮かんだ、自分たちへの尊敬と思いやりを感じて、そう言いました。
「あなた方のような素敵な家族には、誰だって親切にしたくなりますよ」
 ブルック先生が気持ちよく笑って答えたので、お母さんもつられて微笑んでしまいました。こうして遠い場所への長い旅は、太陽の光と微笑み、そして楽しい会話という、とても良いスタートを切ることができたのです。

「なんだか、地震のあとに取り残されたみたいな気分だわ」
 お隣の二人が帰ってしまうと、ジョーがぽつりと言いました。
「家が半分なくなっちゃったみたいに寂しいわね」
 メグも寂しそうに付け加えました。そして、あんなに「泣かない」と勇ましく決心していたのに、娘たちはその場に泣き崩れてしまいました。

 ハンナさんは気を利かせて、しばらくみんなをそっとしておいてくれました。そして、ようやくみんなの涙が夕立のように止まったころ、コーヒー沸かしを持ってきました。
「さあ、お母さんがおっしゃった通りにするんですよ。コーヒーを飲んで元気を出して」

 この朝、ハンナさんが腕によりをかけて淹れてくれたおいしいコーヒーを飲むと、みんなはすっかり元気づけられました。

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