初級翻訳・虹猫の大女退治 第2話

ファイルマン ローズ

なぜかというと、大女の背はすばらしく高かったに違いありませんが、その顔は決して恐ろしいどころか、かえって美しく、愛嬌(あいきょう)があって、黄金色の髪をしていたからです。
大女があらわれるが早いか、子どもたちはみんな走ってそのそばへ駆け寄りました。まるで本当のお母さんがやって来たかのように、とても嬉しそうだったのです。

虹猫はもうぐずぐずしていられません。
すぐにマンドリンを取り出して、弾き始めました。
けれども、魔法使いに聞かれたら大変だと思って、あまり大きな音では鳴らしません。
しかし、幸いにも風がちょうどよく吹いていました。そのうえ、魔法使いは魔法の仕度(したく)に一生けんめいだったものですから、そんな音など聞こえるはずもありませんでした。
けれど、大女はふつうの人よりも大きな耳を持っていたので、よく音が聞こえ、すぐにその音楽を聞きつけました。
そして、窓から顔を出したのです。
塔の下には虹猫がマンドリンをかかえて腰かけていますから、いったい何をしているのかとたずねました。
「僕は虹猫だよ。どうぞ僕を助けて、そこへ上らせておくれよ」
と、虹猫は言いました。

大女は自分のリボンの腰帯をとくと、その一番下の端にハンカチを入れておいた袋を結びつけて、下に下ろしてやりました。
なにしろ大女の持ちものですから、その袋は、虹猫がすっぽり中に入って、そのうえにさらに宝物の袋やマンドリンを載せても、まだ余裕があるほど大きかったのです。
大女は虹猫を窓のふちまで引き上げ、部屋の中に迎え入れると、ここで何をしているのか、どうして来たのかとたずねました。
目の前の虹猫がただ者ではないと見抜いていたからです。

虹猫が、ユタカの国で人々から聞いた話をすべて話すと、大女も自分の身の上を語りはじめました。
悪い魔法使いがやって来て、大女がまだほんの赤ん坊だったときに盗み出し、このお城に連れて来て閉じ込め、魔法をかけて、ありとあらゆる悪いことをさせていたのだというのです。
「土地の人たちは、何もかもぜんぶ私がやったんだと思い込んでいるわ。それは私も知っているの」
と、大女は言いました。
「魔法使いのおじいさんは、古い洗濯だらいと六粒のお豆を使って、火の竜にひかせる車を作り出すことができるのよ。それに乗って出かけるときには、大きなマントを着て、高い帽子をかぶるから、だれもかれも私だと思い込んでしまうの。
それにね、自分のやるいろんな悪いことを子どもたちに手伝わせて、私みたいにいつも閉じ込めておくのよ。おまけに私たちには、ろくに御飯も食べさせてくれないんだから、早く助けてもらわなければ、みんな死んでしまうわ!」
大女は、目からぽろぽろと涙を流しました。
それは、一粒で一つの池ができそうなほどの大粒の涙でした。

「泣いてはいけないよ」
と、虹猫は言いました。
「いまに、すべてがうまくいきさ。ぼくの法術は、あのおじいさんの魔法よりもずっと強いのだからね」「一度あいつに出会ったら、すぐにそいつを片づけてみせますよ。ぼくをあいつのところへ連れて行ってくれませんか?」
しかし、大女は怖がって、とてもそんなことをする勇気が出ませんでした。
「そればかりか、あの人はなかなかあなたを家の中に入れたりしませんよ。とても疑り深いんですから」と、大女は言いました。
「そんなの、なんとかなりますよ」
虹猫がそっとマンドリンをかき鳴らしながら考えていると、突然、大女がハッと気がつきました。
「おじいさんは音楽が好きなんだわ。仕事をするのにすごく役に立つからって言ってね。だからもし、あなたが外を歩いている旅の音楽師のふりをなさったら……」
それを聞いた虹猫は、うれしさのあまり飛び上がりました。
「それだ! じゃあ、あなた、孔雀(くじゃく)の羽を一本ぼくに貸してくれませんか?」
大女はすぐに孔雀の羽を持ってきてくれました。
「どうもありがとう。これで一時間たったら、あなたは自由の身になれるはずだ。それじゃあ、それまでしばらくさようなら!」
そう言うが早いか、虹猫はひらりと身軽に窓から飛び降りました。
それから、すっかり外套(がいとう)を着こみ、帽子を目深にかぶり、孔雀の羽を帽子の前の方にピッとさしました。
「どうです? これでもうすっかり旅の音楽師でしょう!」
そう言って、虹猫は大胆にも魔法使いのいる塔へ行って、呼び鈴をピンポーンと鳴らしました。
魔法使いは自分で戸口に出迎えてきました。けれども、ほんのわずかしかドアを開けません。
「お前は誰だ。何の用があって来たんだ?」
「ぼくは旅の音楽師です。中に入って、一曲弾かせてもらえませんか?」
魔法使いはうさんくさそうな目つきをして、「なんだお前、その袋の中に入れてるものは?」と聞きながら、足でその袋をゴンと蹴りました。すると、中に入っていた稲妻(いなづま)が、ガラガラガラーッと思いがけない大きな音を立てました。
「これですか?」と、虹猫は知らん顔をして答えました。「これは珍しい楽器なんですよ。だからあんな音を出すんです。これがなけりゃあ、ぼくは歌が歌えません」
「ふむ、そうか。じゃあ、そこで一つ歌ってごらん。その上で、中に入れるか入れないか決めてやるから」
虹猫はマンドリンをかき鳴らして、こう歌いました。

青い草の上に、鵞鳥(がちょう)が一羽、
くちばしが金で羽が銀、こんな美しい鳥は、
誰もまだ見たことがない。

「おお、面白そうだな! さあ、うちに入って続きを歌いなさい」
魔法使いは大喜びして、虹猫を家の中に招き入れました。
「しめたッ!」
虹猫はすかさず袋を開けて、中から稲妻を放ちました。
ピカピカッ、ゴロゴロドーン! それはもう大変な大騒ぎです。
虹猫は外套を脱ぎ捨て、テーブルの上に飛び上がると、青い目をギラリと光らせて、「フツフツ、ニャオ、ニャオ!」とものすごい勢いで叫び立てました。
魔法使いはすっかり参ってしまい、「ひえー、参った参った!」とブルブル震え上がっています。虹猫はその手足をきゅっと縛り上げると、袋の中にグイグイと押し込めました。そして、そこにあった魔術の本はすべて火にくべて、跡形もなく燃やしてしまいました。
悪い魔法使いは、二度と悪さをしないように遠い国へと追い払われました。優しい大女は自分の国へ、そして子どもたちもそれぞれお父さんやお母さんの待つ家へと、嬉しそうに帰っていったのでした。

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