初級翻訳・雛菊と雲雀と少年の話 第1話

牧野 信一

ある庭のすみっこに、一本の雛菊(ひなぎく)が咲いていました。
花壇の中には、華やかで立派な牡丹(ぼたん)や美しい百合(ゆり)などが、誇らしげに咲いていましたが、雛菊はそうした花々を見ても、少しもうらやましいとは思いません。毎日をとても幸せに過ごしていました。

ちょうど雛菊の頭の上では、雲雀(ひばり)が楽しそうに歌を歌っていました。雛菊はその歌をじっと聞きながら、「ああ、素敵な歌だなあ」とは思いましたが、雲雀になりたいなどとは少しも思いません。「自分は自分として、ここにいるだけで幸せなんだ」と考えていたのです。

あるとき、雲雀が雛菊のそばに舞い降りてきて、「まあ、なんてきれいな花なんだろう!」と言いました。その声を聞いた牡丹は、「私の美しさをほめないなんてひどいわ」と、ひどく怒りました。チューリップも頭を高く持ち上げて、「なんだ、庭のすみっこにいるただの雛菊のくせに」と言って、せせら笑いました。

その時、一人の少年がはさみを持ってやってきました。
「よく咲いているから、お母さんのところへ切って持っていこう」
そう言いながら、少年はチューリップや牡丹を、みんなバサバサと切ってしまいました。

少年がお母さんのところへその花を持っていくと、ほめてもらえるかと思いきや、
「まあ、この子は! 大事な花壇を荒らしてしまって、なんて悪い子なんでしょう!」
と、反対にさんざん叱られてしまいました。

次の朝、雛菊が目を覚ますと、頭の上で「ピヨ、ピヨ」という悲しそうな声が聞こえてきました。ふとその方を見ると、雲雀が捕まえられて、籠の中に閉じ込められているではありませんか。
雲雀は食べ物はもちろん、水も一滴なくて、今にも喉がからからに乾いて死にそうになっていました。

ちょうどそこへ少年が帰ってきて、その様子を見ると大変驚きました。「何か雲雀にあげられるものはないだろうか」とあたりを見回しましたが、あいにくそこには水もありません。
少年はうろうろと困り果てていましたが、ふと庭のすみっこに咲いている雛菊を見つけました。
「そうだ、あの雛菊をあげよう。雲雀はきっと、雛菊が好きなに違いない」
少年はそうつぶやくと、一本の芝草と一緒に雛菊を切り取り、雲雀の籠の中に入れました。

「お腹をすかせている雲雀なら、一口で食べてしまうだろう」
少年がそう思って見守っていると、雲雀は雛菊を見ると悲しそうにそのそばへ寄り、小さな花に頬をすり寄せました。そして、やさしく歌を歌い始めたのです。

……。

結局、雲雀は雛菊を食べることはありませんでした。少年は雛菊をお母さんのところへ持っていきました。
するとお母さんは、
「まあ、いい花ね。私のかびんにさしておいてちょうだい」
と言って、とても喜んだのでした。

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