初級翻訳・雨と子供 第2話

宮本 百合子

 そこのがらんとして寂しい地面の様子が、子供の心を強く惹きつけた。
 どうしてここだけ、こんなに何もないのだろう。
――ある日、子供は畑から、きっと青紫蘇(あおじそ)の芽に違いないと見定めた草を十二本抜いてきた。
 それから、その空き地のちょうど真ん中あたりを選んで、十二個の穴を掘った。
 十二個の穴が、ちゃんと決まった間隔で、縦に三つ、横に四つ並ぶようにと、竹の棒を使ってどれほど熱心に泥をほじくり返したことだろう! 根っこがすっぽり入るくらいの穴ができると、一本ずつ、青紫蘇だと信じている草を植え込んでいった。
 さあ、これで花壇の完成だ。
――得意そうなのは子供ばかりではなかった。
 誰からも忘れられていたようなその空き地も、花も咲かないひょろひょろとした小さな花壇を贈られて、喜んでいるようだった。
 ところが、二日ほどすると雨が降り出した。
 激しい雨で、見ていると、大事な空き地の花壇の青紫蘇が、バシバシと打ちつける雨脚に押されてしなっている。
 それだけではない。力強い波紋を描きながら、逃げ場を失った雨水が、ついにその空き地全体を池のようにしてしまった。
 こんもりと高く盛り上げておいたはずの青紫蘇の根元の土でさえ、次第に水に流され、今にも倒れそうに傾きかけているものまで出てきた。
――
 私は小さな番傘をさし、裸足でザブザブと水を渡って花壇の様子を見に行った。
 補修工事は待ったなしの緊急事態だ。
 私は必死になって、手頃な石ころをたくさん拾ってきた。
 傘はすぐに放り出し、土が流れるのを防ごうとして、一本一本の根のまわりをその小石で囲んでいった。
 しかし、瞬く間に、情け容赦のない広い空き地の水は、石をも越えてしまった。
 石ころも、根っこも、すっかり水浸しだ。
 葉っぱは、ますます悲しげに震えている。
 心配で胸が張り裂けそうになった子供は、両手で番傘の柄をぎゅっと握りしめ、哀れな彼らの上に傘をさしかけた。
 絶え間なく傘を叩いて降る雨の音、自分がずぶ濡れになっている感覚、部屋の中で小さな弟が走り回るドタドタというこもった足音。
 自分自身も一本の草のように震えながら、それらの音を聞き、感じながら、子供は長いあいだそこに立ち尽くしていた。

〔一九二六年九月〕

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