しかし、間もなく一つの奇跡が起こり始めました。
その障害があるからこそ、伊曾はかえって劉子に強く惹かれるのを感じ始めたのです。
劉子にとって、その性的不具は、ある種の完成形のように見えました。
本当に、劉子は驚くべき完成された存在でした。
彼女は柔軟さや知性、健康といった女性の美徳をすべて理想的に備えながら、しかもそれらが衰えていくこととは無縁の、異常なまでの少女でした。
美しさに付きものの「壊れやすさ」が、彼女には欠けていたのです。
その障害ゆえに、劉子の美しさは象牙の彫像のように、永遠に色あせることのないものでした。
これは永遠の障害であり、同時に完成でもあったのです。
すべての女性は、その美の脆さによって男性の心の隙間に入り込みます。
しかし劉子の場合、彼女はその美の硬さによって、伊曾の強さの隙間に入り込んだと言うべきでしょう。
彼は劉子を驚異の目で見つめました。
彼はまるで、新しい意識に目覚めた子供のような輝く瞳で彼女を見たのです。
全く別の情熱が彼を捕らえていました。
レカミエ夫人の秘密について彼が持っていた法医学的な知識が、劉子への愛慕を不思議なほど神聖なものに変えてしまったのです。
彼らは主に朝の時間、外苑の透明な空気の中で会うことにしました。
劉子は彼女の家に近い小さな陸橋を渡ってやってきます。
伊曾は反対側の、赤レンガの兵舎の陰を、朝焼けで紫色に染まりながら大股で歩いてやってきました。
そして大抵は先に着いて、青いベンチの前の砂利に日傘の先で何かを描きながら、注意深く周囲を警戒しているらしい彼女を発見するのでした。
芝生の植え込み越しに、彼は遠くから劉子の姿を見つけるのです。
足音が聞こえる距離になっても、彼女は決してその美しい姿勢を崩そうとはしませんでした。
しっかりとした足音が彼女の目の前で止まると、はじめて劉子は顔を上げ、きっぱりとした態度で伊曾を真っ直ぐに見つめました。
その瞳は、まるで彼らの恋愛を問い詰めるかのように、知性によって澄み渡っていました。
伊曾は、外苑の朝の光の中に彼女を置くことを愛しました。
朝の光線は、次第に強まる輝きにもかかわらず、どこかにかすかな暗灰色を秘めていました。
これが彼女の肌の白さに、ある種の潤いを与えているように思えたのです。
彼らは並んでベンチに腰を下ろしました。
伊曾は彼女から漂う強い香気を感じました。
しかし、そこからは何の体温も伝わってきませんでした。
これは他の女性たちとの関係では経験したことのない、不思議な現象でした。
彼は劉子の白い肉体に、人並以上に温かい血が巡っていることを直接触れて知っていました。
しかし、彼女の体温は皮膚の外には全く発散されないようでした。
それは彼女自身の衣服にさえ移らないかのように見えました。
彼女の衣服は、朝の爽やかな風の中でいつも実に端正でした。
伊曾は彼女の中に、何ものにも傷つけられず、何ものをも失うことのない女性の姿を見たのです。
ある日、同じような朝の時間に、劉子が伊曾に言いました。
「女学部の五年に、不思議な線を描く子がいるのよ。不思議というのか、なんだかその子の性格にも、病的な明るさが見えるの」
話は、伊曾が別のことを考えていたため、そこで途切れてしまいました。
彼らが別れるとき、劉子は日傘を広げて立ち上がりながら、また急に思い出したように早口で言いました。
「さっきお話しした子、明子さんって言うの。自分でもあなたにデッサンを見てほしいらしいから、いつかそのうち伺わせてもいい? 眼鏡をかけた弱そうな子だから、あなたには気に入らないかもしれないけど」
伊曾は特に興味も感じませんでした。
それどころか、なぜ劉子がその子のことを二度も口にしたのか、不思議にさえ感じたのです。
やがてある土曜日の朝、明子が一人で伊曾のアトリエを訪れました。
彼女はちょうど奥の窓から額のあたりに落ちる、キラキラした朝の日光を眩しそうに目を細めながら、敷居の上で爪先立つようにして黒い外套(がいとう)を脱いだのでした。すると、無邪気な濃紺のジャンパースカートの胸元から、ポプリンのブラウスがはみ出て、まるで乱れた花のようにいい香りを漂わせているのが見えました。
少女は素足のすねを少し寒そうに伸ばしながら、奥まった一角に朝の服装のまま立っている伊曾の方へ、臆することなく進んでいきました。
「ごめんなさい、お兄様。私、とうとう来てしまいましたの。劉子姉さまが、来てもいいっておっしゃってくださいましたから」
少女は伊曾と向き合って立つと、そう言って少し口元をほころばせ、憂鬱そうな笑みを浮かべました。
伊曾は、そこから虫歯が見えはしないかと気になりました。
彼女は、少し背伸びをしているように見えました。
顔色は青白く、光沢が鈍いものでした。
縁なしの近眼鏡のレンズだけが、滑らかな光を彼女の顔にゆらゆらと反射させ、妙に大人びた表情を作り出していました。
伊曾は、ちぐはぐな印象を受け取りました。
ちぐはぐなところは、いたるところに見受けられました。
第一、「お兄様」という呼びかけからして、伊曾を少し戸惑わせるものでした。
――この少女は、親しくもない男を習慣的にこう呼ぶ癖があるのだろうか。それとも、一応は理性で考えを巡らせて、つまり劉子姉さまと呼んでいることと対照させて、そう呼ぶことに決めてきたのだろうか。
伊曾は知らず知らずのうちに明子を品定めするような態度になりながら、そんなことを思い悩んでいました。
後者だとすれば、口調に自分と劉子の関係を忖度したようなわざとらしさが見えないところが奇妙です。
やはり前者(癖)に違いあるまい。
……しかし、少女は伊曾の沈黙を怪しむような眼差しで、この時彼を見上げていました。
彼は何か言わなければならなくなりました。
「明子さん、あなたは僕に絵を見せに来たのでしょう?」
なるべく優しい口調になろうとした余勢で、それが子供に対する大人の話し方のように響いたことに気づき、伊曾はハッとしました。
ですが少女は素早くそれを利用して、子供っぽい口調で話し始めました。
「劉子姉さまはそうおっしゃいましたわ。でも本当は、それはどうでもいいことでしたの。ただお兄様にうまくお会いできれば、それでよかったのですから。……でも、何だか悪いような気がしますから、やっぱり見ていただきますわ。私の絵って、これ。手当たり次第に引っ張り出してきましたの」
明子はいたずらっぽそうな笑みを一瞬見せながら、三枚の素描を膝の上の画板から抜き出してテーブルの上に並べました。
並べる指もやはり青白く、光沢が鈍いものだと伊曾は気づきました。
彼女は急いでそれを引っ込めました。
伊曾は仕方なくテーブルの上を一瞥しました。
三枚とも、少女の裸体の習作でした。
「なぜ風景画を持ってこなかったんです?」
「風景画は、私、嫌いですから」
「じゃあ、なぜ静物を。例えば花を……。最初から人体を描くのは無理ではないですか?」
「私、花は下手なんです」
そんな話をしながら、伊曾は次第に注意深く素描に見入っていました。
「これはモデルを使ったんですね」
「え、どれ?」
明子は覗き込むように首を伸ばしました。その体が不自然に揺れたように思えました。
初級翻訳・青いポアン 第2話
神西 清
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