初級翻訳・魚と白鳥 第2話

小川 未明

白鳥が子どもの訴えを聞き入れるはずもありません。
白鳥は子どもをくわえたまま、ある大きな岩の上に止まりました。
そして魚の子どもを岩の上に置くと、こう言いました。
「もうおまえは帰ることはできない。俺はおまえを捕まえたとき、すぐにひと飲みにしようと思ったが、おまえのような小さなものを飲んだところで、腹の足しにもなりゃしない。それよりも、俺の子どもに食べさせてやりたくて、ここまで持ってきたのだ」と、情け容赦なく言いました。

子どもは、お母さんの言うことを聞かなかったことを、初めて後悔しました。
白鳥は岩の上で自分の子どもを呼びました。
するとどこからか、小さな白鳥が日の光を浴びて、雪のように白い翼を輝かせながら飛んできました。
「おまえの大好きな魚を持ってきてやったよ」と、白鳥の母親は自分の子どもに言いました。
小さな白鳥は珍しそうに、かわいい黒い丸い目つきで、魚をじっと見つめていました。
「さあ、よく噛んでお食べ」と、母親は小さな白鳥に注意を与えていました。

このとき、魚の子どもは、母親が「いつでも危ないときには、できる限りの力を出して跳ねろ!」と言っていたことを思い出しました。
彼はふいに、命がけの力を出して、力いっぱい跳ね上がりました。
魚の子どもは岩を飛び越して、水の中へと落ちました。
「しめた!」と思うと、すぐに深く、深く、水の底へと沈んでいきました。

白鳥は残念がりました。そして子どもの白鳥に、注意が足りないと言って叱りつけました。
小さな白鳥は、ただ驚いて目を丸くしているばかりでした。
しかしこの経験によって、魚の子どもは賢くなりました。
もうけっして、うかつには跳ねてはいけないことを知ったのです。
また、どういうときにこそ自分は跳ねなければならないのかということを学びました。
小さな白鳥もまた、この出来事によって、初めて獲物を捕らえるための敏捷な本性を目覚めさせられたのでした。
こののち、どんなときに油断をしてはならないかということを、彼らは学んだのです。春も過ぎて、夏がやってくるころには、あの魚の子どもは、もうすっかり立派な大人になっていました。
やがて、その魚も自分でお母さんになりました。
あの小さな白鳥も、大きく成長しました。
そして、魚は水の中を気ままに泳ぎ回り、白鳥は空を自由に翔けめぐっていたのであります。

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