とはいえ、確かに自分の目で見たのですから、考えれば考えるほど不思議でたまりません。
そこで、すぐそばの柱の下で死んだように座り込んでいた叔母の尼を抱き起こすと、妙に照れくさいような気持ちを隠しながら、「竜を……ご覧になれましたかな?」と、おずおずと尋ねました。
すると叔母は大きなため息をつき、しばらくは口もきけないのか、ただ何度も恐ろしそうに頷くだけでしたが、やがて震える声でこう答えました。
「見たとも、見たとも。金色の爪をきらめかせていた、真っ黒な竜神様だったねえ」
そうとなれば、竜を見たのは、鼻の大きな得業法師である恵印の目のせいだけではなかったのでしょう。
いや、後で世間の評判を聞くと、その日そこに居合わせた老若男女は、ほとんど皆、雲の中に黒竜が天へ昇る姿を見たということでした。
その後、恵印は何かの拍子に、実はあの立て札は自分の悪戯だったと白状してしまいましたが、恵門をはじめとする仲間の法師たちは、誰もその告白を本気にはしなかったそうです。
結局、あの立て札の悪戯は図星だったのでしょうか。それとも的を外れていたのでしょうか。
鼻の大きな、あの得業法師・恵印に尋ねたとしても、おそらくこの問いへの答えだけは持ち合わせていないに違いありません……。
三
「なるほど、これは不思議な話じゃ。昔はあの猿沢池にも竜が住んでいたようだな。いや、昔も今も関係ない。昔は間違いなく住んでいたはずだ。昔は世の中の人間が皆、心の底から水底には竜が住んでいると信じていた。そうすれば竜もおのずと天地の間を飛び回り、神のように時折不思議な姿を見せたはずじゃ。
だが、わしに講釈をさせるより、お前たちの話を聞かせてくれ。次は行脚の法師の番だな。
何? その方の物語は、池の尾の禅智内供(ぜんちないぐ)という、鼻の長い法師のことか? これはまた、鼻の大きな法師の話の後だけに、一段と面白そうだな。では、早速話してくれ――」
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