いっそのこと、これは竜宮さまへ差し上げてしまおう」
そう言って、海の中に天の羽衣を投げ込むと、さっさと家に帰って布団に入り、寝てしまいました。
すると間もなく、戸口で鈴をつけた馬の音が聞こえてきました。それが止まったかと思うと、誰かがトントンと戸を叩きます。
「どなたですか、こんな時間に戸を叩くのは?」と、おじいさんは眠い目をこすりながら尋ねました。
「こちらが『慈悲心正助(じひしんしょうじょ)』さんという方のお家でしょうか?」
「ええ、そうですよ。あなたはどちらからおいでになりましたか?」
「少し、ここを開けてください。そうすればお分かりになります」
おばあさんもその物音に目を覚ましました。
そして起きて戸を開けてみると、驚いて、思わず「あっ!」と叫び、しりもちをつきそうになりました。
というのも、そこには一匹の大きなタツノオトシゴがいて、金銀や珊瑚、真珠で飾られた鞍が置かれていました。その上には、魚の形をした冠をかぶり、鱗の模様が入った広袖の着物を着た美しい女が立っていたのです。
おばあさんはすっかり驚いてしまいました。
「じいさん、じいさん! 大変なものが舞い込んできたよ。お化けが来た! 早くこっちへ来て戸を閉めておくれ。私は怖くて、もう足も腰も立たないよ!」とおばあさんは叫びました。
おじいさんもびっくりして飛び起きてくると、この有様でした。
けれども、やはり男らしく、気を落ち着けて尋ねました。
「もしもし、お姫さま。あなたはどうしてここへおいでになったのですか? そして、この慈悲心正助に何の御用があるのでしょうか?」
タツノオトシゴの背に乗った美しい女は答えました。
「ちっとも怖がることはありませんし、驚くこともありません。私は竜宮から来た使いの者です。正助さんを竜王さまと乙姫さまがお呼びでございます。どうぞお手数ですが、少し私についてきてください」
正助おじいさんは、最初は少し怖がって一緒に行くことをためらいましたが、案内役がたおやかな女性なので、何事もないだろうと安心してその人について海岸まで行きました。すると、そこには別の一匹のもっと大きなタツノオトシゴがいて、正助おじいさんを乗せると、竜宮の使いを先頭にして波の中へサッと駆け込みました。
すると不思議なことに、正助おじいさんたちが進む先は、まるで壁で仕切ったかのように海の水が両側に分かれて、陸の上を歩くのと少しも変わりがありませんでした。驚いて後ろを振り返ってみると、そこはもう一面の水ばかりで、真っ白な波が恐ろしい勢いで吼え、ぶつかり合いながら岸の方へ押し寄せているのが見えました。
二、三キロほども進んだでしょうか、突然、目の前に立派なお城が現れました。
近づいてみると、門には「竜宮」という文字が真珠を溶かして書かれ、それを赤い珊瑚の玉で縁取った素晴らしい大きな額が掲げられていました。その中には、鱗模様の着物を着て、魚の形をした冠をかぶった番兵が立っていました。
正助おじいさんはこの門を通ってお城の中へ入りましたが、あまりの美しさにうっとりとして、危うく乗っていた竜の背中から落ちそうになることが何度もありました。
とある玄関で馬ならぬ竜を降り、迎えに来た女官に連れられて立派なお座敷へ案内され、しばらく待っていると、竜王さまと乙姫さまがたくさんの家来を引き連れてお出ましになりました。
「これ、正助よ」と竜王さまが仰いました。
「お前が夕方、私にくれた天の羽衣は、この乙姫がずっと前から手に入れたくて、どうしても叶わなかったものなのだ。それがお前の慈悲深い心掛けのおかげで、思いがけず手に入った。乙姫はもちろん、私もこの上なく満足している。何はなくとも、まずは一献楽しんでおくれ」
そこで大変立派なご馳走が振る舞われ、正助おじいさんはすっかりいい気分で酔いしれ、夜が更けるのも忘れていました。そのうちに東の空が白んできたので、ようやく我に返ってお暇乞いを申し上げると、乙姫さまは侍女に命じて一つの美しい箱を持ってこさせました。
「正助や」と乙姫さまは仰いました。
「この箱には一匹の犬が入っています。これはお前が天の羽衣を私に贈ってくれたお礼です。侍女から、この犬の育て方をよく聞いて帰りなさい」
正助おじいさんはありがたく受け取り、また元の通りに竜の背に乗せてもらって海岸まで送ってもらいました。その時、侍女はこう言いました。
「この犬には、毎日小豆を五合ずつ、よく煮て食べさせてあげてください。そうすれば、夜中にフンの代わりに五合分の黄金を出してくれます。ただし、五合以上は決して食べさせてはいけませんよ。そこはよく気をつけてくださいね」
なるほど、侍女が教えた通り、五合の小豆をよく煮て食べさせると、その犬は夜中に五合分の黄金を出してくれました。おかげで、おじいさんもおばあさんもあっという間に大金持ちになりました。
しかし、欲がなく慈悲深い二人ですから、手に入れた黄金も近所の貧しい人々に分け与えていたので、村の誰もがこの二人の老人を褒めないものはいませんでした。
ところが、その隣に一人の有名な強欲なおばあさんがいました。慈悲心正助の家が急に大金持ちになったことに不審を抱き、ある日その家へ行って、どうしてそんなに金持ちになれたのかと尋ねました。
慈悲心正助は正直な人柄ですから、すべてを打ち明けて話しました。すると、欲張りなおばあさんは「それなら私にその犬を二、三日貸してちょうだい」と言いました。
「ええ、お安いご用ですよ。さあ、どうぞお持ちなさい」と、正助の家では快く犬を貸してやりました。
しかし、二、三日どころか五日経っても、六日経っても犬を返してきません。不思議に思って様子を見に行くと、欲張りおばあさんはひどい剣幕で怒鳴りつけました。
「お前たちは大うそつきだ! 黄金を出すどころか、ひどいフンばかりするので、腹が立って火吹き竹で叩いてやったら死んでしまったよ。だから裏の掃き溜めに捨てておいたわ!」
「おやおや、ひどいことをしますね。そんなはずはありませんが、おばさん、私の言った通り五合の小豆を煮て食べさせましたか?」
「小豆を煮て食べさせたに決まっているだろう! でも二、三日しか借りられないんだから、その間にたくさん黄金を出させようと思って、一升も食べさせたんだよ。そうしたら一升分もフンをひりやがって、本当にひどい目に遭わされたんだ!」
「ああ、それはダメですよ。五合以上食べさせてはいけないと言ったでしょう。犬がかわいそうなことをしました。どれ、せめて死骸だけでも葬ってあげましょう」
そこで正助おじいさんは掃き溜めの中から犬の死骸を拾い上げ、きれいに洗い清めて、土でできたかまどの横に埋めました。するとすぐにそこから榎(えのき)が芽を出して、正月の十七日にはその枝にたくさんの大判小判の金貨がなりました。
お正月に飾る繭玉(まゆだま)の由来は、これだと言い伝えられています。
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