初級翻訳・耳長さん と あひるさん 第1話

村山 籌子

ある朝のことです。
耳長さんが一人でランニングの練習をしていると、一匹のあひるさんがそばへやって来ました。
それは、とてもずる賢くて小さな、真っ白なあひるさんでした。
あひるさんは、耳長さんにこう言いました。
「ねえ、ぼく、すごく面白い遊びを知っているんだよ」

そこで耳長さんは、気が弱いわりに何でも知りたがる性格だったので、さっそくその話に飛びついて、目を丸くして言いました。
「なに? 面白い遊びって?」
「ボタン遊びさ」と、あひるさんはもったいぶって答えました。
「ボタン遊びなんて、ぼく知らないよ。教えてよ!」と、耳長さんはあひるさんの手を引っ張りました。
「とっても簡単なんだ。勝ったほうが、ボタンをもらえるのさ」
あひるさんがボタン遊びについて説明すると、耳長さんはすぐに勝てるような気がしました。山ほど勝ち取ったボタンを持って帰ったら、お母さんはどんなに喜んでくれるだろう、と思いました。
「家からボタンをいくつ持ってきたらいいの?」と耳長さんが聞くと、あひるさんは言いました。
「家からわざわざ持ってこなくたって、ほら、ここにあるじゃないか」
そう言って、あひるさんは耳長さんの洋服についているボタンをプチッと引きちぎりました。
耳長さんは「なるほど、いい考えだ!」と大喜びでそのボタンを出して遊びましたが、結局負けてしまいました。
耳長さんはがっかりしました。
「今度はきっと君が勝つよ」とあひるさんが言うので、耳長さんはまたその気になって、残りのボタンもちぎって出しました。
そうして、着物についていたボタンは一つ残らず、すべて負けて取られてしまいました。
あひるさんは、勝ち取ったボタンをザラザラとポケットに入れると、「グッドバイ、バイ!」と言って飛んでいってしまいました。

家に帰ると、耳長さんはお母さんにこってりと叱られました。
「早くベッドへ行って寝なさい。お母さんがボタンを縫いつけておいてあげますから。なんてお前さんはお馬鹿さんなんでしょう。明日、学校の先生にそのことをお話ししなくちゃなりませんね」
耳長さんは心配でたまりません。お母さんが明日、学校へ行くと言っているのですから。
悲しくてピーピーと泣いていると、その声を聴きつけたずるいあひるさんが、窓の外からこっそりのぞき込んで、あっかんべえをしました。
耳長さんはベッドの中に潜り込み、涙でぐしゃぐしゃになりながら決心しました。
「もう二度と、あんなつまらないことはしないぞ」と。
それからは、耳長さんはあひるさんに出会っても、決して相手にしないことにしたのでした。

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