初級翻訳・芋粥 第4話

芋粥

東山だと思えば山科、山科だと思えば三井寺。あげくが越前の敦賀とは、一体どういうことでございますか。最初からそうおっしゃるなら、下人なりとも連れてまいりましたものを。――敦賀とは、とんでもない」
五位は、今にも泣き出しそうな顔で、ぶつぶつとつぶやきました。もし「芋粥を腹いっぱい食べる」という期待が、彼の勇気を奮い立たせなかったとしたら、彼は恐らくその場から引き返し、京都へ一人で帰ってしまったことでしょう。

「利仁が一人いれば、千人の味方がいるのと同じだと思えばいい。道中の心配など無用だ」

五位が狼狽するのを見て、利仁は少し眉をひそめながら、からかうように笑いました。
そして、荷物係を呼び寄せると、背負っていた弓袋(壺胡)を背負い、さらにその手から黒い漆塗りの真弓を受け取って鞍の前に横たえ、先頭に立って馬を進めました。

こうなってしまっては、気の弱い五位は利仁の意のままに従うよりほかありません。
彼は心細げに、荒れ果てた周囲の原野を眺めながら、うろ覚えの観音経を口の中で必死に唱え、例の赤鼻を鞍の前輪にすりつけるようにして、頼りない馬の歩みを、相変わらずとぼとぼと進めて行きました。

馬のひづめの音が響く野原は、茫々と広がる枯れ草に覆われ、あちこちにある水たまりも冷たく青空を映したまま、この冬の午後にはそのまま凍りついてしまいそうな様子です。
その果てには山脈が連なり、夕日に背を向けているせいか、輝く残雪の光もなく、紫がかった暗い色を長く横たえています。しかし、それさえも物寂しい枯れススキの群れに遮られ、二人の従者の目にはよく見えません。

――すると、利仁が突然、五位の方を振り返って声をかけました。
「おっ、いい使いがやって来たぞ。敦賀への伝言を頼むとしよう」

五位は利仁の言っている意味がよくわからず、恐る恐る弓で指さされた方を見ました。
もちろん、人の姿など見える場所ではありません。ただ、野葡萄か何かのつるが茂みに絡みついている中を、一匹の狐が暖かい毛の色を傾きかけた日にさらして、のそりのそりと歩いているだけです。

――と思っているうちに、狐は慌ただしく身を躍らせて、どこへともなく一散に走り出しました。利仁が急に鞭を鳴らして、その方へ馬を飛ばし始めたからです。
五位も我を忘れて利仁の後を追いました。従者たちも、もちろん遅れてはいられません。
しばらくは、石を蹴る馬のひづめの音がカッカッと荒野の静けさを破っていましたが、やがて利仁が馬を止めるのを見ると、いつ捕まえたのか、もう狐の後ろ足を掴んで逆さまに鞍の脇へぶら下げていました。
狐が走れなくなるまで追い詰めたところで、馬の下に敷くようにして手取りにしたのでしょう。

五位は薄い髭にたまる汗を慌ただしく拭きながら、ようやくそのそばへ馬を寄せました。

「おい、狐よ。よく聞け」
利仁は狐を高く目の前へつり上げながら、わざと大げさな声でこう言いました。
「お前は今夜中に、敦賀の利仁の館へ行ってこう伝えろ。『利仁はただいま、急に客人を連れて行くところだ。明日、午前十時頃に高島のあたりまで男たちを迎えに寄越せ。それに、鞍を置いた馬を二頭、引かせて来い』。いいか、忘れるなよ」

言い終わると同時に、利仁はひと振りして狐を遠くの茂みの中へ放り投げました。

「いやあ、走る走る!」
ようやく追いついた二人の従者は、逃げていく狐の行方を眺めながら、手を叩いて囃し立てました。
落ち葉のような色をしたその獣の背は、夕日の中を木の根も石ころも構わず、どこまでもまっしぐらに走っていきます。
一行が立っている場所から、その様子は手にとるようによく見えました。狐を追っているうちに、彼らは荒野が緩やかな斜面を作って、水の枯れた川底と一つになるちょうど上のところへ出ていたからです。

「なんと豪快な使いの頼み方でございましょう」
五位は無邪気な尊敬と感嘆を漏らしながら、この狐さえ顎で使う野育ちの武人の顔を、今更のように仰ぎ見ました。
自分と利仁との間にどれほどの身分の差があるか、そんなことを考えている暇はありません。ただ、利仁の意志に支配される範囲が広い分、その意志の中に包容される自分の意志も、それだけ自由が利くようになったのだと、心強く感じるだけです。
――へつらいというものは、恐らくこういう時に最も自然に生まれてくるものなのでしょう。
読者は今後、赤鼻の五位の態度に道化のようなものを見出したとしても、それだけで軽々しくこの男の人格を疑ってはなりません。

放り出された狐は、向こう側の斜面を転げるように駆け下りると、水の無い川底の石の間を器用にぴょいぴょいと飛び越え、今度は向こう側の斜面へ勢いよく斜めに駆け上がりました。
駆け上がりながら振り返ると、自分を捕まえた侍の一行はまだ遠い傾斜の上に馬を並べて立っています。
それが皆、指を揃えたほどに小さく見えました。特に夕日を浴びた月毛と蘆毛の馬は、霜を含んだ空気の中で、絵に描いたよりもくっきりと浮かび上がっています。
狐は頭を巡らせると、また枯れススキの中を風のように走り出しました。

―――――――――――――――――

一行は予定通り、翌日の午前十時ごろ、高島のあたりへ到着しました。そこは琵琶湖に面した、小さな集落でした。昨日とは違って、どんよりと曇った空の下、いくつかの藁葺き屋根の家がまばらに散らばっているだけで、岸辺に生えた松の木々の間には、灰色の波紋を浮かべた湖面が、磨くのを忘れた鏡のように、寒々しく広がっています。

――ここまで来ると、利仁は五位を振り返って言いました。
「あれをご覧ください。男たちが迎えに来たようですぞ」

見ると、なるほど、二頭の鞍を置いた馬を引いた二十人から三十人ほどの男たちが、馬に乗っている者も徒歩の者も、皆、水干(すいかん)の袖を冷たい風になびかせながら、湖の岸、松の木々の間を通って一行の方へ急いでやって来ます。やがてそれが目の前に迫ると、馬に乗っていた連中は慌ただしく鞍から降り、徒歩の連中は路傍にひざまずいて、皆、恭しく利仁の到着を待ち受けました。

「やはり、あの狐が使いを勤めたと見えますな」
「もともと化け物ですからな。あれくらいの用をこなすのは、何でもありませんよ」

五位と利仁がそんな話を交わしている間に、一行は家来たちが待つ場所へ到着しました。
「ご苦労であった」と利仁が声をかけます。
ひざまずいていた連中は忙しく立ち上がり、二人の馬の口を取りました。急に、その場の空気が陽気になりました。

「昨夜、珍しいことがございましてな」
二人が馬から降りて、敷物の上に腰を下ろすか下さないかのうちに、檜皮色(ひわだいろ)の水干を着た白髪の家来が利仁の前へ進み出て、こう言いました。
「何事だ」利仁は、家来たちが持ってきた篠竹の枝や料理の入った箱を五位にも勧めながら、鷹揚に問いかけました。

「それがですね。昨夜、戌の刻(午後八時頃)のこと、奥様が急に人心地を失われましてな。『私は坂本の狐だ。今日、殿が仰せられたことを言伝てするから、近くに寄ってよく聞け』と、こう仰るのです。そこで一同が伺いますと、奥様は『殿は今、急に客人を連れて下られるところだ。

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