初級翻訳・芋粥 第6話

芋粥

最後にその山の芋が一つも筵の上に見えなくなった時、芋の匂いと甘葛の匂いを含んだ幾筋もの湯気の柱が、もうもうと晴れた朝の空へ舞い上がっていくのを見ました。
これを目の当たりにした彼が、今、提に入れられた芋粥を前にして、まだ口をつける前から満腹を感じたのは、おそらく無理もないことでしょう。

五位は提を前にして、間の悪そうな顔で額の汗を拭いました。
「芋粥に飽きられたことがないそうですね。どうぞ、遠慮なく召し上がってください」
舅の有仁は、子供たちに言いつけて、さらにいくつもの銀の提を膳の上に並べさせました。
中にはどれも、芋粥が溢れんばかりに入っています。五位は目を閉じ、ただでさえ赤い鼻をいっそう赤くしながら、銀の提(ひさげ)に入った芋粥を大きな土器(かわらけ)にすくい、嫌々ながら飲み干しました。
「父もそう申しております。どうか、遠慮は無用ですよ」
利仁もそばから新しい提をすすめ、意地悪く笑いながらそう言いました。
困り果てたのは五位です。本音を言えば、最初から芋粥など一椀だって飲みたくはありません。それを今、我慢して、ようやく提の半分だけ平らげたのです。これ以上飲めば、喉を通るどころか吐き出してしまいそうです。かといって、飲まなければ利仁や有仁の厚意を無にしてしまいます。そこで彼はまた目を閉じ、残りの半分を三分の一ほど飲み干しました。もうこれ以上は一口も吸い込むことさえできません。
「何とも、かたじけのうございました。もう十分頂戴いたしました……いやはや、本当に、かたじけのうございました」
五位はしどろもどろになって、そう言いました。よほど弱っているのか、口ひげにも鼻の先にも、冬とは思えないほどの汗が玉になって垂れています。
「これはまた、ずいぶんと小食ですな。客人は、遠慮をされていると見えたぞ。おい、お前たち、何をぼんやりしている。さっさとついでやれ」
子供たちは有仁の言葉に従って、新しい提の中から芋粥を土器に汲もうとします。五位は両手をハエでも払うように動かして、必死に辞退の意を示しました。
「いや、もう十分でございます……失礼ながら、もう十分でございます」
もしこの時、利仁が突然、向こうの家の軒先を指差して「あれをご覧なさい」と言わなかったら、有仁はなおも五位に芋粥をすすめ続けていたかもしれません。
しかし幸いなことに、利仁の声は一同の注意をその軒先へと向けさせました。檜皮葺(ひわだぶき)の軒にはちょうど朝日が差しています。そして、そのまばゆい光の中で、つややかな毛皮を輝かせながら、一匹の獣がおとなしく座っていました。見るとそれは一昨日、利仁が枯れ野の道で素手で捕らえた、あの坂本の野狐でした。
「狐も、芋粥が欲しくて見参したようだ。お前たち、あいつにも振る舞ってやれ」
利仁の命令は即座に実行されました。軒から飛び降りた狐は、すぐさま広庭で芋粥の馳走にあずかったのです。
五位は、芋粥を食べている狐を眺めながら、ここへ来る前の彼自身を懐かしく心の中で振り返りました。
それは、多くの侍たちに愚弄されている彼です。京の子供にさえ「なんだ、この赤鼻めが」と罵られている彼です。色のあせた水干(すいかん)に指貫(さしぬき)をつけ、飼い主のいない野良犬のように朱雀大路をうろついて歩く、哀れで孤独な彼です。
しかし、同時にまた「芋粥を腹いっぱい食べたい」という欲望を、ただ一人だけ大切に守り続けていた、幸福な彼でもありました。
――彼は、これ以上芋粥を飲まずに済むという安心と共に、顔中を覆っていた汗が、次第に鼻の先から乾いていくのを感じました。
晴れてはいても、敦賀の朝は身に染みるほど風が冷たいのです。五位は慌てて鼻を押さえると同時に、銀の提に向かって大きなクシャミを一つしました。

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