初級翻訳・虹猫の大女退治 第1話

ファイルマン ローズ

木精(もくせい)の国を発(た)って行った虹猫(にじねこ)は、しばらく旅をしているうち、ユタカの国という大変美しい国に着きました。
ここは不思議な国でした。
大きな森もあれば、言葉では言い表せないほど美しい色や匂いのする花がいっぱいに咲いた、大きくて大きな野原もありました。
空はいつも青々と澄みわたっていて、その国に住んでいる人たちはいつも何の不満もなさそうに、ニコニコしています。
でも、たった一つのことが気にかかるのでした。
そのわけは、この国の真ん中の、高い岩の崖の上に、一つの大きなお城が立っているからです。
そのお城には――土地の人たちが虹猫に話したところによると――一人の悪い大女がいて、この国の人たちをさかんにいじめ、いつも、物を盗んでいきます。
ひどいことには、子供までもさらっていくのでした。
虹猫は、実際に、目のあたりこの大女を見たという人には、誰とも会いませんでした。
けれど、大女の恐ろしい顔や、そのすることについて、身の毛もよだつような話を聞かされたのです。
なんでも、その大女は、ふつうの人間の背の三倍も高くて、その髪の毛は太い縄のようによれており、目からは炎が吹き出している。
くしゃみをすると、まるで雷が鳴るような、すごい音がして、木や草は嵐にあったように吹きなびかされる。
地団駄(じだんだ)をふむと、小さな村なんか一ぺんでひっくり返ってしまう。
そればかりでなく、その大女は魔物だけあって、魔法をつかうことができるというので、土地の人たちは何よりもそれを一番恐れていました。
暗い夜など、大女は六匹の竜にひかせた車に乗って、お城から降りてくるということでした。
だから、土地の人たちはそのすごい音を聞くと、めいめい自分の家に逃げ込んで戸を閉め、窓に鍵をかけて、ブルブル震えているのでした。
うちにいても、納屋だの倉だの小屋だのを大女が家探しして、牛や馬を引き出していく音が聞こえるのでした。
そうかと思うと、暗闇のうちに大きな声がして、
「こら、きさまらの宝を出せ、出さないと子供をとっていくぞ」
という叫びが聞こえるのです。
土地の人たちは、しかたなしに窓を開けて、こわごわ、その宝物を外に投げ出すのです。
またときには、いつの間にやら立札が出て、これこれの品物をお城の門のところへ持って来て置かないと、大女が降りてきてみんなをひどい目にあわすぞと書いてあることもあります。
土地の人たちは、その立札どおりに品物を持って行っていってお城の門へ置いてきますが、そのたんびに、そこで見てきたいろんな恐ろしい話を伝えます。
ある人は、大女の靴を女中が磨いているのを見たと言います。
その靴は、ちょうど干し草を積んだ大きな荷車ほどの大きさだったという話です。
またほかの者は、大女が洗濯物を縄に干しているのを見て、腰を抜かすほど驚いて走って自分の家に帰ったが、一週間ばかりは起きることができなかったとも言います。
けれども、一番悪いことは、家のそばを少し遠く離れた子供が、ふっと姿を隠して、それきり帰ってこないことでした。
取り残された子供の話によると、とほうもなく大きなマントを頭からかぶった、正体のわからないものが、どこからかひょっこり飛び出して、自分たちの仲間の一人を引っさらって森の中へ走って逃げたということでした。
だから、親たちは、ちょっとの間でもその子供から目を離すことができなくなって、いつ大女が出てくるかと、そればかり心配しているので、幸せというものが、国じゅうからだんだん消えてなくなりました。
虹猫の知恵は、もうこの国にまでも聞こえていましたから、土地の人たちはその来たのを見ると大喜びで、どうかいい知恵を貸して、助けてくださいと頼みました。
虹猫は、これはなかなか面倒な仕事だと思いましたけれど、土地の人たちがあまりにも気の毒なものですから、できるだけのことはいたしましょうと約束しました。
そこに着いてから二日目の夕方、虹猫は小さな袋を持って、こっそり大女のいるお城をさして出かけました。
袋の中には、雷からからもらった稲妻と、木精の国で手に入れた、見通しのきく千里眼の水とが入っていました。
虹猫は、土地の人たちには何も言いませんでした。
言ったからといってどうにかできるわけでもなし、ただ心配を増やすだけのことですから。
だから、うまい計略を考えるため、少し散歩してくると言っただけで出かけたのです。
虹猫は身軽に岩の突き出た険しい道を上ったり下りたりして、とうとうお城の壁のま下まで来ました。
お城にはすばらしく大きな二つの石の塔が、一方の端ともう一方の端とに一つずつ立っていて、その高い煙突からは、毒々しい、みどりやら、紫やら、黒やらの煙がもくもくと上がっていました。
「なるほど、あれは大女が恐ろしい魔法の薬をこしらえているんだな」
と、虹猫はひとりごとを言いました。そこで、塔の下のところに腰を下ろし、袋から千里眼(せんりがん)の水が入った小さな小瓶を取り出して、自分の目にぬり、お城の中をすっかり見通そうとしました。

すると、ふしぎなことに、お城の中にいるのは大女ではなく、長いごま塩ひげを生やした、きたならしい魔法使いのおじいさんであることがわかりました。
頭にはやたらに高い帽子をかぶり、大きな炉(ろ)を前にして、広い部屋の中に住んでいたのです。
お部屋には、いかにも変で恐ろしい形をした品物が壁にかかっていたり、戸棚の中にしまわれていたりして、床の上にもテーブルの上にも、魔術の本が山のようにつみ重ねられていました。
魔法使いは腰に大きな鍵の束をぶらさげて、火にかけた真っ黒な鍋の中で、何やらぐちゃぐちゃと煮え立っているものを、しきりにかき混ぜていました。
虹猫がさきほど煙突から立ちのぼるのを見た煙は、そこから出ていたのです。

炉の火の光で、鍵につけた札に書いてある文字が読めました。
「金の箱」「銀の箱」「宝石の箱」「大女の部屋」「牢屋(ろうや)」「大女の庭」。
そんな札が鍵についていたので、虹猫にはだんだん事情が分かってきたように思われましたが、もっとよく確かめてやろうと思い、小さな袋を手に取って、こっそりお城のもう一つの端へと歩いて行きました。
そして、そこの塔の下に腰をおろすと、また例の千里眼の水を目にぬりつけたのです。

今度、その目にうつったのは、子どもたちが一ぱいに集まっている大きな部屋でした。
子どもたちはいそがしそうに働かされていました。
ある子は、妙な草をより分けています。
別の子は、重い石で、なんだか変なものをつきくだいています。
また別の子は、正体のわからない水薬を、この瓶からあの瓶へと、おずおずした手つきではかって、一滴一滴うつしていました。
みんな青ざめた顔をして、疲れきっているように見えます。
誰一人として、仕事をしながら笑ったりおしゃべりしたりする子はいません。
すっかり元気をなくしていて、子どもらしくもないのでした。

そのとき、ふと戸口が開きました。
中に入ってきたものがあります。
それはほかでもない、大女でした。
けれども、それを見た虹猫は、二度びっくりすることになりました。

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