さあ走ろう、さあ!
ほら!」
「痛いよ!
放せったら放せってば!
えい、ちくしょう!
」
「早く、早く!
ほら、もう大丈夫だから。
おや?
君の靴がボロボロじゃないか。
いったいどうしちまったんだい?」
カン蛙のゴム靴は本当にボロボロになってしまい、足のあちこちにちぎれかすとなって飛び散り、跡形もなく消えてしまいました。
カン蛙はなんとも言えない恨めしそうな顔をして、口をむにゃむにゃと動かしました。
実はこれ、歯を食いしばっているところなのですが、蛙には歯がないのでむにゃむにゃと動かすよりほか仕方がなかったのです。
二匹はやっと手を離すと、わざとらしく両側からお世辞を並べ立てました。
「君、そんなに気を落とさないほうがいいって。
靴なんて、あってもなくても、可愛いお嫁さんがちゃんとやって来るんだからさ!
」
「もう時間じゃないのかい?
帰ろう、帰ろう。
家に帰って待っていようよ、ねえ、君。
」
カン蛙はすっかりふさぎこみながら、しぶしぶと歩き出しました。
※
三匹がカン蛙の家に到着してからしばらくして、ずっと向こうの方から、フキの葉を傘のようにかざしたり、ガマの穂を旗のように立てたりしながら、華やかなお嫁さんの行列がやって来ました。だんだん行列が近づいてくると、お父さんであるがん郎のヘルが、
「おい娘や、婿殿はあの三人の中のどいつなんだい?」とルラ蛙を振り返って尋ねました。
ルラ蛙は、小さな目をパチパチさせました。
というのも、最初にカン蛙を見たときは、実はゴム靴のほかにまったく気を取られていなかったので、三匹とも裸足でぞろりと並ばれてしまうと、実際どうしていいか分からなくなってしまったのです。
そこで仕方なく、
「もっと向こうへ行かないと、よく分からないわ」と言いました。
「そうですとも。
間違っては大変です。
よく落ち着いて」と、仲人のカエルも後ろから言いました。
ところが、もっと近くに来ると、ますます分からなくなりました。
三匹とも口が大きくて、黒っぽくて、目の飛び出し具合も本当によく似ているのです。
これにはいよいよ本当に困ってしまいました。
しかしそのうち、一番右端にいたカン蛙がパクッと口を開け、一足前に出ておじぎをしました。
そこでルラ蛙もやっと安心して、
「あの方よ」と言いました。
さて、それから式が始まりました。
その式の盛大なこと、ごちそうの立派なことといったら、とても書ききれないほどでした。
とにかく式が無事に終わり、向こうの一行はみんな引き上げていきました。
そのときちょうど、入道雲の峰が一番まぶしく輝いていました。
「さあ、新婚旅行だ!」とベン蛙が言いました。
「僕たちはすぐそこまで見送るよ」とブン蛙が言いました。
カン蛙も仕方なく、ルラ蛙も連れて新婚旅行に出かけました。
そして、あっという間にあの木の葉をかぶせた杭の穴のところに来たのです。
ブン蛙とベン蛙が、
「ああ、ここは足場が悪いなあ。
お婿さん、手を引いてあげよう」と言いながら、カン蛙が断る暇も与えず、両側から手をつかみました。そして自分たちは穴の両側を歩きながら、無理やりカン蛙を穴の真上へと引っ張っていきました。
すると、カン蛙の乗った木の葉がガサリと音を立て、カン蛙はふらふらっと一寸ほど穴へめり込みました。
ブン蛙とベン蛙がクルリと外側を向いて逃げようとしましたが、カン蛙がピタリと両方ともしがみついてしまったため、二匹の踏ん張った足がプルプルッとけいれんし、その次にはついに「ポトン、バチャン!」と落ちてしまいました。
三匹とも、杭穴の底の泥水の中に落ちてしまったのです。
上を見上げると、まるで小さな丸い空が見えるだけで、輝く入道雲の峰がほんの少しだけのぞいていましたが、カエルたちはもういくらもがいても、つかまるものは何もありませんでした。
そこでルラ蛙は、昔習った六百メートルの奥の手を出して、一目散にお父さんのところへ走って行きました。
しかし、お父さんたちは酒に酔っていてみんなぐうぐう眠っており、いくら起こしても起きませんでした。
そこでルラ蛙はまたもとの場所へ走って戻り、穴のまわりをぐるぐるぐるぐる回って泣きました。
そのうち、だんだん夜になりました。
パチャパチャ、パチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起こしても起きませんでした。
夜が明けました。
パチャパチャ、パチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起こしても起きませんでした。
日が暮れました。
入道雲の頭が赤く染まります。
パチャパチャ、パチャパチャ。
ルラ蛙はまたお父さんのところへ行きました。
いくら起こしても起きませんでした。
夜が明けました。
パチャパチャ、パチャパチャ。
入道雲。
ペネタの形(※すり鉢状の形)。
ちょうどこのとき、お父さんのカエルはやっと目が覚めて、ルラ蛙がどうなったか見ようと思って出かけてきました。
するとそこには、ルラ蛙が疲れ果ててまっ青になり、腕を胸の前で組んだまま、座ったままで眠っていました。
「おい、どうしたんだい? おい!」
「あらお父さん、三人ともこの中へ落っこちているわ。
もう死んできたかもしれないわよ」
お父さんのカエルは自分が落ちないように気をつけながら、穴の口に耳をピタリとつけて音を聞いてみると、かすかにピチャという音がしました。
「しめた!」と叫んで、お父さんは急いで家に帰り、仲間のカエルたちをみんな連れて来ました。
そして林の中から日陰のカツラ(植物)の蔓(つる)を取ってきて、それを穴の中につるし、ついに一匹ずつ穴から引き上げました。
三匹とも、すでに白いお腹を上に向けて目を閉じ、口も固く結んで半分死んでいました。
みんなでゴマザイ(植物の毛や繊維)の毛を取ってきて体をこすってやったり、いろいろと手当てをして、やっとのことで助け出しました。
それからというもの、カン蛙はやっとルラ蛙といっしょになることができ、ほかのカエルたちも大いに心を改めて、みんなよく働くようになりました。
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