初級翻訳・赤いくつ 第3話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

それでカレンは、自分をあんなにもかわいがってくれたお年寄りの奥さまが亡くなったことを悟りました。
そして、自分がまわりのすべての人たちから見捨てられ、神さまの天使からも呪いを受けているのだということを、胸の底から思い知ったのでした。

それでもカレンは、やはり踊り続けました。
いやおうなしに、踊らされたのです。
真っ暗な闇の夜も、休むことなく踊っていなければなりませんでした。
くつはカレンの意思などお構いなしに、いばらのしげみや鋭い切り株の上へと引っ張り回したので、カレンの体や手足はあちこち引っかかれ、血を流してボロボロになりました。

カレンはとうとう荒野を横切り、そこにポツンと一軒だけ建っている小さな家のほうへ踊っていきました。
カレンは、その家に首切役人が住んでいることを知っていました。
そこでカレンは、窓のガラス板を指でトントンと叩いて、こう言いました。
「どうか、出てきてください!
――出てきてください!
――踊っていなければならないので、わたしはこの中に入ることができないのです!」
すると、家の中から首切役人が出てきて言いました。
「お前は、おそらく自分が話している相手が誰だか分かっていないのだろう。
わたしは、おので悪い人間たちの首を切り落とす役人だ。
ほら、わたしのおのは、あんな風に唸っているではないか」
カレンは言いました。
「どうか、私の首を切ってしまわないでください。
そんなことをされたら、わたしは自分の罪を悔い改めることができなくなってしまいますからね。
けれども、どうかこの赤いくつといっしょに、わたしの足を切り落としてくださいな!」

そこでカレンは、自分のこれまでの罪をすっかりざんげしました。
すると首切役人は、赤いくつを履いたままのカレンの足を、おので切り落としたのです。
恐ろしいことに、切り落とされたくつは、小さな足首がついたまま、畑を越えて奥深い森の中へと踊り去っていきました。

その後、首切役人は、松葉杖と、一本の木のつぎ足(義足)をカレンのためにこしらえてくれました。そして、罪人がいつも歌う悲しい賛美歌の歌詞をカレンに教えてくれたのです。
カレンは、おのを使ったその役人の手にそっと接吻(せっぷん)すると、荒野を横切って、その家をあとにしました。
(さあ、わたしは赤いくつのおかげで、もう十分すぎるほどの苦しみを受けたわ。
これからは、みんなに生まれ変わった姿を見てもらうために、お寺へ行ってみましょう……)こうカレンは心の中で思って、お寺の入口の方へ急ぎましたが、そこにたどり着いたとき、赤いくつが目の前で踊っていました。
カレンはびっくりして、慌てて引き返してしまいました。
まる一週間というもの、カレンは悲しくて、悲しくて、いじらしい涙を流して、何度も何度も泣き続けました。
けれども日曜日になったとき、
(今度こそわたしは、十分すぎるほど苦しみもしたし、戦いもしてきました。
もうわたしだってお寺に座って、頭を高く上げて、少しも恥じるところのない人たちと、おんなじくらい正しい人になったと思うわ。)
こう思い思い、カレンは勇気を出してお出かけしてみました。
けれども墓地の門にもまだ入らないうちに、カレンは自分の目の前を踊っていく赤いくつを見たので、すっかり怖くなって、心の底からしみじみと自分の過ちを悔やみました。
そこでカレンは、教会の牧師さまの家へ行って、どうぞ女中として使ってくださいと頼みました。
そして、なまけずに一生懸命、働けるだけはたらきますと言いました。
お給金などはいただこうとは思いません。
ただ、心の正しい人たちと一つ屋根の下で暮らさせていただきたいのです。
そう言うので、牧師さまの奥さまは、カレンをかわいそうに思って雇うことにしました。
そしてカレンは大変よく働き、考え深い人にもなりました。
夕方になって、牧師さまが大きな声で聖書を読み上げると、カレンは静かに座って、じっと耳を傾けていました。
子どもたちはみんな、カレンのことがとても大好きでした。
けれども、子どもたちが着物のことや、身のまわりのこと、あるいは王さまのように美しくなりたいなどと話し合っているとき、カレンはただ首を横に振るばかりでした。
次の日曜日に、みんな連れ立ってお寺に出かけました。
そして、カレンも一緒にいかないかと誘われました。
けれどもカレンは、目にいっぱいの涙をためて、悲しそうに松葉杖をじっと見つめていました。
そこで、人びとは神さまの御声を聞くために出かけましたが、カレンはひとりがっかりして、自分の狭い部屋へ入っていきました。
その部屋は、カレンのベッドと一脚の椅子とが、やっと入るくらいの広さしかありませんでした。
そこにカレンは、賛美歌の本を持って椅子に座りました。
そして信心深い心持ちでそれを読んでいると、風に乗って、お寺で弾くオルガンの音が聞こえてきました。
カレンは涙で濡れた顔を上げて、
「ああ、神さま、わたくしをお救いくださいまし」
と言いました。
そのとき、お日さまはいかにもうららかに輝きわたっていました。
そしてカレンがあの晩お寺の戸口のところで見た天使と同じ天使が、白い着物を着て、カレンの目の前に立ちました。
けれども今度は鋭い剣のかわりに、ばらの花がいっぱい咲いた見事な緑の枝を持っていました。
天使がそれで天井に触れますと、天井は高く高く上へ上へと昇っていって、触られたところはどこも残らず、金の星がきらきらと輝きだしました。
天使はつぎにぐるりの壁に触れました。
すると壁はだんだん大きく大きく横に広がっていきました。
そしてカレンの目に、鳴り響くオルガンが見えました。
むかしの牧師さまたちやその奥さま方の古い像も見えました。
信者たちは、飾り立てた椅子に座って、賛美歌の本を見て歌っていました。
お寺ごとそっくり、この狭い部屋の中にいるかわいそうな女の子のところへ動いてきたのでございます。
それとも、カレンの部屋がそのままお寺へ持ち上げられたのでしょうか。
――カレンは、牧師さまの家族たちといっしょの席についていました。
そしてちょうど賛美歌を歌い終わって顔をあげたとき、この人たちはうなずいて、
「カレン、よくまあ、ここへ来ましたね」
と言いました。
「これも神さまのお恵みでございます」
とカレンは言いました。
すると、オルガンは鳴りわたり、子どもたちの合唱の声はやさしく、かわいらしく響きました。
うららかなお日さまの光が、窓からあたたかく流れこんで、カレンの座っているお寺の椅子を照らしました。
けれどもカレンの心はあまりにお日さまの光であふれて、平安と喜びであふれて、そのため胸がいっぱいになってしまいました。
カレンのたましいは、お日さまの光に乗って、神さまのところへと飛んでいきました。
そしてもうそこでは誰もあの赤いくつのことを尋ねるものはありませんでした。

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