」
大友君の声が、そう答え、指のつめで、コツコツと、鉄ごうしを、たたいてみせました。
「ぼくは、ねむっているあいだに、四角なメガネをかけた老人のために、透明人間にされてしまったんだ。
そして、はだかにされて、ここへ、とじこめられたんだよ。」
いまにも泣きだしそうな、かなしい声でした。
捜索隊の人々は、手に手に懐中電灯を照らしていましたが、それは青白い、よわい光で、くらやみをはらいのける力はありません。
そのくらやみの中から、すがたの見えぬ少年の、かなしげな声だけが、聞こえてくるのです。
「ぼくたちは、この地下道の中を、ぜんぶしらべたが、そんな老人はどこにもいなかったよ。
だけど、なんだか、目に見えないやつが、いくにんもいるような気がするんだ。」
小林君が言いますと、大友君の声が、それをひきとって、
「じゃ、それは一号から三号までの透明人間だよ。
一号というのは、世間をさわがせた、あの透明怪人で、二号と三号は、まだ、そとへ出ることを、ゆるされていないんだ。
その三人が、目に見えないのをさいわいに、この穴の中に、のこっているのかもしれないよ。」
「フーン、すると、きみをまぜて、四人も透明人間をつくったんだね。
いったい、そんなにたくさん、目に見えない人間を、つくって、どうするつもりなんだろうね。」
黒川記者が、小林君の横から口だしをしました。
大友君の声が、それに答えます。
「ああ、黒川さんですね。
四角なメガネの老人は、おそろしいことを、考えているんですよ。
何千、何万という透明怪人をつくろうというのです。
そうすれば、どんなことだってできる。
警察も軍隊も、何もおそろしいものがない、だれにもまけやしないと言うのですよ。」ぼくはそれをきいて、びっくりしてしまいました。
黒川記者も、中村係長も、小林少年も、警官たちも、しばらくは口もきけませんでした。
透明怪人の大集団というものが、大友少年が考えるいじょうに、おとなたちの胸にこたえたからです。
もし、そういう透明軍ができたら、原子ばくげきよりも、もっとおそろしいことがおこるのではないかと考えたからです。
警察はひとりの透明怪人にさえ、なやまされていたのです。
それが十人になり、百人になり、千人になり、万人になることを思うと、ゾーッと心のそこが、つめたくなるのでした。
まるで、こわい夢を見ているような、いやな気持ちです。
中村係長は、そんなことになっては、たいへんだと思いました。
日本だけではない、世界じゅうの人が、ふるえあがるような、おそろしいことになる。
いまのうちに、はやく怪老人をとらえて、その発明をぶちこわしてしまわなければ、と考えるのでした。
「アッ、ここに、だれかいる。」
そのとき、とつぜん、黒川記者のさけび声がきこえました。
大友少年のとじこめられている鉄ごうしには、出入り口のひらき戸があって、そとから大きな錠がかかっているのですが、黒川記者は、ちょうど、そのひらき戸の前に立っていたのです。
「だれかいる。」と言う声をきくと、三人の警官がそこへ、かけよりました。
しかし、まにあいませんでした。
こうしになった鉄の戸が、ガチャンとひらいて、また、ガチャンと、しまってしまいました。
「透明怪人だッ。
いま、透明怪人が、この戸をひらいて、中へはいったのだッ。」
黒川記者がさけびました。
そこには、透明怪人の第何号かがしのびよっていたのです。
そして、あいかぎで錠をひらいて、鉄ごうしの戸をひらき、牢屋の中へ、はいっていったのです。
すると、そのとき、鉄ごうしの中から、
「だれだッ。
アッ、何をするんだッ。」
と言う、大友少年のさけび声が、聞こえました。
いま、はいった透明怪人が、大友君をどうかしているのです。
「大友君、どうしたんだ。
そこに、だれがいるんだ。」
中村係長が、大声でどなりました。
そして、三人の警官の懐中電灯が、鉄ごうしの中を、あちこちと、照らしました。
しかし、何も見えません。
そこは、まったくのからっぽなのです。
そのからっぽのところから、「ハッ、ハッ。」と言う、苦しそうな人間の息づかいが聞こえてきます。
ひとりではなく、ふたりのちがった、息づかいが、かさなりあって、聞こえるのです。
「大友君、へんじをしたまえ、どうしたんだ。
何がおこったんだ。」
係長がもう一度、どなりました。
「大友君!」「大友君!」
小林君とふたりの少年も、声をかぎりに、さけびました。
しかし、二つの息づかいは、ますます、はげしくなるばかりです。
大友少年と、もうひとりの透明人間とが息をきらして、とっくみあっているようです。
二ひきの大きなクラゲが、やみのなかで、もつれあっているのです。
そのとき、大友君の苦しそうな、しわがれ声が、きこえてきました。
「アッ、ちくしょう……、こいつ、こいつは、第一号だッ……。
小林君……、第一号の怪人が、ぼくを……ぼくを、つかまえて、どっかへ、つれていこうとしているんだッ。」
あいてに口をおさえられるのを、ふりはなし、ふりはなし、さけんでいるような、とぎれとぎれの声です。
「アッ、たすけて、たすけて……。」
そのまま、ムーンと口をふさがれたように、声が消えてしまいました。
「大友君、いま、たすけてやるから、しっかりしろッ。」
中村係長は、さけびながら、鉄ごうしの戸のそばへ、かけよりました。
しかし、まにあわなかったのです。
アッと言うまにつむじかぜのようなものが、サーッ、とふきすぎました。
鉄ごうしの戸が、中からパッとひらいたのです。
そして何か大きな、やわらかいクラゲのようなものが、その前に立っていた黒川记者をつきとばして、くらやみの中へ、逃げさりました。
黒川記者は、そのいきおいに、思わずうしろによろめき、そこにいたひとりの警官に、ぶっつかりました。
そして、ふたりは、かさなりあって、たおれてしまったのです。
中村係長と小林少年が、そのそばにかけよります。
「黒川君、しっかりしたまえ、どうしたんだ。」
「逃げた。
あっちだ。
透明怪人が、大友君をかかえて、ぼくをつきとばして、逃げたんだ。
早く、おっかけてください。」
係長をさきにして、みんなが、黒川記者のゆびさす方角へ、懐中電灯をふり照らしながら、かけだしました。
しかし、あいては目に見えないやつです。
それに、すみずみは、やみにとざされた洞窟の中です。
警官たちが、いくらあせっても、もう、まにあいません。
いくらさがしても、ついに透明怪人はみつかりませんでした。古井戸の底
捜索隊の人々は、洞窟の中の部屋という部屋をさがしまわったあと、入り口のところまで戻ってきました。
その入り口の穴には、細い紐(ひも)が縦や横にしっかりと張りめぐらされ、透明怪人が逃げ出せないようになっています。
そして、穴の外には三人の警官が見張りを続けていました。
「きみ、異状はなかったかね?」
中村係長が、穴の外の警官に声をかけました。
「はあ、異状ありません」
「この細い紐は、すこしもうまらなかったのだね?」
「はあ、動きませんでした」
もし透明怪人がここを通って逃げたとすれば、必ず紐が揺れるはずです。
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