そのとき、きこりは不意に窓からひょっこりと顔を出して、
「こらこら、坊や! こんどはおじさんと相撲を取ろうじゃないか!」
と言いながら、のこのこと家の中に入っていきました。
そして、いきなり金太郎の前に自分の毛むくじゃらの手をぐっと差し出しました。
山うばは「おやまあ!」と言ってびっくりしたような顔をしましたが、金太郎はおもしろがって、
「いいよ、相撲を取ろうぜ!」
と、すぐにむくむくと太ったかわいらしい手を元気に出しました。
そこでお互いに、しばらくの間まっかな顔をしながら、うーんとうなり合って押し合いをしました。
すると、きこりはふいっと力を抜いて、
「もうやめにしよう! これじゃあ勝負がつかないや」
と言って、パッと手を引っ込めてしまいました。
それから、きこりはきりっと座りなおして、山うばの方を向いてていねいにおじぎをすると、
「突然こんなふうにお邪魔して、本当に失礼いたしました。実はさっき、あそこの谷川のそばで、ぼっちゃんがものすごく大きな杉の木を素手で押し倒したのを見てびっくりし、おどろいてここまでついてきたのです。そして今こうして腕ずもうをしてみて、この子が本当にものすごい力持ちだということがよくわかりました。この子はきっと、将来ものすごい大立者(おとな)の勇士になりますよ!」
こう言ってから、今度は金太郎の方をパッと向いて、
「どうだい、坊や! ぼくと一緒に都へ行って、立派なお侍にならないかい?」
と言いました。
金太郎は目をくりくりっとさせて、
「わあ、本当かい! お侍になれたらいいなあ!」
とうれしそうに答えました。
この、きこりの格好をしていた人は、実は名前を碓井貞光(うすいさだみつ)といって、その当時日本で一番えらい大将としてとっても有名な、源頼光(みなもとのよりみつ)という人の家来だったのです。
貞光は、自分のご主人である頼光から「強くてすごい侍を探してきなさい!」という命令を受けて、こんなふうに変装しながら日本の国中をあちこ치歩きまわっていたのでした。
山うばもその話を聞くと、ものすごく大喜びして、
「実は、この子の亡くなったお父さんも、坂田という立派な苗字を持ったお侍でございました。いろいろなわけがあって、今はこうして山の中に隠れて暮らしておりますけれども、何か良いチャンスさえあれば、いつかは都へ出して立派なお侍にして、家の名前を継がせてやりたいとずっと思っていたのです。そういうお話でしたら、この子は見てのとおりのすんごい腕白坊主でございますが、どうかよろしくお願いいたします!」
と、うれし涙を浮かべそうなほど喜んで言いました。
金太郎はすぐそばで二人の話を聞いていて、
「やったあ、うれしいな! おれ、お侍になるんだ!」
と言いながら、その場でピョンピョンと小踊りをして大喜びしました。
金太郎がいよいよ碓井貞光に連れられて、遠い都へ出発することを聞きつけて、森の熊も、鹿も、猿も、うさぎも、みんな揃って最後のお別れを言いにやって来ました。
金太郎はみんなの頭を順番にナデナデしてあげて、
「みんな、これからも仲よく元気で遊ぶんだよ!」
と言いました。
動物たちはみんな、
「金太郎さんがいなくなっちゃうなんて、とってもさびしいよ……。早くもっとすごい大将になって、またぼくたちの顔を見せに帰ってきてね!」
と言いながら、名残惜しそうにしょんぼりしながら帰っていきました。
金太郎はおかあさんの前にピシッと手をついて、
「おかあさん、それでは行ってまいります!」
と言いました。
そして、貞光のあとについて、ちょっぴり得意そうな誇らしい顔をしながら、元気に出発していきました。
それから何日も何日も長い旅をして、貞光は金太郎を連れてついに都へ帰ってきました。
そして、頼光のお屋敷へ行って、
「足柄山の奥ですごい子どもを見つけてまいりました!」
と、金太郎をご主人である頼光の前に連れていきました。
「ほう、これはめずらしい! いかにも強そうな子供だなあ」
頼光はそう言いながら、金太郎の頭をやさしくなでてくれました。
「だが、金太郎という名前はお侍にするにはちょっと子どもっぽくて変だな。お父さんの苗字が坂田というのなら、今日から『坂田金時(さかたのきんとき)』と名乗るがよい!」
こうして、金太郎はこれからは『坂田金時』というかっこいい名前になり、源頼光の立派な家来になりました。そして大きくなると、立派なお侍になって、渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべのすえたけ)、碓井貞光(うすいさだみつ)といっしょに、頼光の「四天王(してんのう)」と呼ばれるようになりました。
初級翻訳・金太郎 第2話
楠山 正雄
コメント